【作品#0484】ザ・コンサルタント(2016) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

ザ・コンサルタント(原題:The Accountant)

 

【Podcast】


Apple Podcastsはこちら
Google Podcastsはこちら
Spotifyはこちら
Anchorはこちら
Stand FMはこちら

【概要】

2016年のアメリカ映画
上映時間は128分

【あらすじ】

幼少期に自閉症を患ったクリスチャン・ウルフは、成人して田舎に小さな事務所を抱える会計士になっていた。彼には貸倉庫にトレーラーハウスを所有しており、そこには高価な美術品や多数の武器などを所有し、電話で仕事を回してくれる女性がいる。ある日、その女性から「たまには堅気の仕事をしてみれば」と言われ、リビング・ロボティクス社の会計調査をすることになる。

【スタッフ】

監督はギャヴィン・オコナー
音楽はマーク・アイシャム
撮影はシェイマス・マクガーヴェイ

【キャスト】

ベン・アフレック(クリスチャン・ウルフ)
アナ・ケンドリック(デイナ・カミングス)
J・K・シモンズ(レイモンド・キング)
ジョン・バーンサル(ブラクストン)
シンシア・アダイ=ロビンソン(メリーベス・メディナ)
ジョン・リスゴー(ラマー・ブラックバーン)

【感想】

原題は「The Accountant」という「会計士」を意味する言葉だが、それをそのままカタカナ表記しても日本の観客に伝わらないだろうということで「ザ・コンサルタント」という邦題が付けられたのだろう。また、当初はコーエン兄弟監督、メル・ギブソン主演で映画化する予定もあったが実現せずに、ギャヴィン・オコナー監督、ベン・アフレック主演で実現した。

本作は「〇〇だと思ったら実は××でした」という要素が設定だけでなく、映画の構造自体にも反映されていると感じる。例えば、本作の一番の売りは「何の変哲もない会計士だと思っていたら凄腕の殺し屋でした」という部分だろう。そういうギャップが各キャラクターにもあり、メディナは「分析官だと思っていたら過去に殺人未遂をした過去があった」となる。レイモンド・キングにはメディナが会計士を突き止めたことを報告した後に意味ありげなカットがあった。これにより観客側は「もしかしたらレイモンド・キングは黒幕なんじゃないか」と思うわけである。ところが、「黒幕と思いきや実はクリスに命を救われ、なんなら今の立場になったのは彼のおかげでした」なんて事実が判明する。また、ブラクストンは「ただの敵が雇った殺し屋かと思いきや、実はクリスの弟でした」なんてオチが付く。このように程度の差こそあれ、各キャラクターにこのようなギャップを用意しているのだ。

そういった設定に奥行を持たせるエピソードはクリスとデイナが会話するシーンで言及される「ポーカーをする犬の絵」の話である。クリスは「金儲けをしない犬が賭けのポーカーをしているところが不条理だから好きだ」と話している(ちなみにベン・アフレックは大のポーカー好きとして有名)。「犬は本来ポーカーをしないはずなのに、画では金をかけてポーカーをしている」わけだ。さらにポーカーは自分の手札や考えを悟られないようにしなければならず、ポーカーフェイスという言葉の由来にもなっている。人間にはあらゆる感情があるが、何かの感情を押し殺したり平静を装ったりすることはある。クリスは自閉症という病気を抱えており、父親から課された虐待とも取れるスパルタ教育によって殺し屋になってしまったのだ。そんなクリスが他者と接する時にそういった事実を出さないようにと比較的無表情で押し通している。

そして、その絵に関するエピソードもラストできれいに回収されることになる。クリスのトレーラーハウスでポロックの画を見て興味を示していたデイナの元へクリスから絵が送られてくる。その絵は「ポーカーをする犬」の絵だが、よく見るとその下にデイナが興味を持っていたポロックの絵が隠されていたのだ。ここも「ポーカーをする犬の絵だと思ったらポロックの絵でした」という図式を引き継いでいる。また、冒頭の少年時代、施設で手を差し伸べてくれた女の子が実はクリスに仕事の指示を出すパートナーになっていましたというオチまである。

そして何より、映画全体もこの図式そのものと言えよう。本作は上述のように「何の変哲もない会計士だと思っていたら凄腕の殺し屋でした」という部分が売りなので、確かにクリスの銃の扱い、格闘シーンなどに無敵の殺し屋らしい場面は描かれる。ところが、本作は終盤に向けてクリスや引いては多くの人々に共感でき得る物語として着地している。「ただのアクション映画かと思っていたらちゃんとドラマも用意されていた」という感じだろうか。なので、ラストにアクションのつるべ打ちを期待したら肩透かしを食らったとは思うが、映画としてきれいに着地しているので清々しさすら感じるラストである。

