【作品#0436】レクイエム・フォー・ドリーム(2000) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

レクイエム・フォー・ドリーム(原題:Requiem for a Dream)


【Podcast】 

 

Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。

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【概要】

2000年のアメリカ映画
上映時間は102分

【あらすじ】

未亡人のサラはある日、視聴者参加番組から出演が決まったと電話を受ける。思い出の赤いドレスで出演しようと考えたサラはダイエットするために医師からダイエット・ピルを処方してもらって痩せていくが…。

【スタッフ】

監督はダーレン・アロノフスキー
音楽はクリント・マンセル
撮影はマシュー・リバティーク

【キャスト】

エレン・バースティン(サラ・ゴールドファーブ)
ジャレット・レト(ハリー・ゴールドファーブ)
ジェニファー・コネリー(マリオン)
マーロン・ウェイアンズ(タイロン)

【感想】

ヒューバート・セルビー・ジュニアの「夢へのレクイエム」の映画化。多くの女優が断ったサラ役を演じたエレン・バースティンはアカデミー賞主演女優賞候補になった。後にイギリスのエンパイア誌が発表した「落ち込む映画」ランキングでは1位に輝くなど、ドラッグ中毒の引き起こす悲劇が真正面から描かれている。

いわゆるバッドエンドの映画であり、教訓映画であろう。R-15指定の映画ではあるが、教育の一環で見せても良い映画だと思う。ドラッグ中毒を描いた作品もたくさんあるが、これほどに「薬には絶対に手を出さないぞ」と思わせる作品もないだろう。その意味だけにおいても本作は大いに存在価値のある作品である。また、その絶望感を煽るクリント・マンセルによるテーマ音楽も非常に印象的であり、後のテレビ番組などで数多く使用された。

本作における映像表現こそが中毒そのもの。短いカット割りで登場人物がドラッグを接種してからの覚醒する過程が描かれる。この短いサブリミナル効果とも言うべき映像こそちょっとした心地よさを覚える。ちなみに本作は102分の上映時間の中に2,000カット以上が含まれ、他の100分程度の映画なら600から700くらいなので単純に3倍くらいのカットが含まれていることになる。

それから本作ではカメラが登場人物をぐるっと回って撮ったり、あるいは真上からのショットでぐるっと回ったりすることが多い。ヒッチコック監督の「めまい(1958)」の項でも触れたが、ぐるぐる回るというのはその場所から進んでいないことも示すわけである。主人公らがドラッグ中毒から抜け出せなくなっていることを示しているのだ。

そして、そのぐるぐる回るというのも設定にも反映されている。たとえば、サラの買ったテレビをハリーが売って、そのお金薬を買う。サラが再びテレビを買って、ハリーが売って…と映像表現だけでなく抜け出せない循環を描いている。

本作はドラッグ中毒だけでなく、テレビ中毒も描いている。サラはドラッグ中毒であると同時にテレビの中毒状態にもなっている。サラはテレビが売られないようにするためにテレビを鎖で繋いでまでいる。視聴者参加型の番組を見るのが好きで、抽選で当たれば自分もスポットライトを浴びることができる。愛する夫に先立たれ家の中では1人ぼっちのサラ。抽選で当たったと電話が来ると、きれいな状態でテレビに出たいと思い、ダイエット始めようとする。ところが、ダイエットメニューを見るとすべてに「no sugar」と記載されていてあっさり諦めてしまう。サラは砂糖中毒でもあるのだ。そこで医師を訪ねダイエット・ピルを処方してもらい、その中に中毒になるドラッグが含まれていると知らずに中毒になっていく。

そして、本作は「夏」で始まり、「秋」を過ぎ、「冬」で終わる映画であり、それが映画の3幕構成に連動する形となっている。つまり彼らに「春」は訪れないのだ。メインキャラクターの4人ともが絶望の淵に立たされて映画が終わるわけである。

現実と妄想の区別のつかなくなったサラはついに矯正施設に送られて電気ショック療法を受けるが、廃人同然になってしまう。結局正常な状態に戻ることなく、「あのテレビ番組に出演していたら」という妄想の場面がラストカットになる。ドラッグを体から抜くことはできただろうが、テレビ中毒は抜けていないのか、妄想というか幻想を抱くのはやめられなくなっている。

