【作品#0816】心の旅路(1942) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

心の旅路(原題:Random Harvest)

【概要】

1942年のアメリカ映画
上映時間は126分

【あらすじ】

第一次世界大戦も終わる頃、フランス戦線で負傷したイギリス陸軍大尉は記憶喪失になって精神病院に入院する。ある日、散歩に出かけた彼は戦争終結を祝う群衆に紛れてタバコ屋に入ると、親切な踊子ポーラ・リッジウェイと知り合い彼らは恋に落ちるが…。

【スタッフ】

監督はマーヴィン・ルロイ
音楽はハーバート・ストサート
撮影はジョセフ・ルッテンバーグ

【キャスト】

ロナルド・コールマン(ジョン・スミス/チャールズ・レイニア)
グリア・ガーソン(ポーラ・リッジウェイ/マーガレット・ハンソン)

【感想】

1941年にジェームズ・ヒルトンが発表した同名小説の映画化。アカデミー賞では作品賞含む7部門ノミネートされたが受賞はならなかった。

全体的に都合のいい展開ばかりが気になる。精神病院から抜け出した記憶を失った主人公は煙草屋でうろたえていると、美人の踊り子ポーラが助けてくれる。精神病院なんかにいるべきではないとして、見ず知らずの主人公に対してあれもこれもと世話を焼いてくれる。踊り子としての生活があるはずなのに主人公のためにその生活を捨てて田舎に逃げる。ポーラと一緒にいると吃りのような症状は回復し、互いに恋に落ちて結婚することになる。洗浄で身も心もボロボロになった男に美女を用意する展開は、そういう男たちへの労いの意味もあったのかと思ったがそうではないかもしれないな。

それから3年が経過し、どうやら書き物の仕事をしていた主人公は出版社に認められて長期契約のために出版社からお呼びがかかることになる。主人公の書き手としての苦労などは一切描かれることがない。そういう才能に偶然恵まれていたということなのだろう。

そして、出版社へ向かうためにリヴァプールへ行くとそこで交通事故に巻き込まれた主人公は幸い軽症で済んだのだが、記憶をなくした1917年時点までの記憶を取り戻し、そこから3年間の記憶をすっかりなくしてしまう。今度はチャールズ・ネイリアとしての人生を描いていくことになるのだが、いざ3年以上ぶりに実家に帰ると父親が数日前に亡くなったと知る。そして、父親の事業を引き継いでチャールズは実業家として成功していくことになる。ここでも彼が実業家として苦労する姿は描かれず、こちらも才能に偶然恵まれたという形になっている。

チャールズの様子ばかり描いていた本作は主人公がリヴァプールに行ったきり帰ってこないポーラの家の様子が描かれることはない。本作ではポーラがチャールズの秘書として働いているところに急に移行する。新聞に主人公の写真を見つけてはじめて主人公がチャールズという人物であると知り、マーガレットという偽名を使って彼の秘書に応募して採用されたようだ。チャールズとその会社とは取引があるというセリフがあった。前の会社でもマーガレットという名前を使っていたのだろうか。前の会社に在籍していた時にチャールズの新聞記事を見て転職を決意したのだとしたら名前を変えてチャールズの秘書になるのは無理があるだろう。

しかも、ポーラは主人公に対して記憶を失っていた間に結婚していた相手が自分であることを伝えることもない。後に知り合いの精神科医に自分が結婚相手だった話はしない方が良いと勧められる場面があったので、そういうことだと事情は察するが、もしチャールズが自分の知るスミシーだと分かれば真っ先に自分がポーラであることを伝えるはずだがそういった苦悩も描かれることはほとんどない。というか、彼らが夫婦であるという証人はポーラの地元にいくらでもいるじゃないか。なぜ彼らの力を借りようとせずに、知り合いの精神科医の意見を真に受けてしまうのか。というかポーラは主人公と出会った時に精神病院なんて人間のいる場所ではないといった旨の発言をしていた。その精神科医を信用するなんてポーラというキャラクターが信用できなくなるだけだぞ。

そして、チャールズには自分を慕う義理の妹キティがおり、彼女の気持ちに押されてチャールズは彼女との結婚を決意する。ところが、煮えきらないチャールズの姿を見てキティは結婚を取りやめると言い出す。わざわざチャールズを慕う年下の女性キャラクターを登場させて、何かを察するように身を引くというのも出来すぎた話であると感じる。

そこでようやくチャールズはなくした3年間の記憶を取り戻そうと行動に出る(今更かよ)。ちなみにこの時点でチャールズが記憶を再びなくしてから12年が経過しているが、見た目の変化などは基本的になく、グリア・ガーソンはずっとあの時のまま。そしてポーラ(マーガレット)はリヴァプールに滞在した際のホテルを当たって、ホテルに残されてある荷物を確認するようにと進言する。そして、チャールズとポーラはそのホテルに行って12年前にチャールズが訪れた際の荷物がそのまま保管されているが、どれだけ良心的なホテルなんだ。さすがに12年前の忘れ物なんてとっくの昔に処分されていただろうに。しかも、それを見たチャールズが何も思い出せないのならこの場面はなくても良かった気がするな。

すると、チャールズは周囲からの要請で国会議員にまでなってしまう(一体どんな才覚の持ち主なんだ)。そして、チャールズはポーラ(マーガレット)に結婚を申し込み二人は二度目の夫婦となる。ポーラはずっとマーガレットと名乗っているが結婚に際して偽名は問題ないのだろうか。

それでも心の穴を埋められないポーラ(マーガレット)はチャールズとの旅行話を持ちかける。そして立ち寄った街が見覚えのある場所であることに少しずつ気付いてきたチャールズは最終的に失った3年間の記憶を取り戻して、マーガレットのことをポーラと呼んで映画が終わる。このオチは誰もが想像できるものである。

結局のところ本作で何を描きたかったのかがさっぱり分からなかった。戦争で精神をきたして自分が誰かも分からなくなった主人公を事故に遭わせて再び記憶を失わせ、それに伴い妻だった女性は子供も失い孤独になり再び主人公の下に現れるも自分のことを覚えてくれていない。最終的に主人公が失った記憶を取り戻して映画が終わるのだが、全くハッピーエンドに見えない。特にポーラはかなり行動的なのに知り合いの精神科医の意見を優先して記憶を失っていた間に自分が妻だったことを告げることは一切ないのは気にかかる。彼らが作った子供が死んだという設定はポーラが主人公と婚姻関係にあったという証拠を消すためだったんじゃないかと思えてくるし、もしそうだとしたら子供はいないという設定で良かったじゃないか。戦争によって引き裂かれた男女というには物語があまりにも作り込まれすぎている気がする。

気付けば3年とか12年とか経過しているのも気にかかる。主人公が記憶をなくす前にいた場所へ訪れるだけなら出来ないことでもないだろう。終盤に訪れる場所へ主人公を早々に連れて行っていれば記憶がもっと早く蘇ったかもしれないわけで、そこまでポーラが行動しないところが理解できない。結局自分で自分の首を絞めているようにさえ思えてくる。映画的にも見え透いたオチに対してもったいぶり過ぎ。これでは感動できない。




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