【作品#0890】F/X 引き裂かれたトリック(1986) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

F/X 引き裂かれたトリック(原題:F/X Murder by Illusion)

 

【概要】

 

1986年のアメリカ映画

上映時間は109分

 

【あらすじ】

 

特殊メイクアーティストのロリー・タイラーは司法省のリプトンから、とある事件の証人であるデフランコの暗殺を偽装するためにタイラーの力を借りたいと依頼される。後日、デフランコの暗殺偽装に協力するが、タイラーはそのリプトンから命を狙われてしまう。

 

【スタッフ】

 

監督はロバート・マンデル

音楽はビル・コンティ

撮影はミロスラフ・オンドリチェク

 

【キャスト】

 

ブライアン・ブラウン(ロリー・タイラー)

ブライアン・デネヒー(レオ・マッカーシー)

ダイアン・ヴェノーラ(エレン)

クリフ・デ・ヤング(リプトン)

メイソン・アダムス(メイソン大佐)

ジェリー・オーバック(デフランコ)

 

【感想】

 

本作でテレビレポーター役で出演したアンジェラ・バセットの映画デビュー作。

 

何か裏がありそうな雰囲気ぷんぷんの中、主人公が陥れられるところくらいまでは面白い。ただ、以降の展開はあまりにも雑だし、主人公に肩入れしにくい作りの映画になっていると感じる。

 

デフランコの暗殺を偽装したタイラーはリプトンから車内で殺されかけ、何とか逃げて公衆電話からリプトンの上司であるメイソンに連絡をして事情を話すと、その公衆電話に殺し屋が現れて公衆電話で話していた全くの別人が殺されてしまう。タイラーはリプトンから殺されそうになった時点でメイソンもそっち側ではないかと思わなかったんだろうか。当然のようにメイソンに助けを求めているが、多くの観客が気付いていたと思うぞ。

 

というかリプトンは車のシートにカバーをかけており、車内でタイラーを殺す手順だったようだが、なぜ目撃される可能性のある街中で殺そうとするのかも理解できないし、仮に血がシートにかかるのが嫌なら別の場所で殺せば良いわけだし、助手席から振り向いて殺そうとしたところをタイラーに邪魔されて逃げられるんだから相当なバカだわな。助手席から振り向いて射殺するならシートカバーでは足りないだろうに。

 

リプトンらに命を狙われることになったタイラーは恋人のエレンの家に行くと、エレンは向かいの建物からライフルで狙撃されて殺されてしまう。そりゃタイラーの人間関係からエレンが突き止められるのは時間の問題だろう。ただ、ここでエレンを殺す必要はない。タイラーを殺すのが目的ならタイラーに気付かれるようなことはしないはずだ。さらにこの殺し屋はエレンの部屋まで上がってきて素人のタイラーと格闘の末に殺されてしまう。敵の側も相当なアホで無能である。

 

恋人のエレンを失ったタイラーは懲りずに今度は助手のアンディを呼び出す。死んだら別のキャラクターに協力を仰ぐことを繰り返しているように見えるのはマイナスポイントである。家にある商売道具をアンディに取りに行かせたタイラーは、アンディが尾行されトム・ヌーナン演じる男の存在に気付く。タイラーはアンディを使ってその男を池の近くにおびき出すと、タックルしてその男を池に突き落としてタイラーとアンディは走って逃げる。ちょっと何がしたいのかが分からんぞ。アンディは尾行されていたがタイラーの存在は気付かれていなかったんだからほかに方法があっただろうに。ちなみに、そこで隠れたトンネルがホームレスの住処になっており、タイラーとアンディが商売道具を使ってホームレスに成りすますのは理にかなっていると思う。

 

そこからというもの、タイラーはどうやって自分の無実を証明しようとしたのか、もしくは黒幕の奴らを捕らえようとしていたのかが見えてこない。これは映画内で全く説明がない。この手の映画ならタイラーが助手のアンディに自分がこれからどういうことをしようとしているか説明をしてそれが観客向けの説明にもなるというのが普通だ。ただ、タイラーはそういった事情は一切説明せずに行動している。

 

タイラーとアンディは警察に押収された商売道具がたくさん積んであるバンを回収しに行く。タイラーは白昼、爆発を装って押収されたバンで逃走する。さらに商売道具の液体を道路にばら撒いて追手のパトカーを撒こうとする。最終的には人形を曲がり角で落としてパトカーが轢いたところで撒くことに成功する。ただ、FXと書かれた青いバンという超目立つ車で逃走し続けるのは無理があるだろう。ちなみに、ここで協力してくれたアンディを置き去りにしている。これ以上迷惑をかけたくないという意図なのは汲むが、いくら何でも自分勝手が過ぎるわ(恋人のエレンが殺されたばかりなのに)。

