今週は、どうもいけない。
スケートの練習をしていて、負傷が多すぎるのである。
4月までは、多くても週に二回のリンク通い、それ以上は仕事もあって、難しいかったのである。
難しいのに、無理をして5月に入ってからはなるべく週に3回、残業の分をお昼やすみにくっつけて2時間休みにして、リンクにとんでいって練習したりしている。
金曜日も本来は自宅で論文を書いていなくてはならないのに、朝早起きしてリンクにいって練習したりしている。
そのうち、スピンがぜんぜん回れなくなってしまったので、気持ちはますます焦ってきたのであろう。
練習の時間をふやせばなんとかなるかな、と思って回数を多く通うようにした。5月に入って、多い時は週に4回も通っているのである。
ここで、大切なのは、スケートはとてもメンタルなスポーツだ、ということである。
そして、とってもデリケート。ちょっとした体調の不調も、すぐにひびくのである。
メンタル的にあせっており、体調的に疲れがたまっていたのだろう。
月曜日はコーチと一緒にプログラムを練習中に、トウステップのところで、初めて大コケしたのである。
ちょっとだけ、つま先をあげるのが足りなかったのか、トウピックをひっかけて、2メートル以上ぶっ飛んで、膝から着氷したからいけない。
その痛さったらなかった。 膝の皿が、割れたかと思いました・・・。
しかも、曲かけをしている最中だったから、他のスケーターさんはちょっと遠慮してリンクのはじっこに寄っていてくれて、なんとなく私を注目しているさなかでの大コケである。
いやあ、痛かったし、恥ずかしかった。だって、ジャンプなんかの転倒じゃないんだもの。ただの、トウステップだもの・・・。
そして火曜日には、昼休みにまた練習中、ほんのターンの練習中に、バランスをくずして、大コケしたのである。
スリーターンをいくつか連続で行う中で、バックアウト・スリーをやろうとしたところ、あっというまにすっころんで、顔面をしたたかに打ったのである。 これは、片足でバックのアウトに乗って滑りながら、体をひねってフォアのインエッジに切り替えるもので、バックのスリーターンでは基礎中の基礎である。しかし・・・難しいのだ!!!
そういえば、このところ、プログラムの練習を中心にしているから、バックスリーの練習がずーっとおろそかになっていた。
1ヶ月前に出来たからと言って、今もできるとは限らないのがスケートである。 練習のたびに、基礎の基礎からのドリルを全部、一通りやって、(ピアノのハノンみたいに)そして、毎回ちゃんと体に思い出させておかなくては駄目なのである。
頭ではわかっているつもりでも、バックスリーを私の体は、忘れていたのだ。 だから、あっというまに転倒したのである・・・。 こういう風に、簡単そうなことをやっていて転倒したときが実は一番危ないのだ。心の準備がないから・・・。
顔をしたたかに打って、痛いな、とは思ったけれど、そこはそれ、痛みに鈍い私である。そのまま起き上がってまた練習を続けたのである。
着替えに更衣室に戻ったところ、仲間のスケーターさんに、「あら!顔!大丈夫!?」といわれて触ってみたら、右目の上、おでこの辺りが著しく腫れているではないか!
眉毛の部分がかなり突き出して、こぶになって、ゴリラの前頭部のようになっている。触っても、あまり痛くないのだが、たしかに腫れている。
そして、気がついたのだが、前歯の一本が、ぐらぐらするではないか。
口元も、かなり打ったようである。舌でおしてみたら、前歯が1本、半分に欠けて、とれてきた。そういえば、口の中にちょっと血の味がしていたな・・・。
いやあ~、どうしよう!
これから仕事に戻るのに、日本みたいにマスクをどこにも売っているわけではないじゃないか!
