【作品#0264】ワイルドライフ(2018) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

ワイルドライフ(原題:Wildlife)

 

【概要】

 

2018年のアメリカ映画

上映時間は105分

 

【あらすじ】

 

舞台となるのは1960年代。3人家族のブリンソン一家はモンタナ州に引っ越してきた。父のジェリーはゴルフ場で仕事をしていたが突然解雇され、山火事を消火する仕事を始めると言って家を出て行ってしまう。

 

【スタッフ】

 

監督はポール・ダノ

脚本はポール・ダノ/ゾーイ・カザン

製作はジェイク・ギレンホール

音楽はデヴィッド・ラング

撮影はディエゴ・ガルシア

 

【キャスト】

 

キャリー・マリガン(ジャネット)

エド・オクセンボールド(ジョー)

ジェイク・ギレンホール(ジェリー)

ビル・キャンプ(ウォーレン・ミラー)

 

【感想】

 

10代の頃から俳優として活躍するポール・ダノの初監督作は、「ルビー・スパークス(2012)」で共演して交際中のゾーイ・カザンと共同脚本を務めた。また、ポール・ダノとは「プリズナーズ(2013)」「オクジャ/okja(2017)」で共演したジェイク・ギレンホールが製作/出演を果たしている。

 

長年映画を見ていると、このような作品にめぐり逢うことが喜びであると感じる。本作のような派手ではない小さな作品でも人の心を揺るがすのに十分な力を持っていることがある。ポール・ダノが初めて監督を務めたとは思えないほどの落ち着きっぷりで、何なら余裕さえ感じる1作である。また、主役とも言える息子のジョーは決して多くを語らないが、表情を映すショットは非常に多い。かなり演技力が求められる役だと思うが、ジョーを演じたエド・オクセンボールドは見事としか言いようがない演技を披露した。キャリー・マリガン、ジェイク・ギレンホールという芸達者な2人に全く引けを取らない演技だった。

 

演出面も非常に巧みで、決して安易にセリフや説明することもない。例えば、ジャネットとジョーが車で運転していると、カナダのラジオ放送を受信する場面がある。モンタナ州がカナダ国境と接する州だからそうなるのだが、これはジャネットが今いる場所から少しはみ出していることを示唆的に表現していると言える。また、レストランでは「ジャネット」という名前が嫌だから他の名前が良いと言うなど、今いる場所から離れようとしているのが婉曲的に描かれるところはまさにセンスと言えよう。ジャネットは話し相手が欲しい、同意してほしいがそんな相手が息子しかおらず、まだ自分は女性としてやっていけるという自信のもと、他の男性を求めたり、自立しようとしたりしていく。女性が自立していく過程が、息子にとって悲劇に進んでいくのは皮肉な話でもある。また、自分の自由や権利を求めて行動する母だが、息子のジョーが夢を語ると、「もっと大きな夢を持つように」と息子の夢を否定して、図らずも息子の将来を閉ざしていってしまう。

 

そんな母親から何かにつけて同意を求られる息子のジョーは、母親の気分を損ねないようにと気を遣いながら反抗していく。両親の距離が物理的にも心理的にも離れていくのを何とか繋ぎとめようとする心情は心苦しくなるほどであるし、母親が女性であることなんて知りたくも考えたくもない思春期のジョーにとってこれほど辛いことはない。映画内に唯一と言っていいジョーの理解者である同級生の女の子は、ジョーが精神的に辛くなるにつれて映画内から姿を消し、ジョーに余裕がなくなってきていることをうまく演出している。

 

一方の父親のジェリーは、消火隊に入ると文字通り映画の画面内から姿を消す。愛する自慢の息子の前でも下働きをさせられ、ベトナム戦争が激化する中何もできない自分に腹が立って、何か役に立てるだろうと消火隊へ入隊することになったのだろう。消火隊として役に立とうと行動を起こしたが、消火したのは季節が変わって訪れた雪だった。ジェリーは消火隊として役に立とうとしたが、結局結果は残せなかった。そんな彼が久しぶりに家に戻って来て妻の不倫相手の家に火を放とうとする場面は強烈にブラックである。ただ、息子にとって立派な父親でありたいと願う1人の男の悲哀ではあるが、その気持ちは息子にはちゃんと伝わった。

 

母親のジャネットも父親のジェリーも今いる場所から離れよう、遠ざかろうとしている。「今の自分は自分じゃない」「他にもっと素敵な生き方がある」という、1960年代当時のカウンターカルチャーを舞台にしているところから、彼らの行動や考えには一定の理解を示すことはできる。ただ、その行動は時に身勝手であり、愛する息子を失いかねないことになる。母親も父親もベクトルの向かう先は家の外になっているが、最終的にその延長線上に息子がいたのは父親の方だった。

 

こんな2人のもとで育てられたジョーが、最後に落ちぶれることなく学業もバイトも順調に進んでいる姿を見てこちらもホッとした。ラストでは、ジェリーとジョーのところへジャネットが訪れてくる。両親は離れ離れになって3人が一緒に過ごす時間はもう訪れることはないのかもしれない。そんな彼がその一瞬をバイト先のカメラで収めるシークエンスには涙が止まらなかった。

 

常に変化する時代において子供にとって代わってほしくない家族という大きな存在。常に子供のことを気にかけていてほしいと言わんばかりに何かが起こっている時もカメラはジョーを捉えるショットが非常に多い。作品からのメッセージには十分な力を持っていた。俳優としての実績は確かなポール・ダノが監督としての才能も確かなものを見せてくれた。ぜひ次回作を拝見したい。

 

 

 

取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【予告編】

 

 

【配信関連】

<Amazon Prime Video>

言語
├オリジナル(英語)

 

【ソフト関連】

<DVD>

言語
├オリジナル(英語)

映像特典

├インタビュー集(キャリー・マリガン/ポール・ダノ/ゾーイ・カザン)

├劇場版予告編