【タイトル】
ジャッカル(原題:The Jackal)
【概要】
1997年のアメリカ/イギリス/フランス/ドイツ/日本合作映画
上映時間は124分
【あらすじ】
チェチェンマフィアのボスは弟をアメリカの捜査機関に殺されたことに激怒し、暗殺者のジャッカルを雇ってアメリカの要人を殺すように仕向ける。
【スタッフ】
監督はマイケル・ケイトン=ジョーンズ
音楽はカーター・バーウェル
撮影はカール・ウォルター・リンデンローブ
【キャスト】
ブルース・ウィリス(ジャッカル)
リチャード・ギア(デクラン)
シドニー・ポワチエ(カーター・プレストン)
ダイアン・ヴェノーラ(ヴァレンティーナ・コスロヴァ)
マチルダ・メイ(イザベラ)
J・K・シモンズ(ウィザースプーン)
ジャック・ブラック(ラモン)
【感想】
フレデリック・マーチが原作の「ジャッカルの日(1973)」のリメイクだが、原作者のフレデリック・マーチは本作の脚本からクレジットを外すように要求している。また、ブルース・ウィリスとリチャード・ギアは当初お互いの役をオファーされたが、リチャード・ギアが断ったことで現在の役を演じることになったようだ。そして、2022年に亡くなったシドニー・ポワチエにとって最後の劇場用映画の出演となった。
まず、本作はキャスティングの時点で大失敗だろう。少なくとも主演二人は当初のオファー通りの役を演じるべきだったんじゃないだろうか。ジャッカルはジャッカルではなく単なるブルース・ウィリスである。オリジナル版ではジャッカル役をマイケル・ケインが熱望したようだが、監督の意向で無名キャストのエドワード・フォックスが抜擢されている。本作のキャスティングを見るに、そういった無名キャストを起用することで得られる部分は完全に無視したのだろう。
そのジャッカルが大統領夫人を狙うまでの、パスポートを盗んで偽造し、武器を調達して持ち込むという大まかな流れはオリジナル通りである。ただ、そのどれもにプロっぽさが感じられないのだ。そのほとんど姿を見られたことがなく、大金をはたいてまで雇われる殺し屋にしては、目立つ行動をしているし、証拠も残しまくっている。ここまで大味になってくると、少なくともオリジナルにあった雰囲気からは遠ざかっているし、一応それっぽい作品を目指す雰囲気があるようだがやはりどんどん遠ざかっていく印象だ。
また、オリジナルとは異なり、FBI側がジャッカルを知る刑務所に収監されるデクランという男に助けを求めることになる。毒をもって毒を制す的な発想なのは理解できるが、IRAにいたという割にはデクランはあまりにも軟な人間すぎないか。さらには、デクランが捜査に加わったことがFBI側にとって何がプラスになったのかがさっぱり分からない。会議の場面で意見する場面はあるものの、ジャッカルに会ったことのあるデクランだからこそ発せられるものではないし、特段頭が冴えわたるわけでもないし、体が動くわけでもない。
このデクランというキャラクターはリメイクならではの改変なのだが、全く付け加える必要のないキャラクターだった。リチャード・ギアという俳優を据えることで、映画内に華を持たせる以外になんの意味もない。これなら、オリジナルに近い形で、シドニー・ポワチエ演じるFBIのトンプソンが地道に追い詰めていく方がよっぽど良かったように思う。
クライマックスのジャッカルが大統領夫人の命を狙う演説の場面。警備員に化けたジャッカルは、車内にガトリングガンを仕込み、近くのベンチに座って遠隔操作をすることになる。いくら警備員に化けたとしても警備員には配置が決まっているはずだし、ベンチに座って怪しげな機器を操作していたらそれこそ怪しいじゃないか。しかも遠隔操作するのならわざわざ目立つ場所にまでやってくる必要もない。また、車の位置が狙撃に十分な位置となれば、車の近くに警備員が配置されてもおかしくない。もし近くに警備員がいたら成立もしていない。
それから、オリジナルでジャッカルが殺しの仕事を請け負う場面で「逃げるのが一番難しい」と言っていた。オリジナルでは逃げる前に殺されてしまうから結果的にそのための苦労を描く場面がなくても良いのだが、本リメイクではデクランは地下鉄で逃げることを言い当てている。ところが、こんな事件が地上で発生したら地下鉄なんて真っ先に止められてしまうはずだ。さすがに無理がある。
また、地下鉄のホームで電車を待っているジャッカルを発見したデクランが追いかけると、ホームに止まる寸前の先頭車両の前でジャッカルは飛び降りる。電車はすぐに止まるのだから、その先頭車両の前で飛び降りたとしてもデクランはすぐに追えるはずだ。なのに、デクランは電車に乗り込んでその窓からジャッカルの行方を確認している。こういうのは、通り過ぎる電車の前を飛び降りて追手を撒くのが定石だと思うのだが、何をしたかったのかよく分からず、デクランがただのアホに見えてしまうぞ。
エピローグでは、おそらくジャッカルの遺体を埋葬する事件の翌日のようだが、ブレストンはデクランを刑務所に戻さず逃がすことにする。ブレストンは大統領夫人の命を救ったからこの後どんなヘマをしても許されるとか言っていたが、懲役50年で刑務所に収監されていた男を野放しにして許されるはずがないだろう。ここはデクランとブレストンの間に絆が芽生えていなければ成立しない場面なのだが、ブレストンの心理はさっぱり分からない。
オリジナルは地味な場面の積み重ねだからこそ得られるドラマがあったのだが、リメイクに当たる本作ではあらゆるものを派手にしすぎである。80年代から90年代にかけて製作されまくったハリウッドアクションに過ぎない。完全なる失敗作。
【関連作品】
「ジャッカルの日(1973)」…オリジナル
「ジャッカル(1997)」…リメイク
取り上げた作品の一覧はこちら
【配信関連】
<Amazon Prime Video>
言語
├オリジナル(英語)
【ソフト関連】
<DVD>
言語
├オリジナル(英語)
├日本語吹き替え
映像特典
├メイキング
├削除されたシーン
├もうひとつのエンディング
├オリジナル劇場予告編
├日本版劇場予告編
<BD>
収録内容
├上記DVDと同様
【書籍関連】
<ジャッカルの日 上>
形式
├電子
├紙
長さ
├299ページ
出版社
├角川文庫
著者
├フレデリック・フォーサイス
翻訳者
├篠原慎
<ジャッカルの日 下>
形式
├電子
├紙
長さ
├253ページ
出版社
├角川文庫
著者
├フレデリック・フォーサイス
翻訳者
├篠原慎