ISU総会アジェンダ | ロンドンつれづれ

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先日ISUから、6月の総会の議題が発表された。

Decisions of the ISU Council - International Skating Union

 

オンライン会議での決定事項についてのアナウンスである。その中で、「ロシアとベラルーシの選手及びスケート関係者は、ISU主催の試合・大会へのエントリーや参加は、当面は禁止」と決定したと発表した。また、当面はロシアとベラルーシでの国際試合の開催は行われないとして、2022-23年のクランプリシリーズではロステレコム杯(11月25-27日)はロシアで行わない、とした。

 

また20を超えるメンバーが、そのフィードバックでISU委員会に対し、「2022年の総会およびその他の公的ミーティングやセミナーへのロシアとベラルーシの関係者の参加は禁止、また総会で行われる選挙でのどのポジションに対する立候補も禁止」を求めた、とアナウンスした。 これに関しては、「総会で多数決で決める」ということになっているそうだ。 確かに先ごろのリストには、ロシアのラケルニク氏が、副会長の立候補者として載っていた。

 

 

 

今のところ250件もの提案が出されており、6月初旬のプーケットでの総会で、参加メンバー国により、多数決で採択が決定される。

Proposals of the S&PTC for changes in the ISU Constitution,

 

 

 

P9のNo1では、役員の立候補者の年齢を「80歳以下」にする、つまり年齢上限を上げる提言がなされている。(エストニア、ラトビア、リトアニアから) これは、今副会長をしているラケルニク氏の定年を先延ばしにするためだと言われているが、彼はロシア人。 ISUの役員にロシアとベラルーシの人間の立候補も止めてほしいと言っているメンバー連盟が20を越しているというのに、こんな案が通るのか? それにしても、80歳って。 もっと若い人に頑張ってもらう方がいいに決まっている…。

 

またNo2では、ISUの名誉会長、会長、副会長の任期は少なくとも2期までとロシアが提言している。 さらに、テクニカル委員会の役員も、少なくとも2期、と。 これらは、既得権益を握った人間が、いつまでも力を保つという悪しき慣習が続くような気がするが、どうだろうか。 しかし、このプロポーザルについては、ISUがすでにメールでの投票を行い、認められているとのことである…やれやれ。

 

P17と18には、年齢制限についての提言が書かれている。

 

 

年齢制限については、ノルウェー、ドイツ、カナダなど多くの国から提言が出されているが、、ISU委員会では、以下のように段階を踏んだシニア年齢制限の変更を取り入れることを提案している。

 

つまり、シニアは17歳以上となるが、まず2022-23年の試合では現行の15歳からのまま。 2023-24年には16歳以上、そして2024-25年以降は17歳以上、ということで実施していくというもの。こうすることで、現在15歳や16歳ですでにシニアで競技をしている選手がジュニアに戻ることのないように、という配慮だそうだ。

 

 

 

P64では、カナダとイタリアからの提言で、ジャッジパネルを2つに分け、一つのグループがGOEとスケーティングスキルを担当、もう一つのグループが残りのPCSコンポーネンツを担当することで、採点の正確さを担保するようにしてはどうか、となっている。 

 

 

同じように、オランダも、GOEとPCSを採点するジャッジを分けろ、と提言している。 理由はフィギュアスケートはますます複雑になってきており、ジャッジがマイナスからプラス5のGOEを正確に判断することすら困難なのに、その上PCSの判断までひとりでしなくてはならないのは大変だ、と。

 

 

 

また、PCSの係数を変えて技術点と芸術点のバランスをもっと取れるようにしたらどうか、という意見も(P65-67) 。

 

例えば下の表で、それぞれの種目のTESとPCSの最高点を比較してみると、男子フリーならPCSに対する係数が2ではなく、2.7近く無ければ、技術点と芸術点の比率のバランスが取れない、というもの。 女子でも、2.3の係数が必要だという。

 

 

下は、それぞれの種目でのSPでの係数とフリーでの係数はそれぞれ1.33、2.67であるように変更する、という提案。

 

 

 

もっとも、いくら係数を変えても、そもそも高難度ジャンプをたくさん入れ込む選手のスケーティングスキルやトランジション、音楽の解釈などに対し、演技内容をよく見ないで自動的に高い点数をつけるジャッジがたくさんいる場合、芸術性の高い演技とそうでない演技をきちんと差別化してPCSの点数に反映することはできないだろう…。 姿勢の美しさや多様性、繋ぎ部分の難しさ、音楽・テーマの表現や観客とのつながりなど、正確に評価しているジャッジがどのぐらいいることか…。 要は、ジャッジの質なのである。

 

だが、これらの提案を見ると、フィギュアスケートを見ているファンだけでなく、各国のスケート業界でも、今の採点の仕方には無理がある、あるいは正確さに欠ける、そしてTESとPCSの採点の配分が不公平だ、と考えていることが分かる。

 

 

 

しかしアジェンダの提案事項を見ると、事態はもっと悪い方向に向かいそうなことが分かった…。

 

