2023年9月15日(fri)
2023年1月9日(mon)訪問


今回、初めて木質バイオマス発電所を紹介するが、今後、取り上げる機会は少ないと考え、とりあえず「ダム/水力発電」のカテゴリーで扱わさせていただくことをご承知願いたい。 


 

長野県塩尻市の郊外で、令和2年(2020)10月に運転開始している木質バイオマス(生物資源)発電所の「ソヤノウッドパワー発電所」。定格出力1万4,500kW。年間売電量は一般家庭2万6千世帯分の約9,500万kWh(※1)。初の分野の発電所なので本編での公開を躊躇っていたが、今年8月、この発電所を運用するソヤノウッドパワー株式会社を創業した主要株主の征矢野建材が民事再生法の適応を申請したと大きく報じられた。(写真/入口に設置された木製の社名板) 
(※1)設立時に発表された資料による。 

 

木質バイオマスというと難しく聞こえるが、簡単に言ってしまえば化石燃料を使用せず、木材を燃やした蒸気でタービンを回し電力を生む火力発電所。問題は燃料になる木材の確保で、必要な木材量は年間約14万㌧とされ、これだけの量を集められるのか当初から懸念されていたようだ。(写真/貯木場の奥の一段下がった場所に征矢野建材の木材加工工場がある) 

 

ソヤノウッドパワー発電所の燃料には、主に長野県内各地から建築用材に利用できない間伐材と隣接する征矢野建材の木材加工工場からの木質チップや木質ペレット、端材を用いている。長野県や塩尻市などと共に「信州F・パワープロジェクト」を立ち上げ、長野県内の林業の活性化をも見据えている。(写真/貯木場から発電所設備をみる)
 

 

征矢野建材が倒産したのは、木材が計画通り調達できなかった場合の補償をしていたから。ウクライナとロシアの戦争が勃発し、外材の輸入が減ったこともあるが、2012年にスタートした「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)」がきっかけとなり、同様の木質バイオマス発電所が、2015年には全国に13基だったのが2022年3月時点には105基と急増したことが上げられ木材の供給が分散化された可能性がある。また、燃料チップの原材料価格の上昇も影響しているようだ。(写真/燃料混合建屋に運ばれる木材。ここではチッパーにより破砕すると思われる) 

 

一部推測が含まれるが、燃焼効率のいい大きさに破砕された木材チップはトラックの荷台に積載され、そのままバックで搬入口(写真手前)に接続され、車ごと後ろに傾けて投入される。それらはコンベアにより燃料サイロ(写真右)へと運ばれ、さらにボイラ(写真中)へと運ばれ燃焼させる。 

 

ボイラは荏原環境プラント社の製品が採用されている。木材チップを燃焼させ、水蒸気を発生させるタイプのようだ。燃料設備は三井三池製作所社のものを導入しており、工事も同建設共同企業体が担っている。

 

ボイラで発生した蒸気は直径約6㍍の大型ファンで蒸気を冷やして水に戻す空冷式復水器が採用されている。これらの過程で発生する熱は木材を乾燥するのに利用されているようだ。そう、発電効率を上げるには水分量を減らすことが重要になる。(写真/復水器の横に木材が置かれているのは、そこから温かい空気が流れているという解釈でいいのだろうか) 
 

 

発電された電力は中部電力ミライズに売電されている。売電単価は、未利用材が32円/kWh、一般材が24円/kWhで年間29億円の売上げを目指すと当初の計画にあったが、どれほどの実績を上げているのかは不明だ。木材の種類によって売電単価が異なる理屈も、今の私の知識ではよくわからない。(写真/特別高圧受変電設備から中部電力パワーグリッド中信諏訪線第3号送電鉄塔に接続する)

 

 

木質バイオマス発電所が注目され、この数年で全国にいくつも建造されていることに驚いた。しかし、豊富であるはずの木材が不足しているという。長野は森林県なので、燃料となる木材は難なく集められそうだが実際はそうでもないらしい。(写真/貯木場を写す)


 

期待が高まる再生可能エネルギーだが、水力発電の約80%を除き、発電効率は軒並み約10~20%と低い。地熱発電は燃料という点では問題ないが開発コストが掛かることがネックだった。ソヤノウッドパワー発電所は行政の後押しもあるし、株主には九州電力のグループ企業や北野建設も名を連ねていることから簡単には廃止されないとは思うが、エネルギー問題は知見を深めれば深めるほど難しいテーマだ。(写真/JR中央東線の車内からの遠景=2023年2月21日撮影=)