【作品#0736】カイジ 人生逆転ゲーム(2009) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

カイジ 人生逆転ゲーム

【概要】

2009年の日本映画
上映時間は130分

【あらすじ】

借金の連帯保証になっていたカイジはその友人が借金を踏み倒したことで数百万円の借金を肩代わりすることになる。そんなお金を払えないカイジは一攫千金を狙えるイベントの行われる船に連れて行かれる。

【スタッフ】

監督は佐藤東弥
音楽は菅野祐悟
撮影は柳島克己

【キャスト】

藤原竜也(カイジ)
天海祐希(遠藤凛子)
香川照之(利根川幸雄)
佐藤慶(兵藤和尊)
松尾スズキ(大槻太郎)
山本太郎(船井譲二)
光石研(石田光司)
松山ケンイチ(佐原誠)

【感想】

福本伸行が1996年から連載している「賭博黙示録カイジ」の実写映画化。また、同年「ごくせんTHE MOVIE(2009)」で映画監督デビューを果たした佐藤東弥にとって監督2作目である。そして、2010年に亡くなった佐藤慶は本作が遺作になった。

私は原作の漫画や、実写映画化される前に放映されたアニメは未見である。そして本作の感想を結論から言うと、「ぬるい。ぬるすぎる。なんてぬるすぎるんだ」と言ったところだ。世界観も設定も主人公が置かれる状況もすべてがぬるい。主人公のカイジには全く追い詰められた感がない。

主人公のカイジはコンビニでバイト生活をしているフリーターというところだろう。そんな彼が借金の連帯保証にになっていた友人が借金を踏み倒したことで借金の肩代わりをしなければならなくなる。利息も合わせて数百万も到底払えるはずのないカイジに対して、遠藤は船で行われる一攫千金を狙えるイベントに誘う。早々に本題に入ろうという意図はわかるのだが、カイジの人となりが全く描かれないままなのは残念だ。宝くじ、コンビニ、高級車への妬みくらいしか描かれていない。コンビニでバイトしているフリーターなんて世の中にたくさんいるわけで、もっと落ちぶれた様子を見せるべきだったと思うわ。さらに、以降の場面でカイジの人となりが深掘りされていくことも基本的にはない。

船で行われるイベントはじゃんけん大会である(説明が面倒なのでルールは割愛する)。ここで登場する船井の胡散臭さは山本太郎への当て書きかと思えるほどである。結局、勝ち残れたはずのカイジは光石研演じるおっさんに情が移って一緒に別室に連れて行かれることになる。完全にアホである。この場面を見ればカイジが借金の連帯保証になったことは頷けるのだが、学習しろよと言いたい。

そこでは腕にマイクロチップを埋め込まれ焼印を押され、カイジは他の連中とともに地下で肉体労働をさせられることになる。この肉体労働で借金を少しずつ返していくことになるようだが、この労働で何が完成するのかなどは明示されない。ここでの肉体労働は肉体労働であること以上の意味はなくても良いのかもしれないが、肉体労働が単なる記号でしかないのは世界観として浅はかに見えてしまう。合間に描かれるこの仕組みの頂点にいる奴らはどうやって金を得ているのかも見えてこない。カイジらを管理するコストのほうが圧倒的に金がかかりそうだ。それに見合う満足感が得られるようには見えない。

また、その肉体労働を始めてからもカイジの見た目に変化はなく、爽やかで清潔な藤原竜也のまんまである。一応質素ながら食事もあるし、風呂も入れるし、大部屋みたいだが部屋もある。見た目の変化がないところも主人公が追い詰められた感が得られない要因だと思う。

そして、次は高層ビルと高層ビルの間を手をつかずに渡り切るというミッションが課されることになる。このシークエンスは特に長い。渡り始めてから渡り終えるまでに15分くらいかかっている。ミッションの参加者は渡り始めてから登場人物同士がずっと何かしら話している。そんな話す余裕があるなら足を動かせよと言いたい。

