【作品#0300】ファイブ・イージー・ピーセス(1970) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

ファイブ・イージー・ピーセス(原題:Five Easy Pieces)


【概要】

1970年のアメリカ映画
上映時間は98分

【あらすじ】

音楽一家に生まれてピアノの才能を持ちながらも肉体労働で働くボビー。彼にはレイという彼女はいるが自分より育ちの悪い彼女に冷たく接していた。そんなある日、自分の父親が病気で倒れた知らせを受けて、ボビーは数年ぶりに実家へ帰ることにする。

【スタッフ】

監督はボブ・ラフェルソン
製作はバート・シュナイダー
撮影はラズロ・コヴァックス

【キャスト】

ジャック・ニコルソン(ボビー)
カレン・ブラック(レイ)
ロイス・スミス(ティタ)

【感想】

当時流行していたアメリカン・ニューシネマを代表する1作。アカデミー賞では受賞こそ逃したが4部門でノミネートされ、特にカレン・ブラックはゴールデン・グローブで助演女優賞を受賞するなど大きな評価を得た。「イージー・ライダー(1969)」の製作総指揮バート・シュナイダー、製作ボブ・ラフェルソン(ノンクレジット)、出演ジャック・ニコルソンがその成功を受けて再びタッグを組んだ。また、撮影のラズロ・コヴァックス、出演のカレン・ブラック、トニ・バジルらも「イージー・ライダー」からの続投組である。ちなみにタイトルの「Five Easy Pieces」はピアノ初心者向けのレッスン本を指す言葉である。

10数年ぶりに鑑賞したが、主人公がダイナーで意地でもトーストを頼もうとする場面と、レイを置き去りにしていくラストははっきりと覚えていた。自由気ままに生きる主人公の対比として、全く融通の利かないダイナーの店員はなかなか印象深い。

アメリカン・ニューシネマを代表する1作とあり、非常に陰鬱で、画面内も晴れた空なんて出てこない。カウンターカルチャーの真っ只中で、主人公が大人や社会のシステムにとにかく反抗していく。間違った大人たちへ代替案を出すわけではない。主人公は音楽一家に生まれ育ったが、その道は捨てており、その後の石油採掘の仕事もすぐに辞めてしまう。どこへ向かえば分からぬ苛立ちがそのまま表現されているような作品だ。

 

主人公がピアノを演奏できる育ちの良さを表現しつつ、気ままに生きていくという思いが重なる高速道路の引っ越しトラックに乗り込んでピアノを演奏するシーンは非常に印象的である。また、当時の流行りはヒッピーだった。そのヒッピー2人組を車に乗せてあげる場面こそあるが、ボビーはそのヒッピーの主張に呆れて車から放り出している。結局、ボビーは流行りのヒッピーにもなれないのだ。環境保護を訴え、自然が残っているとたった1枚の写真だけで判断してアラスカに向かおうとするヒッピーたちが、車が故障したからといってその場にその車を放ったらかしというのも所詮は自分たちのことしか考えない人間であることが示されているようだ。そしてラストには奇しくもそれと同じことをレイにやっているのだ。

一方でそんなボビーと付き合っているのがカレン・ブラック演じるレイである。彼女が冒頭からレコードで聞いているのはタミー・ワイネットが1968年に発表した「スタンド・バイ・ユア・マン(Stand by Your Man)」である。後に「ブルース・ブラザーズ(1980)」など多くの映画でも使用されるカントリーミュージックの代表としても知られる曲である。カントリーミュージックはアメリカ南部で愛される「保守層」の音楽である。ちなみに、この「スタンド・バイ・ユア・マン」の歌詞は映画内でも字幕で表記されるが、要するに「たとえ愛した男なら、どんな男でも女は一生を捧げる」といった内容の、はっきり言って(当時でも)古臭い歌である。その歌詞のごとく、たとえボビーが暴れようと何を言おうとレイはボビーにひたすらついていくのだ。ただ、ボビーは「保守」という名のもとにある伝統とかシステムが大嫌いで、それを前面に押し出しているとも言えるカントリーミュージックを聞いているのが堪えられない。そんな彼女と別れるでも話し合うでもなくそのままでいるのもある意味での逃げだろう。

中盤からは、ボビーが父の病気を姉から知らされてレイとともに帰省することになる。この家の場面で飾られている写真などからボビーの育ちも分かってくるのだが、今度はこの上流階級の如くお高くまとまっているのにもボビーは嫌になってくる。何もかもから逃げ、最終的にはたとえ何があってもついてきてくれたレイを置き去りにして、ボビーはトラックの運転手に頼んで乗せてもらうことにする。行き先は寒いと言われてもボビーは置いてある上着を着ることもない。まるでもう死んでしまっても良いと言わんばかりの結末だ。

主人公ボビーの攻撃的で利己的な行動や言動にはいささか理解しがたい部分があるのは確かだが、「今の社会やシステムが嫌だ。でも解決策は分からない。だからイライラする」といった感覚は分からなくもない。大多数の人間が適応していく社会において、一個人が反対したって何も変わることはない。何も言わずに我慢することを良いとも悪いとも言えないが、本作の主人公のように本音でぶつかり、行動力があるところは妙に羨ましくも感じる部分がある。10年も経たずに流行り廃れたニューシネマであり、「甘え」とも取れる主人公の考えであっても、一言で切り捨てることは容易にはできない。

 

 

 

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