【作品#0619】間諜最後の日(1936) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

間諜最後の日(原題:Secret Agent)

【概要】

1936年のイギリス映画
上映時間は87分

【あらすじ】

第一次世界大戦で戦死したと見せかけられたイギリス陸軍のブロディは、スイスにいるドイツのスパイを摘発する任務を命じられる。

【スタッフ】

監督はアルフレッド・ヒッチコック
音楽はルイス・レヴィ
撮影はバーナード・ノールズ

【キャスト】

ジョン・ギールグッド(ブロディ)
マデリーン・キャロル(エルザ)
ピーター・ローレ(将軍)
ロバート・ヤング(マーヴィン)

【感想】

マデリーン・キャロルは「三十九夜(1935)」に続いて、ピーター・ローレは「暗殺者の家(1934)」に続いてのヒッチコック映画出演となった。

本作も例に漏れず、ヒッチコック映画らしく「巻き込まれる」系の映画ではある。本作の冒頭は主人公の葬式の場面である。物悲しい雰囲気かと思いきや、棺は空であり、主人公のブロディは「死んだこと」にされ、スイスにスパイとして送り込まれるというとんでもない始まりである。しかも、そこに時間をかけずに本題に入る手際の良さは流石である。

そして、スイスのホテルに到着すると、フロントから「奥様は先に到着されています」と報告を受け、ブロディは「夫婦という設定なのか」と勘を働かせる。情報部長のRはブロディにこのことを話していなかったのはなぜなのかは説明がないのでわからない。私にとってはこの小さくない疑問がやや後に尾を引いたのは間違いない。主人公の勘の良さを見せるために、また観客にも驚かせるためにこういった筋書きになったのだと思うが、事前に「お前には妻がいる設定だ」と言っておけば何の問題もない話である。

その「妻」はホテルで知り合ったマーヴィンという男とすでに談笑しており、そこへブロディが割って入るという形になっている。この初対面の「妻」との関係構築においてマーヴィンというキャラクターは良い立ち位置だと思うが、それが却って「真のターゲットであること」を如実に示す形となっている。

この後にスパイだと思っていた男を暗殺したは良いが、「実は人違いでした」というオチが付く。しかも、犯人が落としたであろうボタンを決め手にしているが、さすがに無理がある。ボタンなんていつどこで外れるかわからないものなので、状況証拠でしかない。こんなチョンボをしている時点で、ブロディがスパイの人を託されるような人物には見えないと思ってしまう。

また、この後は「では本当のスパイは誰か」という話を映画の終盤までこの作品では引っ張るのだが、誰がどう見たって「マーヴィンだろう」と多くの観客が気付いてていたはずだ。気付いていないのはブロンディやエルザたちだけである。この手の映画で「観客は気付いているが、主人公は気付いていない」というのもやや間抜けに見えてしまうところだ。

ただ、「もしかしたら」という可能性を残しているのが、上述の情報部長のRがブロンディに「妻」がいることを告げていなかった点である。この観点から考えると、やはりこの「妻」のエルザは怪しくないとは言い切れない存在である。しかもブロディがマーヴィンに会う前にエルザは会っている。そんなエルザはブロディとのスパイ行為を楽しそうにしており、もしそれが演技だったらなかなかだなとも思えるがそんなこともない。観客が思ったとおりスパイはマーヴィンなのだ。

そして、本作は「夫婦」役のブロディとエルザが途中から本当に愛し合っていくというロマンスも描かれていくのだが、見ていてちょっと恥ずかしい気分になる。当初は皮肉を言い合うような2人が徐々に惚れあっていくのは、ハリウッドでも流行し始めていたスクリューボールコメディと言えるのだが、敵のスパイが暗躍し、多くの人命の危機が迫るのに、「呑気なもんだな」と思ってしまう。ラストカットが彼らの笑顔のアップだったので、ここを描きたかったのだと思うが、このロマンス描写も納得できるドラマはなかった。

そんな中で魅力的なのがピーター・ローレ演じる「将軍」である。初対面の人物には自分のことを「将軍」と呼んでくれと頼む、いかにも怪しげな男である。ピーター・ローレは「暗殺者の家(1934)」の悪役としても強烈な印象を残したが、本作のような3枚目もできるとは恐れ入る。当初はこの「将軍」もエルザを気にかけていたが、次第にブロディとエルザは本気で愛し合うようになり、その状況にうなだれる様子などは何とも微笑ましい。このキャラクターが映画への興味を繋ぎ止める存在だったが、シリアスなスパイものとの相性はあまり良くなかったように思う。

初期のヒッチコック作品には、ロマンス描写もたくさん登場するが、そのどれもがイマイチな印象で、本作もその例外ではない。ピーター・ローレという大当たりこそあるが、ヒッチコック映画としてはハズレかな。
 

 

 

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