疑惑の大統領 | ロンドンつれづれ

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ついに、FBIが正式に発表をした。

 

トランプ大統領の選挙に、ロシアが介入していたということは昨年の7月からFBIが調査を始めていたというのである。

 

かつてニクソン大統領もウオーターゲート事件でその職を追われた。 大統領であっても不正な行いをした時は裁かれるのである。

 

ましてや、選挙で不正を犯して大統領になったとあれば、その地位を追われても仕方がないだろう。こうなってもまだ、トランプを支持しているアメリカ人がいることが、実に恐ろしいのである。

 

トランプは、「フェイク・ニュースだ!」と、また馬鹿の一つ覚えのようにツイッターで叫んでいる。フェイクな情報を次々と無責任に流しているのは自分だというのに。 都合の悪いことを言う人々を、次々と首にして、自分にすりよる人間ばかりを要職につけてきたトランプである。 証拠もないのにオバマ元大統領が盗聴していたなどとつい最近もツイートしていたが。

 

アメリカ情報局での発表では、「ロシアによるアメリカ大統領選の介入は、民主主義に対する脅威である」と述べられ、ロシアの介入を知りつつ歓迎していたトランプのキャンペーン陣営に対し、厳しく批判している。 また、トランプによる「オバマ大統領の盗聴」とのクレームは、FBI内でも精査したが、まったくその証拠はみつからなかった、ということである。

 

「ロシアのアメリカ大統領選介入を放置しておけば、次の大統領選でもまた介入してくるだろう」と、公聴会での発表者は懸念を隠さなかった。 ワシントンポストのニュースページでは、彼らの発表をヴィデオで見ることができるので、ぜひ見てほしい。

 

キャンペーン中からその人格が大統領にふさわしいかどうか、はなはだ疑問を持たせたトランプが、人気がなかったとはいえ一応まともな候補者と見えたクリントン氏に勝って、大統領になってしまった。 なにかおかしい、いくらなんでも・・・・。そういう気がしていた人は多かっただろう。 サイバー攻撃をかけてトランプの勝利に一役買ったというロシアのプーチンは、最初からトランプ大統領を歓迎していた。プーチンはクリントンが大嫌いだったそうである。

 

さて、プーチンはヨーロッパでは大変に警戒されているロシアのリーダーで、ユクライナのクリミア侵攻などでその侵略的性格は知られている。ロンドンでも2006年に元KGBの職員でイギリスに亡命していたアレクサンダー・リトビネンコに放射能入りのお茶を飲ませて殺したようなロシアのリーダーである。また、自分に都合の悪いことを書くユクライナ出身の人権擁護ジャーナリスト、アナ・ポリツオクブスカヤの暗殺もプーチンだったと、リトビネンコは病院で話した。プーチンはもとKGBのやり手だったことは周知されているが、そのころの仲間を使って、世界中にスパイやアサシン(暗殺者)をばらまいており、まさに事実は映画よりも恐ろしいのである。

 

   

(左はロンドンの病院のアレキサンダー。 右は暗殺されたアナ)

 

当時、私の勤め先から数十メートルのところで事件は起こったので、当日警察がそのレストランの周りを大きくテープで張って通行止めになっていたことを覚えている。リトビネンコは病院で日々髪の毛が抜けて青ざめて死んでいく様子を、イギリスのジャーナリストに記録させて公開したのだ。ロシアが、そしてプーチンがまだソビエト時代となんら変わらないことを証明するために。

 

そんなプーチンに後押しされている、そして仲良くしようとしている大統領というだけで、トランプはヨーロッパでは「うさんくさい」という気持ちがいっぱいなのだ。 プーチンのクリミアへの侵攻は、EUでは満場一致の制裁の対象になっている。 ヨーロッパではロシアやドイツの横暴による悲惨な歴史がまだ記憶に新しい国々が多いのである。国を他国に支配され、故郷や自分たちの言語を奪われ、家を追われた人々の記憶がまだあるからこそ、難民に対して受け入れる風土があるのだ。 だから、ヨーロッパではトランプの難民政策は、心情的にも受け入れがたい。 

 

さて、情報局での公聴会、そしてFBIの断固たる態度で、ロシアの後ろ盾で大統領になったトランプは窮地に立たされているが、また「FBIの言っていることは嘘だ!俺様が正しい!」の一点張りで逃げようというのだろうか。 大統領が、自国の情報機関を嘘つき呼ばわりすることは、長い目で見てアメリカのためにならない。しかし、トランプにはそういう長期的な視野はないのだろう。自分の保身しか考えていないのに違いない。

 

さらに怖いのは、現代の「ポスト・トウルース(真実)」時代で、つまり人々はなにが真実かわからなくなっており、自分の崇拝するリーダーの言うことならばウソであっても「真実」となり、こうあってほしいという願望に合った情報だけを信じようとする傾向が強くなってきていることである。そういう人たちは、周囲がいくら事実を語っても、聞く耳を持たない。自分たちの「真実」と合わないものは、受け入れる価値を感じないのだろう。

 

インターネットの到来で、良くも悪くも、情報があふれかえっている。 なにが真実で何がウソか、その判断は私たち自身に任されるようになってしまった。 メジャー・メディアの質が落ちたことも、ソーシャル・メディアのスピード性に軍配が上がることもあって、人々は新聞やテレビのニュースよりも先に、個人の発するツイッターやブログなどの情報に飛びつくようになった。

 

精査された正確な情報よりも、スピードや娯楽性を求めるようになったのである。

 

そうして、日々刻々と発信されるツイッターに膨大な数のフォロワーがつき、間違った情報を平気で垂れ流す個人(大統領も含む)の言うことを「真実」と妄信する人々が、アメリカには大勢いる(おそらく日本にも)ということである。

 

これは、一部には、新聞やテレビなどのマスメディアの敗北であろう。しかし、もうひとつは、教育の敗北でもあるのだ。  人々が、3行以上の文章を読めなくなっている、ということだ。

 

長い難しい文章は、「うざくて読んでられない」という人々が選挙にでかけて、ツイッターで娯楽的、スキャンダラスなことばかりを垂れ流す候補者に面白がって投票する。 そうやって自分たちが選んだ人間が、どれほどの強大な権力を手にするかは、よく考えていないのだろう。

 

その権力を誤って使って、多くの人の命が奪われることだってあるのだ。 それに核兵器発射のボタンも握っているしね・・・。

 

ことは、アメリカだけにはおさまらない。トンデモ大統領のおかげで世界中が迷惑するのがアメリカという大国なのだ。

 

どうして、もっと誠実で正義感の強い人々が、大国のリーダーになっていないのだろうか。

 

アメリカ、中国、そしてロシア・・・・。

 

それとも、誠実で正義感の強い人は、政治家になることに興味がないのだろうか。

 

もっとも、権力に対して、異常に強い執着を持つ人々は、そもそもあまり誠実で正義感の強い人々ではないかもしれないが。

 

FBIにしっかり頑張ってもらって、なんとか本当の「真実」をしっかり国民に知らしめてもらいたい。 ジャーナリストも頑張れ!ウオーターゲートの時にがんばったじゃないか、ワシントンポスト! ニューヨークタイムズ! (どちらもトランプには嫌われているけど)

 

 

そして、人殺しを合法的に行うような人間に権力を握らせないようにしてもらいたいものだ、と絶望を感じながらも思うのである。

 

(資料)

時事通信

Washington Post

New York Times

トランプのツイッター