米国Connecticut大学医学部のSamantha Frank氏らは、エアロゾルを生じさせる耳鼻咽喉科的手技を実施する前の感染予防策として、0.5%以上のポビドンヨード(PVP-I)を含む消毒液を鼻腔内に投与して15秒間洗浄を行うことを想定して、in vitroで消毒液のウイルス培養実験を行ったところ、この処置でSARS-CoV-2は完全に不活化できたと報告した。結果はJAMA Otolaryngol Head Neck Surg誌電子版に2020年9月17日に掲載された。
耳鼻咽喉科での感染リスクの低減には、主に物理的な遮蔽と個人防護具が用いられている。患者と医療従事者の鼻腔内の消毒によるウイルス除去は、感染リスク低減に役立つと言われており、そうした目的でのPVP-Iの利用法については様々なプロトコルが提案されている。SARS-CoVとMERSを対象としたin vitro実験では、濃度が0.23%でも不活性化できることが示されている。SARS-CoV-2の場合は、in vitroで、0.5%ポビドンヨード含有うがい薬を作用させると、15秒でウイルスを不活性化できると報告されていた。
そこで著者らはin vitroで、様々な濃度のPVP-Iを含む鼻腔内消毒液を用いた処置のSARS-CoV-2不活化効果と必要な洗浄時間を検討し、耳鼻咽喉科の外来や手術室における感染予防に役立つ情報を提供しようと考えた。SARS-CoV-2を用いる実験は全て、Utah州立大学のInstitute for Antiviral Researchのバイオセーフティーレベル3実験室で行った。
実験に用いたPVP-I消毒液は米国Veloce BioPharma社の製品で、有効成分はPVP-Iのみだ。今回の実験には、この消毒液と、SARS-CoV-2 USA-WAI/2020株を利用した。消毒液とウイルス液を1対1で混合し、最終的なPVP-I濃度が0.5%、1.25%、2.5%になるよう消毒液を調整した。混合後は、平均室温22度(SDが2)で15秒または30秒反応させた。陽性コントロールとして70%エタノールを、陰性コントロールとして水を用いた。
消毒液で処理した後のウイルス力価は、細胞の50%に感染することができるウイルスの量を表す50%細胞培養感染量(50% cell culture infective dose、CCID50)により評価し、対数減少値をコントロールと比較した。主要評価項目は、介入から15秒後と30秒後の対数減少値に設定した。
15秒処理した実験では、対照となった陰性コントロールのウイルス力価は3.67 log10 CCID50/0.1mLだった。濃度0.5%、1.25%、2.5%のPVP-I消毒薬は、15秒以内にSARS-CoV-2を完全に不活性化していた。残存ウイルス力価はいずれも検出限界未満になり、0.1mL当たりのCCID50に基づく感染価の対数減少値は、すべて3 log10超だった。陽性コントロールの70%エタノールは、15秒間ではSARS-CoV-2を完全に不活化できなかった。残存ウイルス力価は1.5 log10 CCID50/0.1mLで、対数減少値は2.17 log10だった。作用時間を30秒にすると、陽性コントロールでも残存ウイルス力価は検出限界未満になり、完全に不活性化された。
今回の実験では、0.5%以上の濃度のPVP-Iは、15秒という短時間のうちにSARS-CoV-2を不活性化した。PVP-Iによる鼻腔内洗浄は1.25%以下なら安全であることが示されており、個人防護具に追加することにより感染リスクを下げるために役立つと著者らは結論している。また、SARS-CoV-2が最も感染しやすいのは鼻粘膜の線毛細胞で、ウイルスはそこから口咽頭、肺へと侵入していくという仮説が報告されているため、ウイルス量を減らすことによって重症化を防ぐ可能性もあると述べている。なお、PVP-Iを含む洗浄液を用いた鼻洗浄は、ヨードアレルギーの患者、妊婦、活動性の甲状腺疾患患者、放射性ヨウ素内用療法を受けている患者には禁忌とされている。
