野田 智義, 金井 壽宏
リーダーシップの旅 見えないものを見る

次世代リーダー養成塾NPO法人「ISL」理事長の野田氏と神戸大学教授の金井氏の共著で、リーダーシップについて考察しています。
いろいろな理論などを引用して議論を進めていますが、読んでいて、結局、「リーダーとは、自分の中に「夢」や「志」を持っていて、熱意を持ってそれを実行しようとする人であり、リーダーシップは結果として持つものである」というもので、リーダーシップの育成とかリーダーシップについての分析とかを行ってもあまり意味はないような感じがしました。
本書で議論しているリーダーシップが大企業の経営者やミドルを前提としていように感じるのも、少し興を削がれる感じです。
また、他の社会科学の分野では、脳の機能や遺伝子レベルの研究などと融合しているなかで、そういう視点が見られないことにも少し物足りなさを感じました。

マーク・アレン, 和仁 達也
ビジョナリービジネス 明確なビジョンを描けばビジネスは必ず成功する

スモールカンパニーを大手出版社にまで育て上げた著者が、自らの実体験にもとづく成功法則を物語形式で解説した本です。
ビジョナリービジネスの鍵を以下の12の章に分けてタイトルをつけています。
「「理想の状態」をビジュアル化する」「スッキリと先の先まで見通せるビジネスプランを描く」「自分にとっての、より高い目的を見つける」「会社の利益を最優先させる」「従業員には気前よく利益を分配する」「ゴールに導かれる経営-具体的な計画がビジョンを支える」「十分に与え、そして与えられる」「その仕事に情熱を持った人を雇う」「直観が発する小さな声を聞き、それを信頼する」「会社の成長段階に合わせて、つき合い方を変える」「お金を儲けたい理由を知る」「自分独自のやり方で、ビジョナリービジネスを創り出す」
正しい目標を強く明確に望めば自然と結果はついてくるというようなややスピリチュアルな部分と具体的なビジネスプランについての考え方や会社の運営についてのアドバイスが適度にあって前向きになれる本です。
ただ、著者も友人からは削除したほうがいいと勧められたというエピローグの部分はやはり載せるべきではなかったと思います。
ひとつの家族が世界から貧困をなくし、世界の人々の自己実現を助けるという物語は、人間の多様性についての観点が全く欠けており、そこまでの著者の述べてきたことを薄っぺらいものに感じさせます。
まさに蛇足という言葉にぴったりのエピローグでした。

斎藤 美奈子
それってどうなの主義

「それってどうなの主義」とは、何か変だなあと思ったときに、とりあえず「それってどうなの」とつぶやいてみる。ただそれだけの主義です。
それってどうなの主義者連盟(略称「そ連」)というのはなかなかいいネーミングだなぁと思います。
本書は、著者が、過去10年ぐらいの間に「言語」や「新潟日報」「朝日新聞」「世界」などに書いた文章をまとめたものです。
著者とはほぼ同じくらいの世代なので、感覚的に合うものを感じます。
合わないひとには合わないのでしょうが、ぼくには面白く読めました。

ひろ さちや
「狂い」のすすめ

本書は「「狂い」のすすめ」「人生は無意味」「人間は孤独」「「遊び」のすすめ」の4章から成っています。
著者は仏教をベースとした多くの著書を著していますが、本書では、古典や仏教のほか、キリスト教の教えをなども引用して、生き難い現代での気持ちの持ちようを説いています。
「「狂い」のすすめ」では、閑吟集から「何せうぞ くすんで 一期は夢よ ただ狂へ」の歌を引用し、「狂者の自覚」を持てといいます。
世間の「太鼓持ち」にならず、自由に生きよと説いています。
「人生は無意味」では、サマーセット・モームの「人間の絆」から人間の歴史を「人は、生れ、苦しみ、そして死ぬ」の一行で要約した話を引用し、人生に意味を求めないようにといいます。
イスラムの「インシャラー(=もしも神がそれを望んでおられたなら)」を神に下駄を預ける「神下駄主義」と呼び、明日のことに思い悩まず、現在を楽しむことを述べています。
以下、人間関係、人間の価値などについて語り、最後に、人間は神(仏)のシナリオに従って生きているのであり、「遊び」の哲学を持ってプレイしましょう、と説いています。
読みやすい文章で、ちょっと悩んでいるときには、心が少し軽くなるような本です。

