【作品#0646】汚名(1946) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

汚名(原題:Notorious)

【概要】

1946年のアメリカ映画
上映時間は101分

【あらすじ】

アリシアは父がナチスドイツのスパイだったために世間から批判を浴びていた。FBIエージェントのデヴリンはアリシアに接近し、ブラジルへ逃げたナチの残党を見つけるために協力を仰ぐ。

【スタッフ】

監督はアルフレッド・ヒッチコック
音楽はロイ・ウェッブ
撮影はテッド・テズラフ

【キャスト】

ケイリー・グラント(テヴリン)
イングリッド・バーグマン(アリシア)
クロード・レインズ(アレクサンダー・セバスチャン)

【感想】

アメリカではヘイズ・コードのために、映画内で3秒以上のキスシーンは禁じられていたが、3秒以内のキスを繰り返す手法により約2分間のキスシーンを実現させたことでも知られている。原題の「Notorious」は「悪名高い」の意。

ヒッチコック作品において、悲劇に見舞われたヒロインに対して主人公の男が現れることが救いになるような描き方の作品は「恐喝(ゆすり)(1929)」「サボタージュ(1936)」のラストなどで見られた。本作はその展開が冒頭から中盤前までとラストに用意されていると言える。父親がナチスドイツのスパイだったとして有罪判決となったアリシアは近付いてきた男デヴリンと恋仲になる。その後に父親が獄中で自殺したこともあり、アリシアは落ち込んでいるところだが、最愛の男性デヴリンと出会ったことで彼女は笑顔を取り戻していく。

具体例を挙げた上述の作品にしても本作にしても、基本的にロマンスは描けているとは言い難い。スパイだった父親は有罪判決を受けた末に自殺をしてしまった。近づいて来たデヴリンは父親と同じくスパイの男だが、彼らはいとも簡単に結ばれてしまう(最初はアリシアの方が惚れているような描き方に見える)。アリシアは上述の一件から酒に走る描写もあり、父親の死を忘れるためにデヴリンと関係を持ったように見えなくもない。この2人の関係はロマンスではなく友人関係として描いた方が良かったんじゃないだろうか。ロマンスに至る経緯もそれが破綻する脚本もかなり稚拙に感じる。

かつてアリシアに惚れたアレックスがリオでナチの残党と関わっており、アリシアはアレックスから情報を引き出すためのハニートラップを仕掛けることになる。この任務を知らされたデヴリンは「彼女にはできない」と上層部に掛け合うがあえなく拒否されてしまう。プロのスパイでありながら惚れた女がハニートラップを仕掛けるために利用されること、自分の女が他の男のものになるのではないかという思いがあったのだろう。そこから、アリシアはいとも簡単にアレックスの家にまで潜り込み任務は順調に進んでいく。競馬場でアリシアと再会したデヴリンは、アリシアに対してかなり冷たい態度を取ることになる。この任務が始まってからのデヴリンはかなり幼稚であり、この競馬場の場面の態度に関してはかなり不愉快である。自分があらゆる意味でアリシアという女性をコントロールできない状況になると途端に相手に冷たくなる。これが本当のスパイなのか。プロのスパイに徹しようとするが、愛する女性を前にして冷たい態度を取ってしまうというようには見えず、ただただ幼稚な男にしか見えない。

そして、ワインセラーが怪しいというアリシアの情報をもとに、アレックスの屋敷で催されるパーティの最中にアリシアが盗んだ鍵を使ってデヴリンとアリシアはワインセラーに忍び込む。そこでデヴリンがワインボトルを確認していると、弾みで横のワインボトルを落として割ってしまう。これまた何とも間抜けなスパイである。ワインセラーに忍び込んで絶対にやってはいけないことをやってしまったのだ。この場は何とかやり過ごすものの、この一件が原因でアリシアはアレックスからアメリカからのスパイだと疑われて毒を盛られることになる。デヴリンよ。お前のせいだぞ。

一方、アレックスとその母親の関係は面白い。ヒッチコック映画では後の「サイコ(1960)」なんかを連想させるものがある。アレックスの女性関係を信用していないアレックスの母親はアリシアとの結婚を急ぐアレックスに対して反対の立場を取っているが、アレックスが押し通したことで結婚することになった。ところが、上述のワインセラーの一件からアレックスはアリシアをアメリカからのスパイだと疑い、もしアメリカのスパイと結婚したことが周囲にバレたらアレックスは自分が殺されると考え、アリシアを毒殺しようとする流れになる。アレックスは母親という存在に悩まされ、それが却ってアリシアとの結婚を急がせてしまったことになっている。映画的にはアレックスの方がよっぽど魅力的ではあった。

そして、アリシアがなかなか姿を現さない状況を不自然に思ったデヴリンはアレックスの屋敷を訪れる。そこにでデヴリンは、毒を盛られて歩くのがやっとのアリシアを目撃する。デヴリンはアリシアを連れて病院へ行こうと屋敷の階段を降りる中、階下にはアレックスに目を光らせる男たちがいる。ここでアリシアがアメリカのスパイであることをバラせば自分は殺される。だからといってデヴリンを止めると怪しまれてしまう。アレックスが板挟みになる中、彼らが階段を下りて行く場面の演出は流石である。

最後はデヴリンがアリシアを車に乗せて走り去り、アレックスが男たちに屋敷内に呼び寄せられるところで映画が終わる。アリシアは父親の一件の後、何とか母親の祖国に報いる思いでスパイ行為に協力することにした。その中で愛するようになったデヴリンは、ハニートラップとはいえ他の男性と関係を持つことになると急に冷たくなった。それでも懸命にスパイ行為を続けて成果も出し始めたところでデヴリンの失態によりアレックス親子から毒を盛られることになった。そんなところへデヴリンが助けに来たとしても、「めでたしめでたし」とは思えない。

本作も結局のところアリシアは、ナチスドイツのスパイだった父親が有罪判決の末に自殺し、一度は愛したデヴリンの失態によってスパイ行為がバレて毒を盛られたというヒロインである。そんな彼女を救うのが男性主人公のデヴリンという描かれ方である。可哀そうな目に遭った女性に対して男性主人公をあてがうような結末に映る。

はっきり言って本作のデヴリンはそれに値するキャラクターではないと思う。プロのスパイにしては私情を出しまくるし、上層部の妻を悪く言うような発言までしてしまっている。さらにはワインセラーでワインボトルを落として割るというミスから、アリシアが毒を盛られて殺されるところだった。そんな男が最後に助けに来たから何だという話である。

デヴリンは自分のとった失礼な態度やミスを反省する場面は一切なかった。そもそも失礼なことをしたことも、ミスをしたことも自覚すらしていないようだった。しかも、スペインへの転属を希望していたという話まで終盤に出てきたので、もはや責任逃れをしようとしていたのではないかとさえ思えてくる。こんな男に救われるくらいだったら、アリシアが独力でアレックスの屋敷を脱するラストにしてほしかった。その方がよっぽど理に適っていた。こちらも批評家から絶大な支持を得ているヒッチコック作品だが、かなり古びている印象。

 

 

 

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