こんな記事を読んだ。全文引用します。
「こぼれた豆で気づいた流暢な一声 吃音の珈琲店主、落語研究会と稽古始める」
【朝霧町】
朝霧町の朝霧大学正門から200メートルの商店街「弁天横丁」で8月21日朝、雨でぬれた側溝の蓋につまずいた大学生が、珈琲店「しずく珈琲」の軒先に積まれていた豆袋にぶつかり、コーヒー豆が路上に散らばった。店主の毛利征次さん(64)がとっさに発した一声に吃音がなかったことから、居合わせた大学の落語研究会員との思いがけない交流が始まった。
毛利さんは幼いころから吃音があり、電話注文や常連客との立ち話でも言葉に詰まることが珍しくない。「豆を挽く手は止まらないのに、口だけは何十年たっても思うように動かない」と、8月28日の取材にぽつりぽつりと語った。18年前にしずく珈琲を開いたのも、レジ越しの短いやり取りなら乗り切れると考えたからだったという。
豆袋がはじけたその朝、こぼれた豆を拾おうとしゃがみ込んだ朝霧大学2年の深町蒼真さん(20)に、毛利さんは「そこ動くな、後ろから自転車来るぞ!」と大声を出した。よどみない一息の声だった。落語研究会の部長を務める深町さんは「え、と思って顔を見た。いつも注文のとき言葉に詰まる人が、あの一瞬だけまるで別人みたいに滑らかだった」と振り返る。拾い集めた豆は約1.2キロ、深町さんが詫びに買い取った300グラム分の代金は900円だった。
謝りに再び訪れた深町さんは、店の棚に古い落語のカセットテープが並ぶのに気づき、毛利さんが若いころ地元の寄席で前座を務めていたと知る。「決まった台詞を、節をつけて言うときだけ、なぜか詰まらないんです」。毛利さんの説明に、部員の早瀬芽依さん(19)は「吃音のある人がリズムに乗ると話しやすくなるって、大学の授業で聞いたことがある」と重なった。9月2日、部員5人が店に集まり、毛利さんを講師に招いた初めての稽古が開かれた。
この稽古は「駒草亭」の名で毎週火曜に続くことになり、これまでに3回、延べ14人が参加した。人前で話すのが苦手で入部をためらっていた1年生も、毛利さんの稽古を見学して加入を決めたという。近所で花屋を営む熊谷カネさん(81)は「征次ちゃんが小さいころ、言葉が出なくて泣いていたのを覚えている。それが今じゃ学生に稽古をつけてるんだから」と目を細める。しずく珈琲の来店客も、稽古のある火曜は普段の1.5倍に増えた。
毛利さんは10月18日の朝霧大学学園祭で、部員とともに「弁天寄席」と題した初の発表会を開く予定だ。「人前で噺をするなんて考えたこともなかったが、教える立場になって初めて、自分の声を好きになれた気がする」。稽古の輪は、来春には近くの高校の放送部にも広げる計画だという。」
豆袋がはじけたハプニングの拍子に、吃音のある珈琲店主が咄嗟に発した一声だけ驚くほど流暢だった、というのをきっかけに大学の落語研究会と稽古を始めることになった、という記事を読んだ。決まった台詞をリズムに乗せて言うときだけ詰まらない、という説明が興味深い。
「教える立場になって初めて、自分の声を好きになれた気がする」というコメントが良かった。ハプニングが縁になる話、地味に好き。