ただ、この「実は〇〇」という演出に拘ってか、特にレイモンド・キングのエピソードはかなり説明的な印象は受けた。ここは少し勿体ないと感じた部分ではある。

上述のように主人公のクリスは自閉症を抱えている。少年時代に光や大きな音でパニックを起こすかもしれないと医師から注意されており、大人になったクリスは夜になると決まった時間に部屋を真っ暗にしてストロボをたき、大音量でロックミュージックを流す。そしてただひたすらに脛を鍛えている。こういった試練を自らに毎日課して日々の平穏を保っていた。「苦手なものは慣れろ」という父親の行った教育の影響だろう。

自閉症を抱え、普通の人の暮らしはできないと医者に言われた。それを聞いた父親が「普通とは」と聞き返している。苦手だからと言って逃げずに慣れさせ、強くするには徹底的に特訓すればいいというある種の父親の異常なスパルタ教育。これが却ってクリスを「普通ではない」殺し屋という人間に仕立て上げてしまった。自閉症という設定があるないにもかかわらず、親が子供を強くするためにと言って極端な教育をしてしまうことはある。そしてその弊害で屈折した考えの人間に育ってしまうことだってある。世の中には「普通に」生きている人間ばかりではない。あるいは普通を装っているだけで普通ではない人間もたくさんいる。だからこそ本作は主人公にも共感できる物語であると言える。

また、そういった設定だからこそ、ヒロインとも言える存在のデイナというキャラクターが生きてくる。デイナは一見すると「普通」に生きているが、どう考えても空気を読めないキャラクターである。クリスが「1人でやる」と言って「そろそろ出て行ってくれないか」という空気を醸し出してもデイナはなかなか部屋を出て行かない。相手の領域まで割と平気で入ってくるタイプであろう。そういうタイプだったからこそ、この事件に巻き込まれてしまい、クリスと共に行動せざるを得なくなってしまった。そんなデイナと共にいることがクリスにとってある種のリハビリみたいなものになったかもしれない。だからこそ、巻き込まれたデイナの家の中までクリスが助けに入るというシーンも意味を持たせているように思えてくる。

クリスは平静を装ってこそいるが、でもやっぱりちょっと変な人ではある。冒頭の事務所の場面でも客の世間話には興味がないし、事務の女性の食事の誘いも目すら合わせずに断っている。何の興味もない事には興味を持てない人間になっている。一方で、数字とか絵画とか興味のあることになると饒舌になる。そんな他者に興味を持てない人間がラストでデイナの好きな画をプレゼントすることにカタルシスがある。ただ、ちょっと意地悪言うと、絵画自体がクリスとデイナの共通の趣味という設定だが、クリスの興味のない分野でのプレゼントであれば尚、クリスが他者を思いやる気持ちを手に入れたという意味合いになったと思う。

そして、クリスは田舎で生活をしていたのに、堅気の仕事と言われて仕事を請け負ったのに、とんでもない事件に巻き込まれた。始めたら最後までやらないと気が済まない性格で、引っ込みがつかずに多くの人命を失いながらも黒幕をやっつけるところまでやった。そんな彼が持ち運び可能なトレーラーを車の後ろに引き連れて、再び自分が生きることのできる場所を探す旅に出るという終わり方も素晴らしい。

親の教育のせいで「普通」ではない人間になってしまうことはある。それを完全に克服することはできなくとも、あの施設の女の子が成人してクリスの仕事上のパートナーになって寄り添いながら生きているように、多くの人間が他の誰かと共に生きている。

また、格闘シーンはインドネシアの格闘技「シラット」を取り入れている(「ザ・レイド(2011)」でも使われていたもの)。それから、銃撃戦の音響は特に劇場で見た時にかなり迫力を感じたのを記憶している。一アクション映画として観ても十分に満足できるレベルであると思う。

続編については度々噂されており、IMDBでは噂(Rumored)として次回作の記載はある。主演したベン・アフレックも続編への出演希望を口にしており、早々の実現が期待される。




取り上げた作品の一覧はこちら
 

 

 

【予告編】

 

 

【配信関連】

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(英語)

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├日本語吹き替え

 

【ソフト関連】

 

<BD>

 

言語

├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え

映像特典

├新たなヒーローの誕生

├映画の中の「行動科学」

├クリスチャン流アクションの作り方

 

<4K ULTRA HD+BD>

 

収録内容

├上記BDと同様