事務所にもどって、部下の女の子に歯をむき出して笑って見せたら、彼女は血相をかえて、「どうしたんですか!いったい!」と大騒ぎである。 そう、この目の上のコブたんと、歯抜けの顔は、ショッキングだろう。
笑い事ではないが、鏡で自分の顔をみるとおかしくなってしまって笑ってしまった。いや、ほんと、笑い事ではありません。
その日の夕食は、友人とレストランでの約束だったが、歯抜けの顔でどうどうとでかけた。
この悪友を喜ばせたことは間違いない。彼女は下を向いて、死に物狂いで笑いをかみ殺していたが、「いいよ、笑っても」というと、「ほんとにあんたって、おかしいわよ!60歳にもなって、スケートですっころんで、歯を折るなんて!」とふきだした後、笑いが止まらない様子である。 いいねえ、人の不幸でそんなに笑えて・・。
食事を楽しんだ後は、自宅にもどり、夫にも歯抜けの笑顔をサービスしたところ、ぎょっとして、青い顔をして「大丈夫か!顔から転んだんだろう!脳震盪を起こさなかったか!」とかなり真剣に心配をされた。
「もうスケートなんかやめろ」といわれるかと警戒をしたが、それは言わないでくれたので良かったが、「パパダキスも簡単なターンをしていて転倒して、脳震盪を起こしたんだよ!油断していると危ないぞ!」といわれた。
そのとおりです。
ジャンプの練習などでは、かえってめったに転ばないし、転んでも心の準備ができているから、あんまりひどい転び方はしない。
でも、ただのクロスオーバーなどで、ブレードどうしがぶつかったりして転倒したり、ターンやステップの最中に転倒すると、転ぶと思ってなかっただけに、ひどい転び方をして、本当に痛いし、怪我に通じる。
フィギュアスケート、本当はけっこう危険なスポーツなのである。
その夜は顔中にシップをはって寝たが、翌朝起きたら、眉毛のあたりの腫れが、今度は黒いあざになって、まぶたと目の下に下りてきたので、いよいよ誰かに殴られたような風情である。
前日に電話をして、歯医者に予約を取って緊急の治療をたのんであるが、実はたまたま夫も同じ先生に治療をうけたばかりである。夫は奥歯のクラウンが取れてしまってはめてもらい、私は前歯を折ってしまって治療。
夫は、「きっと夫婦喧嘩をして、次々にやってきたと思われるね・・・」と。
案の定、先生のポールは、顔をみるなり、にやにやして、「昨日ご主人の治療をしたよ。今日は君。どうしたの、なにかファミリー・イシュー?」ですと・・・。
目の周りは真っ黒だし、歯は折れてるし・・・。
なので、しきりに「私はフィギュアスケートをやっていて・・・」と一生懸命説明しちゃった。 だって、DVだと思われたら通報される恐れがある。 「夫婦でパンチしあったわけじゃありませんから」と説明した。
ポールはあっというまに折れた歯をレジンで接合してくれた。「でもこれは臨時だからね。ちゃんと治療しないと、いつまた取れるかわからないよ」ということで、6月16日の試合までにちゃんと治療してもらうことになった。 なんと、300ポンドですと・・・。日本円で6万円近いですよ・・・。
あ~あ、余計なことして、余計な出費になっちゃった。 ほんと、愚かな私。
このところ本当にいろいろと予期せぬ出費が多くて、涙がでるよ・・・。 お昼ごはんを抜いてがんばろうっと。
そして、その夜は、目の周りが黒いまま、しかし歯はしっかりなおったので、ちゃんとセミナーの仕事と夕食会の残業を、10時半までこなしたのでした。
ところで、くだんの悪友であるが・・・・
夕食を共にした翌日。私の携帯がなったのである。朝9時半に。「誰だろう、仕事中に?」
私の携帯の番号は、夫と息子、仕事仲間と歯医者ぐらいしかしらないはずだ。 怪訝に思って「ハロー?」というと、相手は「・・・・・」、無言である。
