【作品#0639】3時10分、決断のとき(2007) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

3時10分、決断のとき(原題:3:10 to Yuma)

 

【Podcast】

 

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【概要】

2007年のアメリカ映画
上映時間は122分

【あらすじ】

牧場主のダンは、息子2人を連れて歩いていると、トム・ウェイドが率いる強盗団が駅馬車を襲撃している現場に居合わせてしまう。馬を取り上げられたダンは街に赴くと、酒場でトム・ウェイドが酒を飲んでいた。保安官らがトムを捕まえると、トムを3時10分発ユマ行きの列車に乗せることになる。その駅までの護送に報奨金が出ると知ったトムは志願する。

【スタッフ】

監督はジェームズ・マンゴールド
音楽はマルコ・ベルトラミ
撮影はフェドン・パパマイケル

【キャスト】

ラッセル・クロウ(ベン・ウェイド)
クリスチャン・ベイル(ダン・エヴァンス)
ベン・フォスター(チャーリー・プリンス)
ローガン・ラーマン(ウィリアム・エヴァンス)
ピーター・フォンダ(バイロン・マッケルロイ)

【感想】

「決断の3時10分(1957)」のリメイク。当初ベン・ウェイド役の予定だったトム・クルーズが辞退し、ジェームズ・マンゴールド監督が最初に指名したのがラッセル・クロウだった(ちなみにジェームズ・マンゴールド監督の次回作「ナイト&デイ(2010)」の主演はトム・クルーズである)。

オリジナルに比べて上映時間は30分ほど長くなっており、オリジナルにはなかったエピソードが多くの場面に追加されている。また、ダンの息子2人はオリジナルと同じだが、長男のウィリアムがオリジナルよりも若干年上であり、序盤以降は家に留まっていたオリジナルと異なり、ラストまでダンとともに行動するという改変もある。

また、ダン一家がお金に困っており、息子や妻からある意味プレッシャーを抱えているところはオリジナルと同じだが、ダンは南北戦争の負傷により右足が義足になっている。この負傷になった原因をラストでダンはトムに話すのだが、どうやら味方に撃たれたことが原因らしい。個人的にはここで説明させたことをマイナスに感じた。犯罪者のトムがダンと話していくにつれて次第に魅力に感じていき、ダンを置き去りにすることもダンを殺すこともできたのに、ユマ行きの電車に乗るまで付き合うことになる。

家族のいるダンに無傷で帰ってもらいたいと思うトムがダンを突き放そうとするもうまくいかない。「ダンがそこまで言うなら」とダンが感じる流れはもう十分にできていたように思う。ここでダンがトムに南北戦争で味方から脚を撃たれたことで義足になったことを説明してしまうことは、もはや説明過剰だと感じるし、別に味方に撃たれたことなんて説明してくれなくても良い。

妻や息子から尊敬を得たいダンは、おそらくこの右足だけ義足になった細かい事情は誰にも話していなかったことだろう。その事情を話すの適当な場面がこの場面だとはあまり思えない。オリジナルでは、なんとなく感じる家族からのプレッシャーと「男はこうあるべき」という姿の強迫観念がダンを突き動かしていた。本作は、「南北戦争で味方から撃たれたことで義足になっていることを哀れに感じている主人公」にしたことで、より説明的になってしまった。主人公が負い目に感じる設定は別になくても良かったし、もしくは義足であったとしても別に説明しなくても良かったと思う。

また、おまけにダンは街の有力者からも嫌われており、冒頭はお金が払えないがために馬小屋を燃やされている。「主人公が可哀そうだ」と観客が感じるエピソードが大きく2つも追加されたことになる。これにより明らかにオリジナルより「分かりやすい」映画にはなったと思う。ただこれが却って作品の広がりを狭めてしまったように思う。ベースはオリジナルと同じで良かったと思う。そこへキャストの演技やちょっとした演出で主人公が妻や子供からどう思われているか、また主人公が夫として父親として、そして男としてどうありたいかを見せれば十分だったと思う。それが実行できるだけのキャストは揃っていたように思う。

