こんな記事を読んだ。全文引用します。

「棚田を継ぐ手、祖母を看る手 たった一人のヘルパー、来月で引退」

【棚田村】

棚田村坂上地区で唯一の訪問介護ヘルパーを14年間務めてきた米村フミさん(71)が、来年9月末での引退を表明した。後任は依然として見つかっておらず、要介護認定を受けた村内の高齢者86人のうち、坂上地区の27世帯は米村さん一人の訪問に頼ってきた。新規就農1年目の深町亮太さん(26)は、祖母ハナさん(88、要介護4)の介護をヘルパーと分担しながら米作りを続けており、「フミさんがいなくなったら、田んぼをやめるしかないかもしれない」と表情を曇らせる。

8月20日午後、深町さん宅では小さな異変があった。米村さんの軽自動車のエンジンがかからず、訪問が2時間遅れたのだ。祖母のハナさんは体位を変えられないまま座り込み、亮太さんは畦道の草刈りを切り上げて自宅に駆け戻った。「あの2時間、田んぼと祖母のどちらも守れないと初めて思い知った」と亮太さんは振り返る。米村さんは「私一人が倒れたら、この地区の介護は止まる。ずっとそう思いながら車を走らせてきた」と14年間を語った。

棚田村役場高齢福祉課の秋山誠治課長(45)によると、村の人口1120人のうち65歳以上は48%を占め、訪問介護ヘルパーの登録者は米村さん一人にまで減った。村役場前の掲示板に「訪問介護スタッフ募集」の張り紙が出てから14カ月、応募はゼロのままだ。「賃金水準と移動の負担が大きく、山間部ほど人が来ない。特効薬はない」と秋山課長は認める。

北条大学の宇佐美隆教授(地域福祉論)は「訪問介護の有効求人倍率は全国平均で15倍を超える地域もあり、中山間地はさらに深刻だ。担い手一人に依存する集落は珍しくなく、その人が欠ければ在宅生活そのものが立ち行かなくなる」と指摘する。村は来春から近隣市との広域派遣協定を検討しているが、実現の見通しは立っていない。

9月に入り、村役場前の掲示板には新しい観光ポスターが貼られた。「日本の原風景・棚田村の棚田百選」と銘打ち、坂上地区の石段状の水田を写した写真の下に、来村者向けの撮影スポット案内板まで新設された。その隣には、14カ月色あせたままの「訪問介護スタッフ募集」の張り紙が、画鋲一本で辛うじて留まっている。」

村内で唯一の訪問介護ヘルパーとして14年間働いてきた71歳の人が、来年の引退を表明した、という記事を読んだ。後任はまだ見つかっておらず、訪問が2時間遅れただけで介護と農業のどちらも守れなかった、という孫のエピソードが載っていた。

「日本の原風景・棚田百選」という新しい観光ポスターの隣に、14カ月色あせたままの「訪問介護スタッフ募集」の張り紙がある、という最後の一文が皮肉すぎて笑えなかった。