ほぼ日刊6 | ロンドンつれづれ

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気が向いた時に、面白いことがあったらつづっていく、なまけものブログです。
イギリス、スケートに興味のある方、お立ち寄りください。(記事中の写真の無断転載はご遠慮ください)

今度こそ、6の感想。

 

 

 

 

今回は、「フィギュアスケートって、本当にやらなきゃいけないことが多すぎる!難しい!」という話。

 

もう、これは、毎日のように感じています。とにかく、何をやっても、難しい。何しろ、あのようにツルツル滑る氷の上で、ナイフの刃のように細いブレードの上に立って、跳んだり跳ねたり、回転したりするんですから、簡単なワケがない。

 

スケート靴を履いて氷の上に立ったことのある人ならわかると思うけれど、足があっちこっちに勝手に滑って転んでしまわないように前に進むだけでも、至難の業です。

 

羽生さんの言葉。

 

最近思ってることのひとつが、
フィギュアスケートって
すごく難しいっていうことで。
単純に、やらなきゃいけないことが
あまりにも多すぎるんですよね
。」

 

いやあ、子どものころに始めた人って、こうなんだな、と改めて思いました。難しい、と思わないうちに上手になってしまったんでしょうね。 最近、やっとフィギュアってすごく難しい、って気が付いたのかもしれませんね。

 

 

私なんて58才になって始めたので、初日から今日に至るまで、毎日のように「すごく難しい。やらなきゃならないことが多すぎる…」と思っていますよ。

 

氷の上で方向転換をするターン一つ取ってみても、スリーターン(前に滑りながらアウトエッジでターン、インエッジでターン X 右足と左足=4種類、後ろに滑りながらアウトエッジでターン、インエッジでターンX 右足と左足=4種類、合計で8種類)、ロッカーが同じように両足で8種類、ブラケットが同じように8種類、カウンターがまた8種類と、ターンだけで32種類。

 

なに、同じようにやればいいんでしょ、ってもんではないです。私は例えばバックのアウトスリーは、右足ではできるけど、左足ではどうしてもできない。フォアのアウトブラケットは左足ではできるけど、右足ではどうしてもできません。また、右足のバックアウトスリーはできるけどバックインスリーはできません。といったふうに、とにかくできなくちゃならないことが多すぎる…。どのターンも、数年かかってもまだできない、というものがいくつもあります。

 

回転技はさらに難しい…。まずスピンでしょ、ツイズルでしょ、ジャンプだって、回転技ですよ、そして、ステップシークエンスに必ず入っているループというのもあります。これをやろうとすると、なぜかスリーターンになってしまってバツです。これも、4年ほど練習しているけど、いっこうにできません。難しすぎる…。

 

羽生さんはジャンプが6種類あって…と話していますが、まずシングルから始まって、ダブル、トリプル、最後にクワド(4回転)まで回転が増えていくんですが、その前に、トウループ、サルコウ、フリップ、ルッツ、ループ、アクセルと、踏切の違いで、6種類のジャンプがあります。 なんで、ちがう跳び方せにゃあかんのや、と思いますが、右足で跳んだり、左で跳んだり、トウで跳んだりエッジで跳んだり、後ろ向きに跳んだり、前向きに跳んだり…。

 

全部覚えてやらなくちゃなりません、選手なら。

 

スピンだって、いったい何種類あるんだか。私は9年かかって、やっとアップライトスピン(一番簡単な、まっすぐ立って片足を上げて回るヤツ)ができるようになったんですが、そうしたら「じゃ、次はシットスピンか、キャメルをやろう」というではありませんか。

 

一つができるようになって喜んでいると、コーチが、はい、じゃあ、次はこれ!といって、次々とできないことを増やしていきます。それはそれは、複雑で覚えきれないコツを10個ぐらい言われます。

 

「ああ、フリーレッグを前に持ってくるのが早すぎたね!もっと後ろに置いておいて」

「腕がフラフラしたからバランスを崩した。もっとまっすぐに、テーブルの上を払うように力強く」

「立ち上がるのが遅すぎる。スリーターンが終わって、フォアアウトからバックインに変わったらすぐに膝を伸ばして立ち上がって!」

「ああ、アウトエッジが浅すぎる。もっとうんと回り込むまで待って。立ち上がらないで」

「フリーレッグをもっと膝の高い位置につけて!ヒップをもっと持ち上げて」

 

まだまだ、いくらでもありますよ…。以上のことを、全部言われたとおりにやって、10回に4回ぐらいは成功しますが、失敗した時は、まだ上のこと以外にも、マチガイがあるから駄目なんです。

 

ジャンプだって同じです。もうここに書ききれないけれど、100回以上同じ事を言われて、まだうまくできません。コーチも忍耐強いですよね…。よく嫌にならないと思います。「こいつ、いったい何十回同じこと言わせるんだ」と思ってるかもしれない…(泣)

