僕は児童養護施設に行って良かった | ロンドンつれづれ

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家庭で虐待を受けた子どもが、通報により保護をうけ、「社会的養護」で育つこと。

 

日本ではまだ、「養護施設」で暮らす被虐待児がほとんどだが、イギリスでは子どもに心理士など専門家がついて治療をする必要、あるいは非行などがあって一般の家庭では難しい場合を除き、ほとんどが里親での養護となる。

 

養護施設というと、子どもが可愛そうだという意見もあるが、実際に養護施設で育った子どもの声を聞く機会は、めったにないことだし、養護施設で働く職員の声を聞くことも、私たち一般人にはめったにないことだ。

 

今日は、11歳の時に義父の虐待(ライターで焼かれたり、殴る蹴るなどの暴行)を受けて、一時保護を受け、その後養護施設で成人するまで育った男性の、「当事者の声」をご紹介したい。

 

 

 

 

ここで述べられていることは、大げさでも誇張でも、虚偽でもない。

 

閉じられたドアの向こうで起きている、家庭内の児童虐待の典型的な例だということをお知らせしたい。

 

 

そういう経験をし、児童養護施設で集団で育ち、施設出身者(ケアリーバー)として社会で自立して生きていくことは、やはりなかなか難しいのだが、彼はラッキーにもケアリーバーを支援する団体とつながった。

 

そして、そこで支援を受けながら、今では自分が当事者として、施設卒園者を支援する立場になっているようだ。

 

ゆくゆくは、自分で家庭を持ち、様々な理由で自分の家族の中で暮らしていけない子どもたちの面倒を見たい、と語っている。

 

このようにまっすぐに育ったのであれば、彼を11才で保護し、社会的養育の中で育てたことは、一つの成功例と言えよう。 

 

しかし、施設をでてあちらこちらの職場を転々とし、最後には自分のいた施設の所長を惨殺したという青年の事件も数年前にあった。 

 

あの事件の際には、「母さんがどんなに僕を嫌いでも」を描いた、自身も擁護施設出身の漫画家、歌川たいじさんが涙を流しながら彼をかばっていたことを思い出す。なぜ加害者の青年がそこまで孤立し追い詰められたか、歌川さんには理解できたのだろう。

 

 

世の中には3度の食事がでることにびっくりする子どもたちがいる。

 

毎日学校に通わせてもらえることを喜ぶ子どもたちがいる。

 

そして、夜、暗い部屋の中で陰湿に暴力を振るわれることが当たり前のようになっている子どもたちがいることを、私たちは知らない。

 

 

「まだたくさんの子どもたちが、誰にも知られずに虐待を受けています。 もっとこの世の中が、社会が、子育てをしやすくなれば、虐待を受ける子どもも減ると思う。」と彼は言う。

 

日本の児童福祉は、イギリスと比べると、著しく貧しい。母子家庭のお母さんが、2つも3つも仕事を掛け持ちし、子どもは孤食を強いられていることを話すと、イギリスの福祉士からは「幼児を育てる母親に仕事をしないで済むように政府からの支援金はでないのか」と聞かれる。 

 

いや、日本だって児童扶養手当は出てはいるが、とても暮らしていけるようなものではない。

 

イギリスは困窮する母子家庭には、住居や家具、電化製品の支援まである国なのだ。

 

そこから比べれば、日本政府のやっていることは手ぬるい。 少子化対策というが、せっかく生まれた子どもたちをまず全員安全に幸せに成長させるべきではないか。

 

下はひとり親家庭への児童扶養手当だ。 働いていれば支給は減らされて、一部支給となるが、全額出たって、たった4万3千円程度、2人目からは1万円ちょっと、3人めは6千円だ。ジョークみたいな額だろう。 

 

 

子ども3人抱えたシングルマザーのところに、最高額でも5万円に満たない額の手当て。これで暮らしていけるだろうか。これでは家賃どころか子どもの食費にもならない。幼い子供を抱えた母親は掛け持ちの仕事をしなければ生きていけない。

 

日本では離婚する女性には、罰のように厳しい世間が待っている。 国も助けようとはしないのだ。 「離婚したお前が悪いんだろ。自己責任だ。」 女性は我慢して子育てと家事をしているべきなのに、偉そうに離婚するからだ。そういいたいんだろう。

 

 

そして、再婚して子どもが義父から虐待されれば、批判されるのは母親だ。 「お前が母親より女を優先したからだ。お前のせいで、子どもがひどい目にあわされるんだ」と。 確かに赤の他人の男は子どもにとってリスクになる確率は高い。 それにしても、母親だけのせいだろうか。実の父親は、養育費を支払っていたのだろうか、祖父母は?

 

 

多くのシングルマザーは、再婚しなければ、あるいはボーイフレンドを作って育児を手伝ってもらうか生活費を助けてもらわなければ、子どもを抱えて生きていけない状況にあるからじゃないのか?

 

実家で面倒を見てもらえるラッキーなシングルマザーばかりじゃないのだ。 アパート一つ借りるんだって、就職するんだって、必ず「保証人」が必要なのが日本社会だ。

 

保証人になってくれる人なんて思いつかないという若い人は、ごまんといるのだ。 だから、仕事を始めたその日から、住まいも与えてくれる風俗で働くシングルマザーがいるのだ。 給料はその日に手渡ししてくれて、部屋にもその日のうちに入れる。履歴書も保証人も必要ない。

 

イギリスの友人は、「日本は国がやらないことを、セックス・インダストリーが受け皿になってやっているのね」と言っていた。 情けないではないか。

 

 

 

「社会がもっと子育てに優しくならなければ、児童虐待はへらない」とこの青年は言う。

 

困窮した、あるいは複雑な問題を抱える家庭から養護施設へ保護された当事者にはわかるんだろう。

 

子ども家庭庁の諮問委員もやっているというこの青年の言葉は重い…。