長編恋愛小説 水たまりの中の青空 ~第一章~(四十九) | toshichanのブログ

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【遅れてきた新人】の、内山敏洋 と申します。 蔵の中に溢れかえっている作品や頭の中に湧き出てくる作品を“どんどんと!”と、考えております。

ショーは五階のフロア全てで行われる。
T字型のステージを囲むように、椅子が並べられている。
ファッションに対する欲求が、戦後の復興と共に高まってきた証しで、椅子がすき間なく並べられている。
時間が押し迫ってからの来場では、確かに良い席は取れないなと、正三も納得した。

小夜子はガランとしたその場に立ち、これから始まるであろうショーに思いを馳せた。
小夜子の知らぬ世界が、眼前に現れる。
期待感で一杯の胸は、早鐘のように波打った。

「あそこの席に座わりましょう」
正面の一番前の席を指差すと、さっさと歩き出した。
「小夜子さん、まだ二時間あります。お腹減ってきますよ」
「だったら正三さん、お弁当でも買ってきて。(ほんと、気が利かない人ねえ)」
「分かりました。どんなものがいいですか?」

「お任せするわ」
ひと言で片付けられてしまった正三は、“どんなものがいいんだろう。女性の好むものって、何だろ?”と首を振り振り、正三が会場を後にした。
と同時に係員が小夜子を見咎め、
「お客さま、まだ準備中です。そのお席はお止めください」
と、退席するよう促した。

「準備中でもいいです。ここが一番見やすい席ですから、早く来たんです」
しかし小夜子も譲らない。
「あのね、娘さん。三列目まではね、誰が座るか決まってるの。
一般の客はね、もっと後ろに居てくれなくちゃ」
と、小夜子を追い立てた。

「ポスターには、そんなこと書いてなかったわ」と、口を尖らせると「常識というものがないの? あんたには。あんたのような若い娘が、着るような服じゃないんだから。さあさあ、大人になってからお出で」と、相手にしなかった。