【作品#0575】ボーイズ・オン・ザ・ラン(2009) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

ボーイズ・オン・ザ・ラン


【概要】

2009年の日本映画
上映時間は114分

【あらすじ】

玩具メーカーで営業をやっている三十路目前のダメ男である田西敏行は、後輩のちはると飲み会を機に仲良くなるが…。

【スタッフ】

監督/脚本は三浦大輔
撮影は木村信也

【キャスト】

峯田和伸(田西敏行)
黒川芽以(植村ちはる)
松田龍平(青山)
YOU(しほ)
小林薫(鈴木)
リリー・フランキー(社長)

【感想】

花沢健吾が2005年から2008年まで連載していた同名漫画の映画化。2012年にはテレ朝日で連続ドラマ化もされている。「ソウルトレイン(2006)」で初の映画監督を務めた三浦大輔監督にとって初の劇場用映画監督作品となった。

本作は漫画の映画化ではあるが、物語の基本は三浦大輔監督の前作「ソウルトレイン(2006)」とほとんど同じで、童貞(っぽい)男が女性に惚れて一人相撲をし、その女性と付き合う男へ復讐しようとする話である。ただ、一人称カメラやナレーションの多用が多かった前作に比べ、本作の演出は間違いなく垢抜けている。

本作の主人公である田西敏行は三十路を迎えようというのに仕事も恋愛も人として大した経験を積まずに生きてきたであろうダメ人間である。そして、本作はそんな主人公がテレクラに電話をして出会った女性とホテルで行為をするところから始まる。相手の女性がかなり太っておりタイプでもなかったことから田西は射精に至らず帰ろうとすると、見下されていると察した相手の女性と言い争いに発展する。しまいには女性から暴力を振るわれ、何とか部屋を脱出して走って逃げることに成功する。映画化された2009年でもすでに衰退していたであろうテレクラを利用し、相手が下だと思えば強気に出ることはできるような人間である。

そして、家に帰れば母親のお世話になりっぱなしである。父親は出てこないので母子家庭なのかもしれない。母親の愛情たっぷりに育てられたのだろうからか、まだ実質的に親離れできていないのか、母親であっても胸元が見えたら見てしまうほどであり、これはどう見ても異常である。

そんな田西の憧れは職場の後輩のちはるである。ある日の飲み会で酔った勢いで仲良くなり連絡を取り合うようになる。女性との距離の詰め方の分からない田西に対して、玩具メーカーのライバル会社の営業担当の青山がお膳立てをしてくれる。そして、ホテルにまでは行けるのだが、ちはるが実は処女であることからその日はお預けとなる。この映画の大前提とも言える部分だが、ちはるが田西のような気持ち悪い奴と付き合う寸前までいけるところはやや現実的ではないと感じた。

次の仕事日にちはるが仕事を休んだことから心配した田西はちはるの家を訪れる。すると、ちはるの隣人でソープ嬢のしほが出てくる。しほを演じるのはYOUで、当て書きをしたのかと思うほどのはまり役である(というか素!?)。(多分素人)童貞の田西と処女のちはるというお堅い二人の距離を縮めてくれる良い存在である。しほが部屋を後にし、看病をして料理まで作った田西も帰ろうとする。すると、部屋の外に酔っ払ったしほがおり、しほを部屋まで連れて行く。しほが服を脱いでいきムラムラした田西はしほの家のトイレで自慰行為を始めようとする。それを見たしほは母性から田西の相手を買って出る。そして行為寸前のところで田西は「ちはるさんがいるから」と思い留まる。人の部屋で自慰行為をしようとした人間のくせに、いざ行為をするとなると好きな女性を持ち出すなんて矛盾だらけだが、何とも人間らしいと感じる。そこへちはるが訪れ、田西を好きになり始めていたちはるの気持ちをぶち壊しにしてしまう。