84ページの、201番目の提案では、なんとPCSのカテゴリーを5つから3つに減らすとしている。 しかも、残った3つのチェック項目が大変に大雑把になっているのだ。

 

下の提案を見ていただきたい。

 

プログラム・コンポネンツの定義として、従来の「五つの」という言葉を消して、「三つの」になっており、消されたものが、トランジション、パフォーマンス、音楽の解釈である。つまり、残ったのは、コンポジションとスケーティングスキルのみで、新たにプレゼンテーションが加えられている。 

 

トランジションとしては、演技中を通して、多様で複雑なフットワークやポジション、動きでエレメンツをつなげることとあった。 ジャッジは、一つのエレメンツから次へ移る間(トランジション)の難しいフットワークや姿勢、その連続性、多様性、難易度、質を見て、この項目を採点するとなっているが、今後トランジションは採点対象にならないということだ。 つまり、例えばエレメンツとエレメンツの間をクロスオーバーで両足滑走しているスケーターと、難しいターンなどを片足で行いながら次のエレメンツに移るスケーターとの得点の差は、ほとんどつかないということだ。 (もっとも今までも、繋ぎ部分の評価はほとんどできていなかったから、ルールの方が審査員に合わせたのかもしれない)

 

コンポジションの部分で新たに、音楽構成に合わせたスケート技術を多様に使うと書いてある。そしてそこで、エレメンツ同士をつなぐこと、音楽フレーズを反映したコレオグラフィー、ともある。 これで、トランジションや音楽の解釈をカバーしたということだろうか。

 

 

 

 

 

音楽の解釈というカテゴリーは、まるまる横線がひかれて、削除されている。 

 

プレゼンテーションは元パフォーマンスと呼ばれていた部分だが、作品の内容を身体的、感情的、知的に表現するという部分や個性、動きのキレなどが消され、動きのバラエティ、音感やタイミング、といった項目が足されているが、この部分でも、「音楽の解釈」をカバーしようというのか。

 

スケーティングスキルの部分では、まず、身体やブレードを使ってステップやターンといったスケート技術を駆使する能力、と定義され、力みなく氷の上を流れるように様々なスピードで滑る、といった部分は消されている。一方、評価基準として、様々なステップやターンを色々な動きと方向にできること、エッジの明確さ、パワーとスピードなどが加えられているが、ステップやターン時の深いエッジ使い、柔らかい膝の動きとバランス、正確な足さばきや、流れとグライド、多様なスピード(緩急)や加速、多方向への滑走の実施、片足滑走の実行などが消されている。 

 

つまり、難しいエッジチェンジとターンで加速する片足滑走をステップシークエンス以外のところで10秒して見せても、浅いエッジでクロスオーバーばっかり漕いでいる選手とSSではあまり点差が出ないのかもしれない。 それでは、クロスオーバーばっかりする選手が増えるだろう。クロスオーバーなら、私だってできる。

 

 

上記の変更提案の理由を、ISUは以下のように説明している。

 

 

「コンポジション、プレゼンテーション、スケーティングスキルという3つの新たなプログラム・コンポネンツは、3つの具体的分野の審査と分析に関連づいている。 この3つを揃えれば、プログラムの芸術的側面を定義できるのである。 基準の具体化と簡素化により、これまで重複していた基準定義の混乱やあいまいさを取り除くことができる。27もの基準を正確に見分け、同時にGOEもつけるというこれまでの過程をこなすことは、不可能、あるいは極めて困難な作業だったのである。」

 

 

 

トランジションは取り消され、スケーティングスキルではディープエッジや深い膝の屈伸によるリズミカルなバランスや、多様なスピードを駆使したメリハリのあるスケーティング、難しいターンの片足走行などが見落とされるようになるだろう。 身体的、感情的、知的表現や、個性という部分が削られ、フィギュアスケートにはなくてはならない音楽の解釈も削られてしまった。 

 

要するに、一つ入れただけでも得点の大きなジャンプをできるだけたくさん盛り込んだ振り付けのプログラムを、転倒なしに滑り切れば、点数が上積みされて順位は上がっていくという仕組みだ。 しかもそのジャンプがルール通りに正確な踏切や着氷で実行されたかの審査は実に恣意的になされているのだから困る。

 

 

多くの国が、PCSが軽く扱われている、係数をもっと高くするべきだという時に、その項目を3つにしてしまい、さらにスケーティングスキルの中でも大切な評価要素をたくさん削ってしまっている。 これではジャンプは跳べてもスケートはへたくそ、という人が優勝するような日が来るかもしれない。


いや、もう来ているから、ルールを今の審査状況にあわせようとしているのか...。

 

PCSの項目を減らす理由の箇所で述べられているように、確かに一人のジャッジがGOEをつけながら、同時にPCSの評価もしなければいけないことには無理があるだろう。 そして確かにいま目の前の演技を採点するよりは、前評判や思い込みでPCSやGOEをつけているジャッジも多いように見える。

 

 

ジャッジには判定できないほど細かい採点基準がルールブックにはあり、それにそうことができないのであれば、ルールの基準の方を単純化してしまう他、ないというのだろうか。 

