10/1(金) 3回目のお遍路 四国八十八ヶ所完全制覇の旅 1日目~その3~ | ちいたろうのお出かけ日記

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 海が見たいので、国道317号線から県道17号線、県道164号線をつないで、瀬戸内海沿いの国道196号線へ抜けることにします。県道164号線は災害復旧工事中ですが、2t以下は通行可となっていました。しかし、対向車が来ても離合ができない狭い山道が続きます。


「こんな狭い山道を、どうやって工事中の場所を通らせるのだろう……」
と思っているうちに、工事の現場に到着しました。細い山道を完全に封鎖して、ショベルカーがガッツリ掘り起こしています。すると、作業員の方がこちらに気づいてくれて、しばらく待つようにと手で合図をすると、ショベルカーをバックさせていきました。なるほど、退避できるスペースがあるようです。こんな通し方もあるのですね。
 さらに県道164号線を下っていくと、カーブの先に滝が現れました。水量がけっこうあるせいか、落差の割に迫力を感じさせます。車道からすぐのところにこんな風に滝が見えるということは、山深いところを走っている証拠です。しかも、それが海から直線距離で3~4kmの場所。そんなところにこれほどの規模の滝があるとは、つくづく四国の山深さを感じるのでした。


 菊間でようやく瀬戸内海に出ることができました。海の向こうに小さな島がいくつも浮かぶ風景は、私にとっての海の原風景です。南国の美しいビーチより、北の海の激しい荒波より、海といわれてイメージするのがこの瀬戸内の景色なのです。
 海岸線に沿って国道とJR予讃線が並走する気持ちのよい道を進みます。このまま松山まで走っていきたいところですが、国道は途中の北条から山沿いに入り、バイパスになってしまいます。ここは海の近くを求めて、そのまままっすぐに旧道の県道を進むことにしましょう。


 夏のようなまぶしい日差しが照りつける中ですが、15時近くになるとだいぶ日も傾いてきました。季節は確実に秋に移っていて、夕暮れが近いことを感じさせます。
 松山に近づいていくにつれて、
「あ。ここ、通ったなぁ……」
という懐かしい場所をたくさん見かけるようになりました。以前広島に住んでいた頃、ここ堀江と広島県側の阿賀とを結んでいたフェリーによくお世話になったものです。夕暮れが迫る中、この堀江港か松山観光港へ急いだことが懐かしく思い出されます。
 53番円明寺の門前にある駐車場に車を止めると、私の後に来た車の運転手は車から降りると、そのまま近くの商店に買い物に出かけていきました。地元の寺ならではの光景です。


 入ってすぐ、大師堂の左の塀ぎわにあるキリシタン灯ろうはずいぶんと小ぢんまりとしていて、調べて来なければきっと見落としてしまうくらいひっそりとたたずんでいました。寺の説明によれば、「キリシタン禁制の時代、この地方には信者が多くいて、寺では隠れ信者の礼拝を黙認していたようである。」とのこと。神も仏も一緒に大切にするような日本人の懐の深さを感じながらも、同じ仏教といえども相容れない部分があるのは人間らしいなあと思うのです。


 52番太山寺は、また山の寺のようです。駐車場に停めると、本堂へはここから250mと書かれています。


 いざ本堂へ着いてみると、まず、その迫力に圧倒されました。鎌倉時代の1305年に建てられた本堂は、700年以上もの間ここに存在し続け、様々な人々を迎え入れてきたに違いありません。日本の昔話や戦国の絵巻物に描かれるような人物が見ていたのと同じ景色を、現代に生きる私が共有している。歴史的なものを残す意味の一つは、何代も前の人々とその価値を共有できることにあると思います。しかし、戦争や災害で失われたものや、政治的・金銭的な理由で維持しきれなくなったものが多くあるのは残念でなりません。今というこの瞬間は、過去という歴史の上にあるのです。その歴史に直接触れるということは、どんな書物にも勝る体験でしょう。


 時刻は16時を過ぎました。頑張ればもう1か所くらい札所を巡ることもできそうですが、松山市周辺には札所が多数集まっているので、無理をせず明日に回すことにします。今日の宿は道後温泉に取りました。昨日の飛行機のキャンセルと同時に、格安の旅館を押さえておいたのです。
 松山の街には夕暮れの景色が似合うと思うのは、きっと私がこの街を訪れるのは夕方になることが多かったせいでしょう。日帰りで広島に戻るのならば、夕方には松山を出て船に乗らなければなりません。その前に道後温泉に寄ってひと風呂浴びるのが、いつものパターンでした。
 もちろん、松山に泊まったことはありますし、昼間に訪れたこともあります。けれども、夕方、暖かな西日の色に染まる松山の街にいるというそれだけで、なんだか切ないような気持ちになるのです。
 大好きな上一万の六時屋へタルトを買いに行きます。数あるタルトの中でも、私はここの餡子が大好きなのです。職場用に、工場ならではのはんぱものを買い求めます。形が少し悪くても、味は変わりありません。みんなでちょっとおやつにするには、それでも十分贅沢です。
 待っている間にあめ湯をいただけるのは、以前と変わりません。こういったサービスも、最近は少なくなったように思います。


「ああ、ここは以前のままだ」
 旅先で、そんなことを感じるときほど幸せな瞬間はないのです。