【作品#0765】ザ・インターネット(1995) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

ザ・インターネット(原題:The Net)

【概要】

1995年のアメリカ映画
上映時間は114分

【あらすじ】

在宅勤務でコンピューターソフトのバグの修正の仕事をしているアンジェラは、仕事仲間のデイルから送られて来たフロッピーディスクの中身を確認すると、病院や政府の機密情報にアクセスできることが判明する。アンジェラはすぐに休暇でメキシコに向かうと、そのフロッピーディスクを奪おうとする男たちから追われることになる。

【スタッフ】

監督はアーウィン・ウィンクラー
音楽はマーク・アイシャム/ジェフ・ロナ
撮影はジャック・N・グリーン

【キャスト】

サンドラ・ブロック(アンジェラ)
ジェレミー・ノーサム(ジャック)

【感想】

イギリス出身のジェレミー・ノーサムにとってハリウッドデビュー作となった本作は、2,200万ドルの予算に対し、全世界で1億1千万ドルを売り上げた。また、1998年には本作のテレビシリーズが製作され、2006年には本作とほぼ関連のない続編が製作され、本作の監督アーウィン・ウィンクラーの息子チャールズ・ウィンクラーが監督を務めている。

原題は日本語タイトルと異なり「The Net」である。ネットだけで通じないと考えた日本の配給会社の配慮であろうが、それとは関係なくそもそもネットに関する話はそこまで中心ではなく、フロッピーディスクの奪い合いという、割と古典的な作品である。

そもそもアンジェラが旅先にフロッピーディスクを持って来ると思えない。久しぶりの休暇と楽しみにしていた彼女がわざわざ仕事を思い出させるものを持って来るだろうか。

ジャックはディスクを奪ってアンジェラを殺すチャンスがいくらでもあったのにアンジェラにあっさり逃げられてしまう。船で沖合に出てからアンジェラを殺すという予定だったのは分かるが、なぜあそこまで時間をかけているのか。アンジェラが美人だから殺せなかったとか好きだからためらったいう感じにも見えない。挙句の果てには銃を忍ばせたジャケットを放ったらかしにしてアンジェラに銃を見られ、その銃でアンジェラを撃とうとしたら銃弾を抜かれていたという失態を犯す。ジャックがアンジェラに銃に詳しいことを指摘するとアンジェラはコロラド出身だと話す。ちなみに本作の4年後にコロンバイン高校での銃乱射事件が発生する。

メキシコでパスポートなどをなくしてしまったアンジェラは、大使館へ行くと係の者から別の人の臨時のビザを発行してもらう。ここがちょっと分からん。ジャックが用意した展開のようだが、どうやってそこまで手を回したのか。そもそもジャックは船上でアンジェラを殺す手筈だった。ジャックらがとても頭の切れる連中には見えないのでここまで想定していたとは思えない。また、アンジェラが「そんな人知りません。別人です」と言い張ったらどうしたのか。サインひとつしただけでビザが下りるとも思えないし、何とも強引で都合の良い場面だ。

そしてやっとの思いでアメリカの自宅に戻ると、アンジェラが家を空けていたたった1週間くらいで彼女の家まで売られている。たとえ周到に準備していたとしてもそんなに簡単に家は売れないだろう。しかも近所のおばちゃんが登場しても近所付き合いはなかったとしてアンジェラのことを知らないとまで言っている。このおばちゃんも仕込みかもしれないが、仮にそうだとしても6年も住んでいれば他に顔見知りくらいできるだろう。

アンジェラは別人のビザでアメリカに入国し、自分がアンジェラであることを証明できなくなっていく。その設定をリアリティあるものにするために用意された設定がいくつもある。たとえば、アンジェラには知り合いがいないという設定らしいが、彼女のキャラクターからしてそれはあり得ない。人付き合いが嫌いだとしても、彼女自身にコミュニケーション能力がないわけでもないし、他人から嫌われるような人間でもない。何なら男性から誘われることだってあるわけだ。もし主人公に知り合いがいないという設定にするのなら、少なくとも「陽」の雰囲気を持ったサンドラ・ブロックはミスキャストになってしまう。

仮にアンジェラ・ベネットであることを主人公が証明できないとしても、アンジェラ・ベネットは今までインターネット上にも役所の書類上にも小学校の記録にも会社の記録にもあらゆるところに残っているはずだ。なのに、本作では父親はおらず、母親はアルツハイマー型認知症、会社の知り合いは飛行機の事故で死亡し、他に残っている唯一の会社の知り合いは会社を辞めている(会社に総務部とかあるやろ)。近所にも知り合いがおらず、かかりつけの精神科医しか頼ることができなくなる。アンジェラがアンジェラであることを証明できないという設定にするために彼女の母親がアルツハイマー型認知症にさせられたのだとしたらそんな酷い話もないぞ。

