留学生に人気のない漢字
最近、いろいろなところで取り上げられるようになった「ヘンな日本語Tシャツ」とか「タトゥー」。私が見た一番変なのは、カナダ人のマッチョな腕に彫られた「冷え性」だった。
「え? これって『Be Cool!』って意味じゃねぇの?」と、ブチキレられた。
私にキレられてもなぁ。彫り師を恨めや。
前置きが長くなったが、英国から来る留学生は自分の名前にアテる漢字を欲しがる。ほぼ自分で決めているけど「ヘンな意味があると困るので、一応確認する」みたいなスタンスで相談してくる。たとえば「カスリーンって『加巣鈴』でおかしくない?」とか。
「そうね、加巣鈴で悪くないけど香寿凛とかもいいんじゃない? どの文字も良い意味よ?」とか言うと大喜びする。彼らの頭の中で「漢字は画数が多い方が美しく、価値がある」のだ。
その頃はまだ銀行に届け印が必要な時代で、知り合いの米国人ローゼンベリーさんは「薔薇実」というハンコ屋泣かせな印鑑を作って自慢していた。
困ったのは、うちに3連チャンで「ベン」がステイしたことだ。彼らは英国に帰れば同じ学部の先輩後輩。良い漢字は先輩から順にとられてしまう。
最初のベンは「あなたは弁が立つんだから、弁護士の弁でいいんじゃない?」
一応、「弁当の弁って言われない?」とか抵抗していたが、気に入ったらしく、サインは早速「弁」にしていた。
2人目と3人目は同時に来て、すごく身長差があるのでお互いに「大ベン」「小ベン」と呼び合っていた。それでも、いざ漢字を決めるとなると「便所の便はイヤだ」とか言い出す。
↓いや、「便利の便」だとは説明したのよ?
大ベンの方は自分で候補を考えて来ていて「勉強の勉はどう?」と言ってきた。
いいんじゃない? 実際、日本人の男性にも多い名前だし。
小ベンは「カッコいい漢字」を先にとられてムクレていた。
私も漢和辞典片手に探すがイマイチ良いのがない。
「鞭はどう? 『鞭声粛々、夜川を渡る』っていう、日本人ならみんな知ってる古事の一節だよ。鞭はムチって意味ね」と言ってみた。
「ムチ?」
「鞭?」
「鞭!」
「コイツうまいことやったな。ムチなんてカッコいいじゃないか! 画数もすげえ多い。こんな字でもベンって読むのかぁ。盲点だったなぁ」
↑感動ポイント、そこなんかいっ!
「小ベン」改め「鞭」は日本がたいそう気に入り、地下足袋を「忍者ブーツ」と呼んで愛用し、結局1年休学して日本中を旅して、農家で働いたりしながら国に帰った。
次に「ベン」に漢字を探せと言われたら、もうネタがない。なにかいいのある?
↓留学生に「おぉ猫の額ですね~」と言われた、うちの北庭の芍薬ちゃん、今まさに花盛りでございます。