その後、田西の勤める会社の先輩の結婚式に映像は突然切り替わる。頼まれてもいないのに挨拶を買って出た田西は、ちはるに向かってしほの家での生々しい出来事と好きであるという思いを告白する。この自分勝手な行動で田西はちはるから完全に嫌われてしまう。というか、会社の連中は基本的に田西に対して寛容で優しすぎるように思う。結婚式をぶち壊した件も、後の青山への殴り込みの電話の件も特に怒られることもなければ罰せられることもない。ある意味、社会と言う存在とも言える彼の会社が田西に対してここまで優しいのはどこか非現実的であり、映画内ではアンバランスな存在であると感じた。現実世界の会社とかはもっと個人に対して冷たい存在であると感じるのでこの部分も本作の非現実的なラインかと思う。

そして、月日は流れ、ちはるは青山と付き合い始める。百戦錬磨の青山に好き放題にされたちはるは青山に振られたうえに青山の子供を身籠ってしまう。結局、堕ろすことになったちはるに寄り添う田西だが、完全に心の離れたちはるは相手にしようとしない。まるで自分の女が傷つけられたと感じた田西は青山の会社へ殴り込みをかけると宣言する。ここから映画のテイストはやや変わっていく。

会社の先輩がボクシングの指導をしてくれるようになり、技をも身に着けることに成功する。そして、田西の家の部屋に飾ってあった「タクシードライバー(1976)」のトラヴィスと同じように田西もモヒカンにする。田西は部屋に「タクシードライバー(1976)」のポスターを飾っているくせに、見たくなったらレンタルに行くのはどうもおかしく感じるポイントだ。これほど好きならDVDくらい持っている設定でも良いだろう。

いよいよ決闘の日。会社の先輩に付き添ってもらい、青山のいる会社に殴り込みをかける。公園で決闘をすることになり、仕込んでいた技を披露しようとすると、なんとちはるがその技を青山にバラしており、田西はなす術なく青山にボコボコにされてしまう。彼が唯一「当てた」のは馬乗りにされた時に出した小便だけだった。おそらく青山は何でもできる男なのだろう。高学歴ではないかもしれないが、地頭が良く、悪いことも経験してきたタイプの人間だ。引きこもって何もしてこなかった田西がちょっと本気になったくらいで叶う相手ではないのだ。だからここで田西が負けるのは当然と言えば当然である。

そして、会社を辞めて田舎へ帰るちはるの乗る電車まで田西は追いかける。全身傷だらけの田西を見たちはるの最初の一言は「その頭どうしたの?」である。ちはるは田西が青山と喧嘩して怪我したことなんて1ミリも気に掛けていない。挙句の果てに「青山君はケガしなかった?」と、自分を妊娠させて中絶手術の現場にすら立ち会わず金だけ払ってお払い箱にした張本人のことを気に掛けているのだ。田西はちはるに振られた。ちはるは青山に振られた。振られた両者ともが振った相手のことをまだ好きでいる。これほど酷い仕打ちを受けてもまだ好きでいることこそ、人間らしく、彼らは似た者同士なのにそれ故にうまくいかないところが悲しいところでもあり現実なのだろう。

田西を演じた峯田和伸が程よくダメなのだがやや魅力的すぎるきらいはあった。ただ、このキャラクターは全く嫌いになれないな。会社の連中があまりにも田西に寛容なところこそ本作の魅力ではあるが、そこが本作をファンタジーっぽく見せてしまう要素にもなっているとは感じた。好きな一本だが、もう少しで大化けする可能性のある作品だったと感じる。

 

 

 

取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【配信関連】

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(日本語)

 

【ソフト関連】

 

2023年3月現在、本作のソフトはDVDしか出ておらず、しかもセル版は2枚組のものしかない。

 

<DVD(2枚組)>

 

言語

├オリジナル(日本語)

映像特典(計160分)

├メイキングその1「三浦オン・ザ・ラン~メイキング・オブ・ボーイズ・オン・ザ・ラン」

├メイキングその2「峯田オン・ザ・ラン」

├三浦大輔×峯田和伸対談

├インタビュー集

├銀杏BOUZ「ボーイズ・オン・ザ・ラン」PV(フルバージョン)

├予告・特報ほか