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「誰がどんな演技をしても勝つ」

 

 

男子フリーが4分半から4分になり、ジャンプが一つ減り、GOEが5段階になるという大きなルール変更後、ショートのジャンプ前のステップという規定部分が外れたり、PCSが「シリアスエラー」により上限ができたりと、細かい変更もなされてきた。 選手もコーチもコレオグラファーも迷ったり疑問に思ったりしながら調整してきただろう。

 

 

ミスがあったとはいえ、埼玉の世界選手権では1位のチェン選手との点差について疑問を呈する解説者などもいた。そして今季のオータムクラッシックではファンが動揺するほど不可解な審査採点があった。 おそらく羽生選手もISUや審査員が求めるフィギュアスケートがどんなものなのか迷ったのではないだろうか。 これだけ努力をして難しい技術を詰め込んでも、採点に反映されていないのではないか。いったいどういう演技が評価されるのだろうか。

 

 

そんな中、スケートアメリカを見て、改めてチェン選手と自分とのタイプの違いを感じた、そしてやはり自分は自分らしい演技をしようと決心して臨んだスケートカナダだった。 そこでほぼクリーンな演技を披露し、ジャンプにも高いGOEがついたのである。 ひとつひとつのエレメントの完成度を高め、GOEのプラス項目を✓して加点を積み重ねることでTESを20点も上げることができた。 そしてエレメントとエレメントの繋ぎ部分をただの助走にしないで高いPCSを獲得したのである。 

 

今季最高得点の322.59をたたき出したスケートカナダの演技での審査員からの評価に、自分の演技を追求する自信を得たのである。 コーチのオーサー氏もインタビューでネイサン・チェン選手と羽生選手について問われた時、「二人はまったく違うタイプの選手なので、比べることは難しい」と答えていた。 まさに、この二人のスケーターは演技内容のプライオリティが違うといってよいだろう。 

 

高難度ジャンプを数多く高く跳んで確実に降りることがまず優先のネイサンと、今確実に跳べるクワドジャンプの質を究極まで高め、高いGOEを重ねることや音楽の解釈、スケーティング技術などを評価してもらい、一つの作品としてのプログラムを演じようとする羽生選手は、たしかにまったく違うタイプのスケーターなのかもしれない。 

 

NHKでは、スケートカナダとは違う審査員がボードだ。 彼らがスケートカナダと同じ評価をしてくれるだろうか。 きっと心配も緊張もあっただろう。 そしてNHKを終えて、「やってきた練習が間違ってなかったことが、今回もある程度証明できた」とスケートカナダで得た自信をほぼ裏付けられる結果を手にしたのだろう。 自分のやり方で自分の道をつらぬいて、間違いではないという気持ちでグランプリファイナルに向かうのだろう。 

 

NHK杯では「どんなに緊張しても、会場が変わっても、曲だけは変わらない。曲に感情を任せていいイメージを持ちながらショートを演じた」という。 そういうところが自分のスケートで一番大事なところ、それができてこそ僕は羽生結弦と言える、と。 あらためて曲を感じながらジャンプをする気持ちよさを感じた、と話した。

 

羽生選手の演技を見ていて気持ちが良いのは、ジャンプすら音にピタリとはめて跳ぶからで、これはできそうでなかなかできることではない。 音楽と動きの間になんの関連もないような演技をするスケーターは実は結構いるのである。 そしてジャンプだけが突出して見えるような演技をするスケーターも多いものなのだ。 羽生選手が当たり前のようにやっていることは、確かな技術と音に対する感性がなくてはできないことなのだ。

 

常に自分は「追う立場」という羽生選手は、どこか楽しそうですらある。 平昌オリンピックを勝ち、一時負けん気が影を潜めたように見えた羽生選手が、またモチベーションを高めて「誰がどんな演技をしても勝ちたい」というのは、やはり好敵手、ネイサン・チェン選手のおかげだろう。

 

ファイナルではミスのないクリーンな演技を審査員や観客の前で見せ、SPもフリーもそろえて、「自分自身がどんな相手にどんな演技をされても勝てるという自信を持った状態での演技をしたいなというふうに思います」という羽生選手なのである。

 

松岡修造さんに、どうですか、いよいよ来たって気がします、と言われて、「やっと・・・やっと(ファイナルに)行けます・・・」ってすごく嬉しそうな顔をして言っていた。

 

グランプリファイナルに勝って、どのように思いたいですか、と聞かれてしばらく考え、「誕生日祝えた、やっほーい!って」と、またすごく嬉しそうな顔で・・・。 そう、フリーのある当日は12月7日、羽生君の誕生日なのだ。

 

大丈夫、誕生日、きっとそうやって祝える!

 

 

過去の怪我について、「ジャンプの怪我はつきものとはいえ、やっぱりファイナルに行きたいのに行けないというのがすごくありました。 四連覇してもっと記録を伸ばしたい、もっと強く君臨していたいと思っていたのにどんどん遠ざかって行って・・・」と。 やっぱりもう一回奪還したいという思いがすごく強くあって・・・とNHK後のインタビューでも話していた。

 
過去2年の怪我との戦い、グランプリファイナルからの不在というマイナスを一気にプラスに変えられるのが羽生結弦という選手なのだ。
 
 
パトリック・チャン、ハビエル・フェルナンデス、そしてネイサン・チェンというライバルたちと常に頂上を戦い続けてきたシニアのキャリアがもう10年近くなっている。 経験値の高さでは、彼にかなう選手はなかなかいないだろう。
 
フィギュアスケートというピーク期の短いはずの競技で、オリンピックという歴史に残る試合で2度も頂上を極めた後も、まだまだ王座を譲らない気迫の羽生選手は、ネイサンという好敵手を得て、ますます高みを目指している。 自分を「追う立場」という時の羽生選手は強い。
 
これまでの2戦では、フルスロットルとは言えない戦いぶりのチェン選手である。 ファイナルではいよいよ全力を尽くして羽生選手を迎え撃つか。 それを予想している羽生選手の言葉もあった。
 
「今は多分、これから世界がスケートカナダの羽生結弦の演技を追ってくると思うんですよ。あの322点を超えるためにいろんなことを考えて、いろんな練習をしてくると思います。ただそれは僕自身も一緒で、僕もあの演技を超えたいし、あの点数を超えたいってすごく思って、常に追っているんだなというふうには思います。あとはネイサン選手がこんなものじゃないというのは自分自身すごく分かっているので、またその彼のベストとも戦いたいという気持ちで、常にいます」
 
「ファイナルにはスケートカナダ、今回以上にいいコンディションで臨めるようにしたいというのが、一番の対策、すべきことかなと思います」
 
短い期間だったが、無理をせずに体調を整えることを優先してきたに違いない。 
おそらく、火曜日の午後当たりにイタリア入りする選手が多いだろう。
 
 
3年ぶりのグランプリファイナル・・・!
 
明日、水曜日、男女シニアの公式練習がある。 
 
私と夫は、それに間に合うようにロンドンを発つつもりである。

 

 

Go Yuzu....!

You can do it...!