ちなみに、アンジェラが自宅に戻って来て警察が呼ばれてしまうと、外でその様子を見ていたジャックが警察のシステムに侵入してアンジェラがサインした別人の経歴に犯罪歴を追加する。それをパトカーに戻って確認した警官がアンジェラを捕まえに行こうとするのだが、そこでアンジェラが警察に捕まってしまえばフロッピーディスクの行方を調べられなくなってしまうぞ。ジャックは一体何がしたいんだ。後先考えられないからこんな失態を犯したのだと理解できるが、本作ではジャックのことを「アホ」として描いている訳ではないのが痛いところ。

そして、アンジェラはかつて交際していた精神科医の男と連絡を取り彼に助けを求める。元交際相手という都合の良さ、さらにはアンジェラの話す内容に真実味がなく精神科医である彼がアンジェラを信じない展開などもありきたりに見える。

その後、逃走中のアンジェラは警察に捕まってしまう。どうやってこの場を切り抜けるのかと思いきや、精神科医の男が「FBIに知り合いがいる」という話があったが、ここでようやく登場する。そのFBIの男の車に乗っていると、ジャックしか知りえない情報をその男が知っていることを不審に思いアンジェラはハンドルを握ってアクセルを踏み込む。すると、その会話の内容を聞いていたジャックの車に偶然にも衝突する。そんな偶然あるかい。

そして、ソフト社に忍び込んだアンジェラは空いているパソコンを使って黒幕の使っているシステムに細工をする。ところがここはアンジェラがキーボードを叩いているだけであり、何をしているのかがあまり伝わってこない(映画内でパソコンを使う場面で映画界が抱える問題でもある)。

ジャックとアンジェラに成りすました女性に追われることになり、アンジェラはパソコンの見本市が行われている展示会場に向かう。そこでアンジェラはパソコンを使ってはったりをかけることにする。ジャックらは展示会場をくまなく探すのだが、まずは自分たちのソフト社の展示ブースのパソコンを確認しろよ。しかもあんな展示会場で一人の人間が長々とパソコンを操作できないだろう。展示ブースならその会社の社員が案内や説明をするために待機しているはずだし、他の訪問者が来たら迷惑になってしまうだろう。ただ、映画を展開させるためにそういった事情は無視しているようだ。

最終的には頭脳戦というよりアクションシーンで決着がつく。アンジェラが消火器でジャックを殴り転落死させるオチで良かったんだろうか。その現場を目撃されていたらどうするつもりだったのか。どうも映画的には行き当たりばったりだった。

アンジェラが度々口にする「情報はすべてインターネット上にある」というセリフ。時代を先取ろうとする思いの表れなのか、あるいは設定や展開だけでは分かってもらえないと思ったからだろうかどうも浮いている。確かにインターネット上に多くの情報がある。ただ、1995年当時はまだまだインターネットなんて一般人に認知、浸透していたわけでもない。あらゆる場所でシステム異常が発生している描写はちょこちょこ挿入される。その割には世界はいつも通り回っている感じである。キャラクターを増やさなくても良いが、ちょっとミニマムな話にしすぎたのではないだろうか。

自分が他人でも他の誰でもない自分であることをどうやって証明するか。あらゆる手段を尽くせばいくらでもそれはできるだろう。1995年当時に危惧した未来は訪れただろうか。ソフト社のCEOジェフ・グレッグは明らかにビル・ゲイツの見た目に似せてある。90年代のパソコン業界はマイクロソフトの1強だった。そして「Windows95」というマイクロソフトの看板商品が発売された1995年に彼に似せたキャラクターが逮捕されて終わる映画を作ったわけだ。一つの会社に情報を集中させる危険性でも訴えたかったのか。にしてはあまりにもお粗末すぎるわ。

最終的にアンジェラはどう助かったのだろうか。アメリカ中に顔写真は晒されたわけだし、家の件で警察に顔も見られているし、その後の逃走後に警察に捕まっているし。ジャックらをやっつけて映画が終わるのではなく、アンジェラが再びアンジェラとして生きていかなければこの題材を取り扱った意味がない。もし他の誰かとして生きていく人生を選んだとしたらこの映画でアンジェラは負けてしまったことになるぞ。そのエピローグを描かなくてどうする。せめて認知症の母親が自分のことを思い出してくれるとか入れないと割に合わないぞ。

指摘すればキリがない程ツッコミどころが出てくる。そのおかげかそこまで退屈するでもない。

【関連作品】


「ザ・インターネット(1995)」…シリーズ1作目
「ザ・インターネット2:美しき逃亡者(2006)」…シリーズ2作目



取り上げた作品の一覧はこちら



【配信関連】

<Amazon Prime Video>

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【ソフト関連】

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