レフト側の内野席と外野席を隔てる出入口からはスコアボードがみえる。そこにはチーム名や得点は表示されていないが、カウントボードは稼働している。場内で試合が行われているのは歓声が上がっているのでわかっていたが、そうすると中に入ることもできそうだ。 

 

どうやら中学生の軟式野球のようだ。スタンドには保護者が詰めかけ声援を送っている。みんな選手たちのプレイを一心に見つめているが、私ひとり桜を目当てに入場する。これからスタンドを一周してみるが、保護者からは怪しい人に映ることだろう。

 

2016年、高校野球春季大会で、池田工業高校と田川高校の試合を観戦しにこの球場へやって来た。その頃は池田工業も単独出場が可能で、この試合に勝てば県大会への出場が決まる大事な試合だった。(写真/ライト側の外野席からセンター方向を望む) 

 

しかし、選手層も厚い田川高校が勝つだろうと、スタンドにいる多くの人は思っていたはずだ。私も例外ではなかった。9対5で迎えた9回裏の池田工業の攻撃。それまで好投していたピッチャーがリズムを崩し連打を浴びた。さらにエラーと死球が絡み、気がつけば2点差に迫っていた。なおも無死満塁。(写真/フェンスには広告が掲示されていた痕跡が残る) 

 

池田工業のバッターは三塁線に2塁打を放ち2人の選手が還り同点。こうなると流れは池田工業へ。俄然勢いづいた雰囲気の中、バッターは初球をセンター前に転がしたのだ。まさに奇跡ともいえるサヨナラゲームだった。その試合をこの球場で観戦していたのだ。(写真/センター側からは北アルプスの峰も望める) 

 

そんな凄い試合だけでなく、おそらく珍プレイも見守ってきたはずの桜たち。なにも語らない分だけ愛おしく感じる。信州の桜ヶ丘球場と呼んでも差し支えないようなこの球場のことを思い出し、わざわざ足を運んで本当に良かった。

 

球場を後にして松本方面に向かう。当初、松本歯科大学の桜も綺麗だと考えたが、有名過ぎて名もなき桜とは言い難い。それならば、東山のすそ野を行けば、未知の桜に出会うことができるかもしれないと考えた。(写真/塩尻市は昔からワインの産地で有名なだけにぶどう畑が点在する)
 


2024 名もなき桜に捧ぐポタ Vol.3に続く