【作品#0843】起終着駅(2015) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

起終着駅

【概要】

2015年の日本映画
上映時間は111分

【あらすじ】

裁判官の鷲田完治は不倫相手を自殺で亡くしたことで、妻と離婚して4歳の息子とも会わなくなり、国選弁護人に職を変えるのだった。それから25年後。自身が執行猶予にした椎名敦子が恋人探しの依頼で家を訪ねてくる。

【スタッフ】

監督は篠原哲雄
音楽は小林武史
撮影は喜久村徳章

【キャスト】

佐藤浩市(鷲田完治)
本田翼(椎名敦子)
中村獅童(大下一龍)
尾野真千子(結城冴子)

【感想】

映画の冒頭は現在から25年前。裁判官をやっていた主人公は不倫相手を自殺で亡くし、それが原因で妻とも離婚した。4歳だった息子とも会わないようになり、裁判官も辞めて釧路で国選弁護人として生きているという設定だ。この冒頭に情報を詰め込み過ぎじゃないか。この主人公に不倫相手がいそうな感じがしないし、登場してすぐにその不倫相手が死ぬというのもなぁ。これらの情報は映画の現代の地点から回想シーンなり主人公の生活ぶりなどから徐々に分かってくる感じにした方が良かった気がする。

しかも、不倫相手の自殺現場を主人公が目撃する駅の場面はでモロに合成である。主人公の今後の人生をがらりと変える出来事だけにもう少し地に足着いた映像にできなかったか。ここまで合成が分かりやすいと意図的なのかと勘繰ってしまうが、そうではなさそうだ。あと、この不倫相手の自殺の理由が映画内で全く説明されないのはなぜなのか。主人公も分かっていないのか、主人公は分かっているが観客に明かしていないだけなのかそれさえも分からない。

また、主人公が変わる(成長する)のが25年後っていうのもなぁ。これは25年前に4歳だった息子が結婚式の招待をしてくるというところがあるからなのは理解できるが、ちょっと遠すぎるわ。それまでにも主人公が成長する機会はいくらでもあったはず。本当にこのタイミングしかなかったのかと思ってしまう。ただ、人間が変わるタイミングなんて分からないし、他人からすれば本当に小さな出来事が契機になることだってある。なので好意的に解釈すればそうなんだが、どうもモヤモヤは残る。

そして、本作で主人公を変える契機を与えるキャラクターは主人公が執行猶予にした椎名敦子(本田翼)である。はっきり言ってこのキャラクターは映画的に優等生過ぎる。主人公の家に恋人探しの依頼にやって来た時点では暗くて寡黙な女性という印象である。ところが、主人公が彼女を一度家に上げるとずけずけと主人公の生活に入り込んでくる。後に分かってくるが、彼女は薬中の恋人を持つホステスで昔に実家を捨てているという設定だ。そして、主人公は突然高熱を出した敦子を救い、意を決して実家に戻った彼らが発見した敦子の恋人の命を救う。言っちゃ悪いが、こんな若くてかわいい女の子が親くらいに年の離れた男性の家にずけずけと上がり込むとは思えない。

しかも最初は椎名敦子の依頼を主人公は断っている。なのにその場で態度を翻して依頼を受けることになるのだが、これも理由が全く伝わってこない。本作では決して主人公が彼女のことを「かわいい女の子だから」助けたという描写にはなっていないと思うが、でもそう思えてしまうのだ(本田翼の太ももを映すショットが多くないか)。

この現実味のなさは一体何なんだろうか。過去の過ちから立ち直れない主人公に若くてかわいい女の子をあてがい成長するってそんな話あるか。確かに受け身だった主人公が少しずつ主体的になっていくのは伝わってくるが、その動機が見えてこないな。主人公は過去に不倫相手を自殺で亡くし、妻と離婚して当時4歳だった息子と離れ離れになる。物語の展開に過去の要素があまり絡んでこないし、見ていてもリンクする箇所を見つけられない。主人公に付きまとう大下も判事補の森山もそういった過去を思い出させようとするためのキャラクターでしかなく、どうもこの二人は物語に馴染んでいない。だとしたらこんな過去はなかったことにして、ただただ無気力な国選弁護人ということで良かったように思う。

ただ、主人公は国選弁護人の仕事をいい加減にやっている訳でもないし、生活が乱れている訳ではない。何ならむしろ国選弁護人としては信頼できる男として周囲から見られているし、自炊をして部屋も整っている。だからこそ、過去の過ちや息子からの結婚式出席依頼の連絡にも逃げてしまうところが際立つのだと思う。

さらに自分を見捨てた父親に対して自分の結婚式に出席してほしいと依頼してくる。これも主人公に対して甘すぎないか。これは息子から興味を持たれていないとか結婚式への出席を断られているとかそういう設定にしたうえで、主人公が息子と本気で向き合うというのならまだ理解できる。ところが、息子の側から手を差し伸べてくれるのだ。招待状が隣のポストに入っていたことで返事が出来なかった主人公に対して息子がわざわざ電話までかけてくれる。それでも主人公は断るのだが、最後の最後になって「やっぱり行く!」って感じで電車に乗り込む。ちなみに飛行機ではなくて時間のかかる電車で行くのは冒頭に一応の伏線があるのだが、だから何だって話である。

この物語を見ても何かに迷う人や過去に過ちを犯した人に行動を促すきっかけを与えられるだろうか。はっきり言って甘すぎるわ。人間、そこまで他人に興味なんてないぞ。なのに、椎名敦子も息子も主人公に対してある意味手を差し伸べてくれる。その差し伸べてくれた手を最初は払ってしまう主人公。全く好きになれないキャラクターだったな。




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