【作品#0798】間違えられた男(1956) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

間違えられた男(原題:The Wrong Man)

【概要】

1956年のアメリカ映画
上映時間は105分

【あらすじ】

妻のローズと二人の子供と貧しいながらも幸せな生活を送っていたマニーは、妻の歯の治療代を借りるために保険会社のオフィスを訪れた。ところが、職員たちがそのオフィスに二度強盗に入った男とマニーがそっくりだったために警察に通報し、マニーは逮捕されてしまう。

【スタッフ】

監督はアルフレッド・ヒッチコック
音楽はバーナード・ハーマン
撮影はロバート・バークス

【キャスト】

ヘンリー・フォンダ(マニー)
ヴェラ・マイルズ(ローズ)

【感想】

ヒッチコックにとって最後のワーナー・ブラザースでの作品。1953年に実際に発生した事件を元に映画化。モデルとなったクリスは不当逮捕で市を訴え50万ドルを請求したが、たったの7千ドルの和解金で受け入れることにしたようだ。ちなみに映画のモデルになったことで2万2千ドルを手にすることになった。また、本作には実際の目撃者、事件の発生した場所、主人公が入れられる独房、田舎のホテルと管理人、ローズの収容される療養所など実際の関係者や実際に使用された場所が撮影で使用されている。

冒頭にアルフレッド・ヒッチコック監督自ら登場して「本作は今までの映画と違う」といった趣旨のスピーチをしている。ヒッチコックの映画でもシリアス一辺倒であったり、後味悪かったりという作品は確かにあった。それらと比べても本作はかなりシリアスである。

1953年に起こった出来事を1956年に映画化しており、その当時のアメリカ社会も覗くことができる。たとえば、警察は事情聴取をした後、強盗の被害に遭った店に主人公を入れることになる。もちろんお店側には事前に伝えてあるようだが、強盗の容疑者を単独でお店に入れるなんてそんな恐ろしいことが実際に行われていたのだろうか。だとしたらかなり危険なことである。

また、新聞紙面に自身が誤認逮捕で真犯人が見つかったことが一面にでかでかと掲載されていた。誤認逮捕をここまで新聞で報じてくれたらまだマシにも思える。警察があっさり間違いを認めそうにないし、仮に認めたとしても新聞には隅っこの方に掲載されてそう。

確固たる証拠はないまま、目撃証言や筆跡鑑定によってマニーは逮捕されてしまう。友人が保釈金を払ってくれたことで、マニーは自らの手でアリバイを立証するために必要な情報を集めて回る。ところがアリバイ立証に必要な人物はことごとく死んでおり、非常に困難な状況に立たされてしまう。裁判もうまくいかずにすべてやり直しとなり、観客でさえもうんざりした気持ちになっているところへ真犯人が別の場所で犯行を犯して捕まったことで一件落着となる。もし真犯人が捕まらなければマニーはどうなっていたことだろう。おそらく裁判には負けていただろう。後の時代ならとっくに捕まっていたであろう犯人も一つ時代が異なることで結果も異なるのだから末恐ろしいものを感じる。

真犯人の面通しが終わって、マニーを犯人だと言っていた二人の女性がマニーを目にするとそそくさとその場を後にする。この二人の女性はマニーを犯人だと見間違え、マニーの人生を滅茶苦茶にしてしまったのに、謝罪の一言すらない。そして、彼を不当逮捕に追い込んだ警察官らも誤認逮捕を謝罪することはない。たとえ自分の間違いや過失によって誤認逮捕が発生してその人やその人の家族が酷い目に遭おうが、所詮は他人事なのだろう。そんな彼らを目の前にしてもマニーは謝罪を要求したり憤慨したりすることはない。もちろん犯人が悪いのだが、自分を犯人だと言った目撃者や警官のせいで妻が精神を患ったとして怒っても不思議ではない。

本作の描く怖いところは、一度犯罪者と間違われると取り返しのつかないことになる可能性があるというところよりも、それによって家族が精神的なダメージを追う点であろう。ヴェラ・マイルズ演じる主人公の妻ローズは、信じる夫が逮捕されてしまい、家にはまだ小さな二人の子供がいる。なのに、裁判はうまくいかずやり直しとなり、事件解決の糸口すら見えない状況である。頼みの綱である妻が病んでしまう展開は観ていて辛いものがある。

ただ、本作はとことん主人公に厳しくしている訳ではない。この手の映画なら、今までは親友や仲間だと思っていた人間までもが主人公を信じることなく罵声を浴びせたり関係を切ったりしてしまうものだが、本作ではそういったところは描かれることはない。また、映画のラストの字幕ではローズが回復したと記載されているが、完全に回復することはなかったそうだ。さすがのヒッチコックもここまで史実通りにはできなかったようだ。モノクロ映画で暗い場面も多いが、その意味において結構優しめの映画とも感じた。

最終的に主人公への疑いはすべて晴れ、精神を病んだ妻も無事に回復したと字幕で表記される。部分的には映画内に引き込まれるさすがの演出や演技も光るが、映画で描かれたこと以上のことは感じなかった。




取り上げた作品の一覧はこちら



【配信関連】

<Amazon Prime Video>

言語
├オリジナル(英語/イタリア語/スペイン語)


【ソフト関連】

<BD>

言語
├オリジナル(英語/イタリア語/スペイン語)
├日本語吹き替え
映像特典
├ヒッチコックと“間違えられた男"
├オリジナル劇場予告編