デービッド・ボーンスタイン, 井上英之, 有賀 裕子
世界を変える人たち―社会起業家たちの勇気とアイデアの力

「子どもを守る、24時間の電話(インド)」「社会起業家のさきがけ、ナイチンゲール(イギリス)」「世界の環境政策を変えた男(アメリカ)」「貧しい村に電気を(ブラジル)」「社会主義国に誕生した、障害者の「夢の家」(ハンガリー)」「スラム街の子を病気から守る(ブラジル)」「低所得者の大学進学支援(アメリカ)」「差別の国でエイズ患者を救う(南アフリカ)」「車イスから世界を変える(インド)」「2500万人の幼い命を救ったユニセフ事務局長(アメリカ)」 と10人の社会起業家を紹介したあと、後半はアショカ財団の活動を紹介しています。
社会起業家とは、社会的な問題をビジネスの手法を用いて解決する人々のこと。
著者は、この「社会起業家」を「社会の重要な問題を解決に導くために新しいアイデアを抱き、不屈の精神でビジョンの実現を目指す人々、頑として弱音を吐かず、決して諦めずに、どこまでもどこまでもアイデアを広げていく人々である。」と定義しています。
一般的な社会貢献活動と異なるのは、現実的な事業家の視点があるということでしょう。
新たなアイデアを広げていくという点ではベンチャー企業と共通しています。
異なる部分は、求めるものが金銭的な成功なのか、社会を変えることなのか、というところだと思いますが、峻別されるようなものでもなく、境界線にある事業もあると思います。
日本ではまだあまり注目されていませんが、今後、「社会起業家」という概念は浸透してくるのではないでしょうか。

恩田 陸
中庭の出来事

瀟洒なホテルの中庭でのパーティの席上で気鋭の脚本家が不可解な死を遂げたという話が、脚本と現実と平行して進んでいくような話です。
ミステリーだと思うのですが、トリックや動機がいまひとつで、特に魅力的な話とは思えませんでした。

マイケル・J・モーブッシン, 川口 有一郎, 早稲田大学大学院応用ファイナンス研究会
投資の科学 あなたが知らないマーケットの不思議な振る舞い

原題は、「MORE THAN YOU KNOW ~ Finding Financial Wisdom In Unconventional Places」で昨年出版されたものです。
30章のエッセイからなる書で、新しい知見をエピソードを使いながらわかりやすく説明しています。
30章は「投資の哲学」「投資の心理学」「イノベーションと競争戦略」「科学と複雑系理論」の4部に分けられており、どこから読んでもいいような構成になっています。
ひとつひとつの章が短いので、投資について学ぶというよりは、ヒントを得るような種類の内容です。
最近流行りの行動ファイナンスについては特に個人と集団を分けて考えるべきであること、バリュー投資についての種々の考察、資産運用業界の問題など内容は多岐に亘り、読み応えはあります。
特に複雑系に関しては、一時フラクタルなどが流行りましたが、その後も研究が進んでいることがわかります。
べき乗の法則やファットテイルについては勉強になりました。
個人の行動に関しては行動ファイナンス、相場全体の動きについては複雑系ということで学際的な研究が進めば面白いのではないかと思います。

姜 尚中
ニッポン・サバイバル―不確かな時代を生き抜く10のヒント

2005年9月から2006年9月にかけて集英社女性誌ポータルサイトに掲載された「another door~もうひとつの世界へ」を全面的に加筆修正したものです。
一般の人たちから集めた「みんなの声」に答える形で、以下の10章によって構成されています。
「1.「お金」を持っている人が勝ちですか?」「2.「自由」なのに息苦しいのはなぜですか?」「3.「仕事」は私たちを幸せにしてくれますか?」「4.どうしたらいい「友人関係」を作れますか?」「5.激変する「メディア」にどう対処したらいい?」「6.どうしたら「知性」を磨けますか?」「7.なぜ今「反日」感情が高まっているの?」「8.今なぜ世界中で「紛争」が起こっているのか?」「9.どうしたら「平和」を守れますか?」「10.どうしたら「幸せ」になれますか?」
やさしい語り口で、ちょっと子供向けっぽい感じもしますが、「反日」「紛争」「平和」などについては、著者らしい鋭くわかりやすい切り口で語っています。
悩みを持っている若い人たちに読んでほしい本です。

斎藤 美奈子
たまには、時事ネタ

2001年から2006年末まで、婦人公論に連載されたコラムをまとめた本です。
著者の書評や文芸評論は辛口で鋭いと思っていたのですが、時事ネタコラムもなかなかよく、視点がいいなと思いました。
ちょうど小泉政権と重なる時期に書かれたものですが、筋道たった批判を述べています。

立花 隆
ぼくの血となり肉となった五〇〇冊 そして血にも肉にもならなかった一〇〇冊

第1部は、「ネコビル」の中を編集者と2人で回遊しながら、目についた書棚の前での本の紹介、第2部は、週刊文春に連載された「私の読書日記」(2001.3~2006.11)という構成です。
とにかくまず立花隆の蔵書の量と幅の広さに感心します。
ネコビルの中の蔵書3万5千冊をまずノンフィクションの分野からスタートし、初期の執筆スタイルなどに触れながら、カール・ポパー、ジャンバッティスタ・ヴィーコ、ウィトゲンシュタインなどの哲学・思想の本を紹介します。
続いて、石油関連、中東関連、過激派関連ときて、エコロジー、脳、田中角栄、日本共産党、中国関係、性、サル、宇宙、探検ものなどに触れ、聖書、神秘思想、ホワイトヘッドなどのあと、また戦争、アジア関係、古代史などとその興味の広さと深さには圧倒されてしまいます。
週刊文春に連載された読書日記も一般にはあまり読まれていないような本ばかりで、立花隆のアウトプットの背後にあるインプットの膨大さがよくわかります。