また、ハリーとサイロンはフロリダ行きを断念せざるを得なくなり、ハリーは左腕を切断し、タイロンは捕まって刑務所行きとなる。夢見た2人の男がフロリダを目指すが悲劇に襲われるところは、アメリカン・ニューシネマ期の代表作「真夜中のカーボーイ(1969)」を思わせるところがある。そして、お金に困ったマリオンは体を売らなければならなくなる。

そして、本作には主人公4人それぞれにカメラを固定したまま移動するという手法が取られている。カメラが固定されているので、観客がこの現実を嫌でも見なければならないわけだ。その嫌な現実という意味で一番強烈に打つ他の葉、他人が主人公たちを見て、ものすごい嫌悪の表情で見るところである。特にハリーの注射痕から感染が広がりその箇所を見たタイロンや、後にハリーの腕を見る医師(ディラン・ベイカーが演じている)はとても見たくない物を見てしまったという嫌な嫌な表情を浮かべている。紫がかった注射痕を見るのも嫌だが、やはり人が嫌そうな顔をしているのを見るのも嫌である。

 

ところが、本作はドラッグに溺れていく4人をただ見守るしかできないという客観的視点の映画にも見える。テレビ越しだったり、エレベーター内の監視カメラ越しだったり何かを通して彼らを見る視点もある。本作には客観的に主人公4人を見る登場人物がほとんど登場しない。ハリーはマリオンと付き合い、タイロンとつるんでいる。マリオンはハリーと交際しながらも精神科医と食事しなければならない。タイロンはハリーとつるみながら彼女がいる。サラは家で一人だが、家の前で同世代の女性たちと話す場面こそあれ、ほとんど1人でいる。登場人物の交際範囲、見る範囲がものすごく狭い。誰も何も教えてくれない。その意味で一番印象的なのは、サラがダイエット・ピルを服用していることをハリーが耳にする場面。ハリーはダイエット・ピルの服用をやめるように言うが、「お前は医者よりも頭が良いのか」とサラから言われて何も言えなくなってしまう。ドラッグに詳しいからこそ忠告できたのに、ドラッグに溺れる程の人間ゆえに信じてもらえないのだ。

演者がそれぞれベストアクトとも言うべき素晴らしい演技を見せている。ドラッグ中毒を描いた作品では最高峰の出来。

【音声解説1】

参加者

├ダーレン・アロノフスキー(監督)
 

監督のダーレン・アロノフスキーによる単独の音声解説。主役から脇役に至るまでの俳優の印象や撮影時のエピソード、撮影や美術、音楽や音響といったスタッフの仕事ぶり、エレン・バースティンの熱演に胸を打たれてカメラマンが泣いてしまった話、原作と原作者のエピソード、黒澤明監督の「七人の侍(1954)」から影響を受けたシーンなど、本作にまつわるあらゆる話を満遍なく、そして休むことなくしてくれる。映画のカット割りが多くてテンポも良いため、監督の話したいことが追い付いていないのではないかと感じるほどである。

【音声解説2】


参加者

├マシュー・リバティーク(撮影)


撮影のマシュー・リバティークによる単独の音声解説。契約書にサインする前からロケハンしたり色々計画を立てたりした話、監督と話し合った画面構成の話、3幕ごとに変化する照明や美術の話、エレン・バースティンの熱演に涙した話、前作「π(1997)」と同様に撮影した箇所の話など、事細かに撮影という観点から多くを語ってくれる。撮影監督が単独で解説する音声解説も珍しいが、本作で狙った意図がより分かる解説となっている。



取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【配信関連】

 

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(英語)

 

【ソフト関連】

 

<DVD>

 

言語

├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え

音声特典

├ダーレン・アロノフスキー(監督)による音声解説

├マシュー・リバティーク(撮影)による音声解説

映像特典

├メイキング・オブ・「レクイエム・フォー・ドリーム」

├未公開シーン

├シーンの解説

├エレン・バースティンとヒューバート・セルピー・Jrとの対談

├予告編集

├キャスト&スタッフ

├プロダクション・ノート

├おまけ映像“タビーの「炎のダイエット」”

 

<BD>

 

収録内容

├上記DVDと同様

 

【音楽関連】

 

<CD(サウンドトラック)>

 

収録内容

├33曲/51分