 

 

 

つまり、そういうことなんだろうな。

 

だったら、AIの導入を本当に真剣に考慮したらどうだろうか。技術部分の評価の多くは機械の方が正確にできることは他スポーツ競技が証明している。

 

数日前に、ポリーナ・エドモンズ氏とフランク・キャロル氏の対談をご紹介したが、あそこで二人が嘆いていた、美しいフィギュアスケート、芸術的で見る価値のあるフィギュアスケートが少なくなってきた原因は、そういうスケートに対し、それに見合うような採点をジャッジがしないという今のISUの方向性のせいだろう。 競技にでるからには、誰だって勝ちたいに決まっている。 選手ならだれだって、勝つためのプログラムを滑るようになるだろう。

 

 

本来は、カナダやオランダが提案しているように、もっと丁寧な審査の方法を模索し、PCSの係数などを工夫してテクニカルのTES採点の担当をするジャッジたちと、PCSの方を専門に採点するジャッジたちを分ければ良いとは思うのだが、もし上記のような「簡素化したPCSの提案」が通ってしまうとしたら、フィギュアスケートはいったいどうなっていくのだろうか。 

 

ますます多回転数のチートジャンプを跳んで得点を稼ぐスケーターがぴょんぴょん跳び回る競技会を見せられるようになるのだろうか。

 

 

ロシアの重鎮たちの動きも含め、ちょっと、暗澹たる気持ちになるのである…。

 

 

 

お口直しといっては何ですが、高難度ジャンプをバンバン跳ばなくたって、心にひびく美しいフィギュアスケートを、何十年も前に滑っている人たちがいる。 

 

もちろん、高難度ジャンプをプログラムの中に宝石のようにちりばめてもなお、高い芸術性を保つことができるのなら(羽生君が4Aを入れてのプログラムを目指しているように)、もちろん、それが理想の形ですよ。

 

 

まず、1976年のジョン・カリイ。 男子フィギュアスケートに優雅さを持ち込んだのは彼とされる。 先ごろ映画、Ice Kingで彼の人生が紹介されたから知っている人も多くなったかもしれない。 イギリス代表、インスブルックオリンピック金メダリスト。

 

 

 

私が男子フィギュアで一番先に好きになった選手、こちらも英国の、ロビン・カズンズ氏の1980年エキシビションの演技。 ジャンプは跳びあがってから回転を始め、しっかり止まってから余裕をもって降りてくる。 彼のシングルアクセルも秀逸。 またキャメルスピンの足や上半身のポジションの美しいこと。 レイクプラシッド・オリンピックの金メダリスト。

 

 

 

下は、スパイラルが美しい演技。

 

 

ユーモラスなコレオグラフィーも。

 

 

ジョン・カリイはもう亡くなってしまったが、ロビンは今でもオリンピックの解説をBBCテレビで行ったり、Dancing on Iceの審査員を務めたりして、イギリスのフィギュアスケート界で頑張っている。

 

彼の余裕を持った美しい演技が懐かしい。

 

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現在私(ポプラ)は、5月の24日にドイツで行われるISU公認、アダルトスケート競技会に参加することをチャリティ・チャレンジとして、クラウドファンディングでの寄付活動を支援しています。 今回寄付を支援したいのは、子ども食堂「ピノッキオ」です。

 

子ども食堂や子どもの居場所を民間のNPOが提供することで、子どもたちの生活が少しでも明るくなることを祈っています。

 

あと3週間たらずで試合ですが、なんとか当日まで頑張って、1分50秒のプログラムの練習をしています。

 

「キャンプファイヤー」というクラウドファンディングの、非営利団体向けの、Good Morningという部門で、クレジットカードでの寄付が可能です。 皆様の優しい応援・ご支援・ご寄付を、どうぞよろしくお願いいたします!

 

ご自分の希望の支援金額を「リターン」というところから選び、メールアドレスを登録して、先へ進んでください。 これは起業などではなく子ども食堂の支援ですので、物品のリターンは無く、お礼のメールだけが届きます。

 

以下のリンクをクリックすると、ピノッキオのクラウドファンディングのサイトに飛びます。ピノッキオの活動の趣旨など詳細が載っています。 主催者は、早稲田大学の人間科学学術院の元教授、川名はつ子先生。

 

虐待を減らそう!子どもや保護者のための居場所「ピノッキオ」を存続させたい!#北区 - CAMPFIRE (キャンプファイヤー) (camp-fire.jp)

 

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また、クラウドファンディングではなく、郵便局や銀行から直接寄付を行う方が良い、という方は、以下にお願いいたします。

 

<寄付金・会費の振込先>

●ゆうちょ銀行間での振り込み
【振込口座名義】シャ)ピノッキオ
【記号】11370
【番号】07694211


●他銀行からゆうちょ銀行への振り込み
【振込口座名義】シャ)ピノッキオ
【支店名】一三八(読み イチサンハチ)
【支店コード】138
【預金種目】普通預金
【口座番号】0769421

 

ピノッキオのホームページより

一般社団法人ピノッキオとは (studio.site)

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