10/2(土) 3回目のお遍路 四国八十八ヶ所完全制覇の旅 2日目~その2~ | ちいたろうのお出かけ日記

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 続く49番浄土寺は、駐車場に止まっているのは乗用車ばかりでホッとしたのですが、境内には団体さんがたくさんいました。

 大師堂では、先達さんらしい人が鈴を鳴らしながら、みんなで熱心に般若心経を唱えていらっしゃいます。その鈴をよくよく聴いてみると、1・2拍目を鳴らし、3拍目は休むリズムで鳴らしているようです。シャン・シャン・(ウン)、シャン・シャン・(ウン)の3拍子のリズムが延々と続きます。葬儀や法事のときに聞くお坊さんのお経ではそんなことを感じたことはないのですが、お遍路さんにはお遍路さんのやり方がありそうです。
 しかし、問題はこの団体さんとどこまで一緒になるかということ。
「そうか。ここで朝ごはんにすればいいんだ」
 時刻はあと少しで10時。大好きな鍋焼きうどんやさんが開く時間です。札所巡りはここで小休止。そうすれば、団体さんとは時間もずれることでしょう。
 そうと決まれば、話は早い。市の中心部に向けて、一旦戻ることにしたのでした。
 店の近くのコインパーキングに車を停めて、開店20分ほど前に、鍋焼うどんの名店、ことりさんに着きました。ここも昨夜の居酒屋と同じように、5月に松山に来たときに食べられなかったお店です。中では開店の準備の真っ最中で、しばらく待てば、食べられそうです。

 10時直前になって、一人の男性客がやってきました。
「まだみたいですよ」
と声を掛けたところ、
「よく来るので……」
とおっしゃいます。なるほど、彼が来たすぐ後に店が開き、彼は「1つ」と言って600円を渡してから席に着きました。この店では、商品と引き換えに代金を支払う仕組みです。直前の来店や店のやり方をわかったうえでのスマートな入店といい、さすが常連さんです。

 そこかしこに昭和の香りが漂う店内は、以前来たときのままです。変わったのは、コロナ対策でテーブルを減らしていることと、鍋焼うどんの値段くらい。
「こんなに高かったっけ……?」
と思ったのですが、それでも600円。あっさりとした出汁とアツアツのうどん。しっかりと味の染みた牛肉との取り合わせは最高で、これで600円なら安いと思います。やはり来てよかった。これは他の店では味わうことができない、松山ならではの味なのです。


 来た道を戻り、48番西林寺へ向かいます。松山は俳句の街。あちこちに句碑が立っていて、俳句甲子園という高校生を対象としたコンクールが開かれるほどです。


 ここの句碑は正岡子規のもので、そばに案内版が立てられていました。
『秋風や 高井のていれぎ 三津の鯛』
 高井とは、この寺のあるあたり。三津は、松山の海沿いの地名です。この句が詠まれた明治28年(1895年)は、まだ東京まで線路がつながっていません。現代のように、物流も交通機関も発達しておらず、通信手段も限られていた時代です。東京にいる子規は、高井のていれぎも三津の鯛も、食べることはできなかったことでしょう。
 物流も交通機関も通信手段も飛躍的に発達した現代においても、ふるさとの味は格別であり、何物にも代えがたいものです。ましてや、病を患い、松山を離れた28歳の子規がふるさとの味を恋焦がれる気持ちを想像すると、なんとも切なくなります。時代を越えて、たった17音字の文学は心の叫びとして、人々に訴えかける力をもっているのです。
 次の札所へ向かう途中、四国遍路開祖の文字がある文殊院という寺がありました。札所の数は八十八ですが、それにまつわる寺や史跡といったものも数多く残っています。こういったものを通して、四国を見つめなおす旅をするというのもまた、面白いかもしれないと思うのです。
 次の47番八坂寺の駐車場に車を止めて山門まで歩くと、銀杏の強烈な匂いが鼻を衝きます。こういった匂いと記憶は不思議とセットになっていて、ふとした瞬間に友だちの家の匂いを思い出したり、子どもの頃に遊んだ場所を思い出したり。匂いとともに、その時の気持ちまでよみがえってくるのは不思議です。私にとっての銀杏の匂いは、東京駅の匂い。高校生の頃、修学旅行に出かけた後輩たちをなぜか東京駅まで迎えに行ったことをふと、思い出したのでした。


 山門の石段のところには、野良猫でしょうか。じっとそこで毛づくろいをして、逃げようともしません。仕方なく、一緒に記念写真を撮ってから境内に入ることにします。


 お詣りをしていると、遠くから軽快な音楽とともに、子どもの声でのアナウンスが聴こえてきました。
「そうか。運動会か」
 昨年はコロナ禍で軒並み中止となった運動会。今年は開催できるところも多そうです。

 48番浄瑠璃寺は、車で行けば、すぐお隣。大師堂と本堂の間に小さな木の橋が渡してあるのが珍しい。四国の寺をこうして巡っていると、同じような寺などありません。ひと寺ひと寺、それぞれに味わいがあり、違った趣があるのです。


 これで松山周辺の札所は全部巡ることができました。川内ICから松山道に乗ります。次の61番香園寺までは、たったの1区間。ですが、この区間は山間のトンネルがいくつも続く区間です。変わらない景色とトンネルの波状攻撃は、眠気を誘います。
「とにかく安全運転、安全運転」
と言い聞かせ、睡魔と闘いながら次の札所を目指すのでした。