また、ラストも大きな改変がある。トムがユマ行きの列車に乗り込むところまでは一緒だが、ダンが乗り込む手前で背後からトムの手下チャーリーに撃たれてしまう。もはや友人以上の関係になっていたダンを撃たれたダンは、チャーリーと他の手下を得意の早撃ちで殺してしまうのだ。犯罪者の肩を持つつもりはないが、チャーリーは親分のトムを少しでも早く解放させようと努力していたに過ぎず、その邪魔者であるダンを殺そうとするのはある意味当然である。また、トム・ウェイドもある意味一家の長であり、チャーリーたちは息子たちであると考えることもできる。

もしトムがダンに対して「死んでほしくない」と思えるほどの感情を持っていたのなら、ダンが撃たれる前にどうにかならないものだったか。多くの手下がダンとトムを追っている中、最後の最後だけダンに対してトムが無防備過ぎないか。ダンが撃たれてからでは遅い。たとえダンがトムを列車まで乗せたところを息子がしっかり目撃していたとしても一家の大黒柱を失うことに変わりはない。

最後に残るのは親を失った子供と、子分を失った親分。ダンは南北戦争で味方に撃たれて片足を失い、今回はチャーリーというトムの子分に撃たれて死んだ。この物語においてダンが死ぬ意味とは何だろうか。「そんなにうまくいくかよ」という前作のやや非現実的なラストへのアンチテーゼなのか。名誉や尊厳は命懸けでないと得られないものなのだろうか。

そして、列車に乗ったトムは口笛で自分の馬を呼んでいる。彼はわざわざユマまで行くことはないだろう。トムはダンの意地に付き合って列車に乗ったのに、呼んだ馬で逃げるなら別に列車に乗る必要はないんじゃないか。ダンの息子ウィリアムがいる手前、格好だけ乗ったのならそれこそダンやウィリアムに形だけ付き合ったように思えてしまう。だとしたら列車には乗らずにその場で馬に乗って走り去れば良かったように思う。この馬を呼ぶラストにしたことでトムがダンに感じていた思いはややぶち壊しになってしまった印象もある。

この後、ウィリアムは家に帰って父親の死を母親と弟に報告しなければならない。父親が勇敢に戦った姿はウィリアムの目にしっかりと焼き付いたことだろう。トム・ウェイドが駅馬車を襲ったことで最終的に父親が殺されることになってしまった。と同時に、このウィリアムが父親の忠告を無視して駅馬車強盗の場面を見てしまったことでトム・ウェイド一味に目撃していることがバレてしまった。父親の頑張りもむなしく、トムの手下チャーリーによって父親は殺されてしまった。そのある意味での復讐をトムがしてくれた。その後ウィリアムはトムに銃を向けるが撃つことはなく銃を降ろしている。

ウィリアムは父親を誇らしく思うと同時に、自分は父親より強いと思って駅馬車強盗を目撃しても身を隠さなかった。もし身を隠していればトム・ウェイド一味にバレずに、父親も死ぬことがなかったかもしれない。そう考えるとウィリアムはこの先一生このことを後悔するだろう。片足が義足で弱腰な父親を見て、「決して父親のようになるものか」と彼も意地を張っていたはずだ。ウィリアムには逞しく生きていってほしいと願う。彼を演じたローガン・ラーマンも見事な存在感だった。

【音声解説】


参加者
├ジェームズ・マンゴールド(監督)

監督のジェームズ・マンゴールドによる単独の音声解説。オリジナルを初めて見た時の話、リメイクを申し出たら映画会社側もリメイク製作に前向きだった話、珍しく監督に最終編集権が許可された話、ローガン・ラーマンやベン・フォスターのキャスティング、ルーク・ウィルソンの出演、オリジナルとの相違点、撮影当日に保安官を殺す設定に変更した箇所の話、予算の関係で線路に見立てた木材を並べた話、ラストをオリジナルから大きく変更した意味や宗教的な暗示など幅広く話してくれる。

【関連作品】


決断の3時10分(1957)」…オリジナル
「3時10分、決断のとき(2007)」…リメイク

 

 

 

取り上げた作品の一覧はこちら



【配信関連】

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(英語)

 

【ソフト関連】

 

<BD>

 

言語

├オリジナル(英語)

音声特典

├ジェームズ・マンゴールド(監督)による音声解説

映像特典

├メイキング
├削除シーン
├時代背景解説

├アカデミー賞にノミネートされるに至った音楽の解説
├原作者エルモア・レナード インタビュー
├劇中使用の銃器解説