 

「ジャンプを、フリープログラムだったら
7回跳ばなきゃいけない。
最低でも7本分の練習をしなきゃいけない。
その時点で、もう種類が多すぎて、
わけがわからないですよね

 

そうですか、羽生さんでもワケが分からないと思うことあるのかな。

 

私もシットスピンの練習を始めたら、アップライトスピンができなくなりましたよ…ワケわかりません。

 

 

ほらほら、これこれ。

 

「スピンも何種類もあって、
スケーティングも何種類のターンもあって、
左回りになったり、右回りになったり、
後ろ向いたり、いろんなことをしなきゃいけない。
だから、フィギュアスケートって本当に、
修練が難しいスポーツであり、
その意味ではアートでもあるんだな、
っていうのは、最近よく感じますね。」

 

ほんと、その通りなんですよ。しくしく…。 

もう、アートの域にはとても到達しませんけれども。

音楽にシンクロなんて、とてもとても。

 

羽生さんほど音を拾って滑ることのできるスケーターはめったにいないと思うんですが、「できてないなーってぼくは思ってますけど。」というのは驚いた。どこまで完璧主義者なんだ。

 

それは、ヒップホップのダンスのように、音に合わせることは、「滑らなくてはならない」フィギュアスケートでは不可能だから、という説明をする。それには技術を新たに開発しなくてはならない、と。

 

「ぼくらの演技を見て、
ダンス的な視点から
「あ、フィギュアってこういうもんなんだな」
って、ちょっと残念に思ってる方も
たぶんいらっしゃると思います。
そういう目線からだと、
音楽のリズムやアクセントを、
なんで拾わないんだろうなって
感じるかもしれないんですけど、
まず、できないんですよ、それが。」

 

いや、できないでしょう。靴は何キロもあるし、あの靴を履いて今羽生さんが氷の上でやってるような動きをやれ、と言われても、できる人はほとんどいないんじゃないでしょうか。

 

私なんて、息子がビデオをみて、「お母さんのこれ、スローモーション?」と聞くんですから。

 

私は、普段、歩くのが早くてみんなに「ついていけないからもっとゆっくり歩いて」と言われるぐらいなんですが、あのスケート靴を履いて、ツルツル滑る氷の上で、転倒しないように動こうと思ったら、スローモーションのようになってしまいます。

 

それでも、羽生さんは、ダンサーが見て納得できるような動きを氷の上でして見せたいようですね。

 

「その目線に気づくと、
「じゃあやろうか」
みたいな感じにもなってくる。

競技時代だったら、
そういうことは点数としては出ないんだけど、
プロになって、その演技自体を見られる、
お客さんに見てもらう、ってなったとき、
そこに求められる質感は、
正直、圧倒的に違うと思うので。」

 

でもね、羽生さん。 フィギュアスケートのファンは、フィギュアらしさが好きなんですよ。ダンスと同じような動きなら、フィギュアじゃなくて、ダンスを観に行きますよ。

 

なので、そこはあんまり気にしない方がいいと思います。

 

「音楽の合わせ方だけじゃなく、いろんな面で。
たとえばバレエダンサーから見たら、
音楽の合わせ方は似ているかもしれないけど、
フィギュアスケートのバレエ的な所作っていうのは、
確実に、なんだろう、至ってない部分がありますし、
ヒップホップダンサーから見たら、
やっぱりフィギュアスケートをやってる選手は、
やっぱりリズムの取り方が甘い、
って言われかねないですし。
でも、もちろんそれは、しかたない部分もあって、
やっぱり費やしている年数、時間が違うんですよ。
さっきも言ったように、フィギュアスケートって、
そもそも修練が難しいジャンルなんですよね。
いろんなことをやらなきゃいけないから。」

 

その通りです。

 

そして、バレエダンサーに氷の上で重たい靴を履いて動いてみろ、ヒップホップダンサーに、細いブレードでジャンプを跳んで、氷の上に4回転した後で降りてみろ、って言ってみてください。

 

だれもやりたい、って言いませんから…。

 

違うジャンルなんですよ。違っていていいんですよ。

 

バレエやヒップホップダンスと同じことを氷の上でやれ、と思って見ている観客は少ないでしょうし、フィギュア独自の美しさを愛している人の方が大多数です。寄せていく必要は無いと思っています。

 

例えば、フィギュアの良さのひとつ、思わず拍手がでる技に、イナバウアーとかイーグル、そしてスパイラルがあります。

 

 

手足は動いていない、静止しているのに、氷の上ではかなりのスピードで移動し、衣装や髪が風になびいている。あの美しさは、バレエやヒップホップには出せないでしょう。羽生さんのハイドロブレーディングもそうですね。

 

 

滑らかな氷と、細いブレードがあるからこそできる美しい技だと思います。

 

(写真はすべて夫撮影、ヘルシンキワールドより)