わたしの携帯は、いわゆるガラケーというやつで、誰が電話してきたかわからない。(あるいはわかるのかもしれないが、チェックしたことが無い)
もう一回「ハロー?」というと、「〇〇さんよね?」と言うから、「そうですが。」というと、爆笑して、「あ、仕事に出てるんだ」と。
「なんだ、あんたか。仕事中になに?」と私が言うと、相手は無言のまま、笑いをこらえている様子で、しゃべれない。
「もしもし?もしもーし!なんの用よ?」といっても、くっくっくっくと笑いを死に物狂いでこらえる音が聞こえてくるだけである。
「ちょっと。何がそんなにおかしいのよ!」と問いただしても、「ちょっと・・・ごめん・・・・笑いがとまらない」と。
「へんなやつだな。失礼だぞ!なにを笑ってんのよ!」というと、1分近くもたってからやっと「ごめん、ごめん。ゆうべあんな顔で夕食にきたのに、ちょっと冷たい態度をとったかなと思って、やっぱり心配で電話したのよ」というではないか。
そう、前日の夜、彼女と一緒に夕食をしたとき、歯が折れて、歯抜けのまま、そして目を腫らしたままでかけた私にたいして、彼女は、「大丈夫?きっとご主人にもうスケートは止めろっていわれるわよ」とコメントしただけなのである。そういう、冷たい女なのである。
しかし、一応、心配はしたみたいである。夜を越して、「まさか今日仕事にきているとは思わなかったわよ・・・」というから、「だって、別にどこも痛くないし、今日は大きなセミナーと夕食会があるからね」というと、「エッ!」と絶句して、「その顔で、夕食会?」というから、「歯は昼休みに治してくるわよ」といってやった。
確かに、顔はひどいことになっているが、それで仕事を休むわけにはいかないではないか。私の代わりがいるわけじゃなし。そうすると、彼女はまたしばし、笑いを必死でこらえる音を私に聞かせた後、「じゃあ、頑張ってね」と電話を切ったのである。
ところで、その日は予定通り80名ほどのイギリス人を集めて、日本の新進気鋭の写真家に関するセミナーをテイトモダーンで森山大道氏の展示会などを行う有名なフォトグラフィック・キュレイター氏にしてもらい、その後彼を囲んだ夕食会に移動したのである。
イギリス人諸君は、私の顔を普段より、2,3秒長く注視したが、だれも「それはどうした?」と聞くこともなく、私も説明をすることもなく、家に帰ってきたのである。さすが、イギリス人。出席者の半数以上は、私のよく知る人であるというのに。
そして、残業して夜12時過ぎに帰宅すると、夫が「今日、ゾイアから電話があったよ。携帯に何度かけてもでないっていって。凄く心配していたよ。」と私のコーチからの伝言を伝えてくれた。そう、もちろん、セミナーや夕食会中は、携帯の電源を切ってあるので、電話には出られないのだ。
ゾイアが「リンクで転んで怪我をしたんだって?」と聞くから、「だいじょうぶですよ、ちょっと目の周りが黒くなって、歯が折れただけですから」というと、Oh, my god...!!! Oh, my god....!!! と、5回ぐらいさけんでた、と夫が。そう、怪我は、自主錬をしている最中なので、ゾイアはいなかったのだ。誰かから聞いたのだろう。
ああ、ゾイアに心配かけちゃったな。
そして、翌日には職場にゾイアからお見舞いの花束が届いたのである・・・。 やさしいコーチだ・・・。
職場の机上のカオスぶりがわかりますね・・・花瓶など置けないことが・・・。
さて、転倒から数日たって、いまはだいぶ腫れもひきましたが、化粧をとると目の周りはこんな感じになっております。目の周りがぐるりと真っ黒でしたが、だんだんと紫色になり、いまは、黄色に変色しつつあります・・・。
ほんと、スケートをなさる皆さん、くれぐれも、怪我には気をつけてくださいよ・・・。