無戸籍 | ぽたらか

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ぽたらかは20年の歴史を閉じます

定額給付金をもらうために、今お世話をしている孤老たち20人ほどの住民票を設定してやった。

生活保護を受けるには、住所不定でも構わないし、介護サービスを受けるには役所に住所を設定すればいい。しかし、いつまでもそのままでいいわけではなく、本人の記憶を頼りに戸籍を調査し、住所を我々のような無料低額宿泊所に設定しなくてはいけない時が来る。

 

その前に急死した人が、無戸籍だったことが何度かあった。本人が名乗った名前では出生届がなされておらず、おそらく偽名を使って生きていたものと思われる。その理由は多くは借金である。

 

昨年の台風で荒川の増水により、流された河川敷の住人を受け入れたが、内の一人に脳腫瘍がみつかり現在入院している。帰って来れるかどうかはわからない。その人の住所をぽたらかに設定した途端、闇金から督促状がきた。それも、20年以上も前の借金で元金が5万円なのに請求金が54万円という、法外な額を請求してきた。もちろん、時効はとっくに過ぎているので無視しているがー。

 

昔は30代の若いホームレスもいた。もちろん、生活保護など受けてはいない。住まいがあるので仕事がみつかって夜勤の仕事をしていた。親も兄弟もいないというので、誕生日にケーキを手作りしてやった。その頃は2階の和室にこたつを出して、みんなその周りに雑魚寝していた時期なので、彼は夜勤から帰ってそのままうたた寝をしていた。起こさないようにそっと、ごちそうを並べて。『もう、そろそろ起こすべか?』爺ちゃんたちがしびれを切らせて、ゆすって起こした。彼は目をこすりながら、目覚めると目の前にケーキとごちそうが…。「なんすか、これ?」「誕生ケーキだよ。ほれ、名前書いてあるべ。」「マジっすか?俺生まれてから一度も誕生日祝ってもらったことないすよ。あ、ホントだ。俺の名前ここにある。生まれて始めてっすよ。マジっすかー。」泣きながら、マジっすかばかり。

 

彼は生まれて直ぐに親に捨てられた無戸籍児らしかった。ただ、乳児院にでも連れて行かれた方がまだよかった。育ててくれたのが、やくざの親分だった。その環境から十分に縁切れできていたかどうかは疑問だったが、ぽたらかのみんなに囲まれて、穏やかな日々を過ごしていた。

 

ある日、認知症が進んだじいちゃんが真夜中、徘徊して行方不明になった時、警察にも届けたが、彼は本当に心配して、探し回ってくれた。折しも季節外れの初雪があり、「このやろ!雪、降るなって。」天に向かって吠えていた。じいちゃんは明け方、真裏の建物の前で寝ており、おんぶして連れて帰って、服を脱がせるももどかしく、風呂にお湯をはり、そのまま爺ちゃんを突っ込んで温めた。

 

そんな彼は1年ほどして失踪した。その時、手提げ金庫もろとも無くなっていたがー。これはたまたま、家賃を払おうとして大金を入れたままにしておいた私が悪かった。誰かに脅かされていたのなら、正直に言ってくれたらよかったのに。せっかくできた家族を彼はまた失ってしまった。

 

我がぽたらかの住人は戸籍こそあれ、小さいころから家を出て、只管働いて、働けなくなって住む家を失った生涯独身の人が多い。定額給付金のおかげでまあそのうちにと思っていた、みんなの住所設定を全員行う事が出来た。これで全員、晴れて大家族だ。