 

そしてついに黒幕のメイソン邸に辿り着いたタイラーは商売道具を使ったトリックで護衛の男二人をやっつける。鏡のような装置を使って敵の目を錯覚させ、撃つとその装置の向こう側にいるもう一人の男が撃たれて死んでしまう。多分これがやりたかったんだろうが、これは家の中の様子を把握していないとできないし、仮にその装置を仕込んだってそんなうまく装置の向こう側の男を撃つとも限らない。もし二人の男が同じドアから出てきたら意味がないぞ。というかこれが彼の職業で使う特殊な装置なのか(何の映画のどの場面で使ったという設定なのだろうか)。さらにもう一人の男は紐で足を引っかけて倒れたところを叩き殺すことになる。これに関しては特殊な装置は何も関係がない(というかよそ見して紐に引っかかって転倒するって…)。

 

メイソンと死を偽装したデフランコの二人になったところでタイラーはデフランコの銃撃に撃たれたふりをして死を偽装する(多分人形ではないと思うが、いくら何でも危険すぎるしとどめの一撃を食らったら終わりだぞ)。そしてデフランコは持病の心臓病で自滅。メイソンの目の前に現れたタイラーは弾を抜いた接着剤付きの銃を握らせて周囲を包囲している警察の前に放り出す。なぜか銃を下に向けるなどしないメイソンは当然のように警察によって射殺される。そして、タイラーは脈をとられる首、手首などに型取りをしたシリコンを仕込んで自らの死を再び偽装して病院に搬送される。死体袋に入れられたわけだからその場で死亡と判断されたのだろうが、あんな薄いシリコン越しだと脈ぐらい取れると思うぞ。以降の展開は後述する。

 

また、このタイラーの場面の合間に、デフランコを長年追っていたというブライアン・デネヒー演じるマッカーシー刑事の様子も描かれる。結果的にタイラーがほぼ独力で事件を解決したようなもんだから、このマッカーシー刑事が登場する意義がよく分からないものとなっている。しかも、映画的には序盤からタイラーは孤立無援という状態のはずなのに、映画の1/3が終わった段階でタイラーが犯人ではないと信じる人物が登場してしまうのも映画的には面白さを半減する要素になっている。結果的にマッカーシー刑事は何の活躍もしないまま終わってしまうので、ある意味意外性のある展開だが。

 

そして驚きのラスト。なぜか誰もいない遺体安置所から抜け出したタイラーはマッカーシー刑事になぜか見つかってしまう。すると、舞台はスイスに移行する。メイソンは死ぬ前、タイラーに金を分けようと買収を持ち掛け、スイス銀行の貸金庫の鍵を渡される。そしてタイラーとマッカーシーはデフランコの資産を持ち逃げして映画は終わる。いくら何でもこれはダメじゃないか。マッカーシー刑事は周囲とトラブルを起こしてはいるが、正義感溢れる刑事という設定だった。この設定がまるでぶち壊しになっている。また、タイラーも中盤以降の時点で恋人のエレンを殺されたことなんてすっかり忘れているみたいだ。あと、タイラーがデフランコの資産のありかを知っていることをマッカーシー刑事は知らないはずだから、この展開も違和感がある。それに細かいことだが、その大金をどうするつもりなのか。事件の関係者二人がスイスからアメリカに大金を持ち込んだら真っ先に疑われるぞ。それともアメリカの銀行に送金でもするつもりだったんだろうか。どうも腑に落ちないラスト。

 

特殊効果を仕事にする男がその仕事を生かしたトリックを使う場面なんてたかだか数場面である。しかも、場面によってはそのトリックを使うのが前提で作られた違和感まみれのものである。さらに、そのトリックのほとんどを観客と共有しちゃっているもんだから、そりゃそうなるだろうという感想にしかならない。アイデアは面白そうなのに、あまりにも雑。そもそも好きになれるタイプの主人公ではなかったが、ラストで大嫌いになってしまったわ。

 

 

 

【関連作品】

 

「F/X 引き裂かれたトリック(1986)」…シリーズ1作目

「F/X2 イリュージョンの逆転(1991)」…シリーズ2作目

 

 

 

取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【ソフト関連】

 

<DVD(2枚組)>

 

本編

├「F/X 引き裂かれたトリック」

├「F/X2 イリュージョンの逆転」

言語

├オリジナル(英語)