その場面でようやくこの見世物の客がチラッとだが登場する。このビルとビルの間を渡るのを金持ち連中が楽しげに見ているのだ。ビルとビルの間を渡る底辺の男たちが次々に遙か下へ落下していく様子の何が面白いのか。客はそこそこいたようだが、人が死ぬ様子を見てそんなに楽しめるか。一応はこの映画の世界観は現実と地続きとして描かれているのだが、どうも現在の日本ではない何処かという印象を受ける。

最後はカードゲームである。カイジと香川照之演じる利根川による三番勝負。利根川がカイジの出すカードを見抜くトリックはもはや意味不明である。また、心理戦というにはおこがましいくらいに、彼らの心の声は観客に丸聞こえである。また、ここでは金を賭けることになり、カイジは負ければ地下での肉体労働生活に戻ることになる。クライマックスの場面にしては設定が弱すぎる。ここで用意された金を擦ったとしても、そこまできつそうに見えない肉体労働なら一か八かの賭けにカイジが出るに決まっている。まだ命のかかるビルとビルの間を渡るミッションの方が危機感がある。また、仮にカイジが利根川に勝ったとしても素直に解放してもらえるとも思えない。

最終的にはカイジが利根川を欺くことに成功するのだが、うまいトリックとも思えずネタバラシもただの説明でしかない(本作は先に結果を描いて後に振り返ってトリックのネタバラシをするという演出が多すぎる)。さらには、金のなくなったカイジに対して遠藤が金を貸し付けてくれるのだが、遠藤は優しすぎやしないか。遠藤を善人と見抜いたカイジだからこそ、このラストに辿り着けたとも言えるが、遠藤にはほとんどリスクしかないし、こんな考えではあの世界で生きていけそうにないと思ってしまう。「私はそんないい人間ではない」と遠藤は何度も言っていたが、それも観客向けの遠藤の心情表現でしかない。

こんな金のかかった面倒なことをなぜやっているのか。それに見合うほどのものが得られるように全く見えない。佐藤慶演じる兵藤も中盤以降に登場してそれなりにセリフもあるのだが、金持ちの道楽くらいにしか見えないのは痛い(それも一つの現実かもしれないが)。

ラストの心理戦などを見るに、カイジはそれなりに考える力があるようだが、所詮は情に流されてしまうような弱い人間という設定のようだ。この映画の中でカイジがした経験は彼に何をもたらしたのだろう。もっとクズとして描いて、どんどん酷い仕打ちを受けて最終的に人間らしさを取り戻していくという感じにできなかったものか。脚本だけでなく、藤原竜也の演技などのせいもあるだろうが、あまりにも主人公カイジが終始同じ人間にしか見えない。

また、当時の邦画では当たり前となっていたが、登場人物が考えている心の声を観客に伝えすぎ。ただの説明だけにとどまらず、説明過剰になっている場面も多々見られる。例えば、終盤のカイジと利根川のカードゲームの場面。お互いが市民のカードを2回連続で出したことで2回連続で引き分けになったのだが、遠藤の心の声で「これで2回連続引き分けか」と言っている。そんなことは見ていればアホでもわかる。本作の対象はアホ以下なのか。とにかく間を埋めることが目標なのかと思うくらいに「うるさい」。

【関連作品】


「カイジ 人生逆転ゲーム(2009)」…シリーズ1作目
カイジ 人生奪回ゲーム(2011)」…シリーズ2作目
カイジ ファイナルゲーム(2020)」…シリーズ3作目



取り上げた作品の一覧はこちら



【予告編】

 


【配信関連】

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(日本語)

 

【ソフト関連】

 

<DVD(豪華版)>

 

言語

├オリジナル(日本語)

映像特典

├メイキング~イベント映像までを網羅する「ドキュメント・オブ・カイジ」
├劇場用予告編集/テレビスポット集
封入特典
├Eカードセット
├メッセージカード
├ブックレット

 

<BD>

 

収録内容

 

├上記DVD(豪華版)と同様