フランシス・ベイコンのスタジオに盗みに入ったジョージ・ダイアンは、イーストエンドのチンピラだった。ベイコンに見つかってしまったジョージは、警察に告発されない代わりにベイコンと関係を持つことになった。ジョージがベイコンの仲間に入ろうと必死に努力しても、2人の異なる階層の壁により、ジ… pic.twitter.com/8UN4FCn9rr
— UPLINK (@uplink_jp) 2023年12月12日
人間の本質や恐怖を表現しているとも評されるベイコンのアート。はっきり言って素人には理解不能。
芸術なので意味不明で良いのですが、映画を見る前にベイコンってこういう絵を描く人なんだ〜と知ってるほうがより映画が楽しめそう。
なぜなら映画の中にも彼の作風を思わせる映像が心象風景のように挟み込まれるから。
ああ、なるほどベイコンの絵画っぽい表現なんだな、と感じられます。
さて。
そもそもなぜ私がこの映画を改めて見ようと思ったか。
みなさんもそろそろお気づきでしょう。
55歳の中年画家の恋人を演じるのが、若かりし頃のダニエル・クレイグ。
それこそが理由です。
ただしこの映画、古いので仕方ないけど画質も荒いし画面も暗い。
俳優の顔に照明をぜんぜん当てない。
まったくイライラするほどにダニエル・クレイグの顔面がクリアに映ることがありません。
それでもたちのぼるダニエル・クレイグの色気、退廃。
見て良かった。
心底、見て良かった。
ストーリーも私の好みの本当に本当にど真ん中です。
富も地位も名声もある成功した中年(初老?)画家と、持つものは若さと美貌だけの青年。そんな二人の恋愛。
私がこの映画めちゃめちゃに好きなのはもうオープニングからファンタジックなところ。
画家のアトリエの天井から青年が落ちてくるのです。
空から降ってくる美青年。
なにこのおとぎ話。
そしてその青年を一目見たとたん画家は「私のベッドに来ればすべて与えてやる」と言い、二人はそのまま恋人同士になりました。
はぁ?
素敵すぎ。
なにも持たないダニエル・クレイグ顔の青年を自分の家に住まわせる。誰もが夢見る人生。
さらに驚きなのがこの青年と画家の恋の行方なのです。
普通若い美貌の青年にメロメロになって破滅するのは中年。
ところがなんと。
この映画では青年が中年画家のことを本気で愛します。
なんてこった。
動悸が止まらない。私が好きなお話すぎる。
知ってる人は知ってると思いますが、これは私が「メソッド」にどハマりしたのと同じ構図じゃないですか?久しぶりに現れました。
けれどこんなラブストーリーはたいていフラジャイルです。
青年ジョージは若さと美貌以外なにも無いチンピラ。
画家ベイコンのように世間に認められる才能を持ち、文化人の取り巻きに囲まれるような生活とはもともと縁遠い人生。
たまたまベイコンと出会って恋人になり、彼の行く所どこにでも付いていくけれど、階級も違う仲間との会話にも入れないジョージはいつも除け者。
孤独をつのらせるジョージ。
落ち着きなくひっきりなしにタバコを吸うさまが痛々しい。
家に帰りベイコンと二人きりになり、ふとつぶやく。
あんたと二人がいい。
若くて無垢で無防備なジョージ。
彼の言葉はいつも心のままです。
作品も評価され、パリでの華々しい展覧会に向けて意気揚々とするベイコンは次第に不安定なジョージがうとましくなってきます。
孤独感、疎外感に蝕まれるジョージは精神を病み、ますます酒と薬に溺れるようになる。
ねぇわかります!?
若さと美貌!これって普通は年取った者こそが追いすがり求め続けるものじゃないの?
なのにベイコンはジョージに執着しない。
この不条理さこそが哀しくて美しいのです。
彼はジョージの前にも数人恋人いるし、ジョージと付き合ってる間にも平気で浮気します。
ジョージがそれを知ってずぶ濡れでベイコンの名前を叫び続けるシーン。
もうね、
エモがすぎる…
愛で壊れてしまう美青年。
これもまた美学であります。
結局ベイコンは絵のモデルとして、制作のインスピレーションとしてジョージが必要だっただけなのでしょうか。
彼自身を本当に愛してはいなかった?
そんな切ない気持ちにもなるのですが、最後まで見た方にはもう一度映画冒頭のシーンを見直してほしいのです。
私はベイコンもジョージを愛していたと思いました。
それはこのタイトルのように悪魔的であったかもしれない。でもそれも愛の形。
そしてジョージも、もしもっとしたたかだったら、ベイコンの世界に飲み込まれずにいられたかもしれない。
ジョージは単純で平凡な青年だったのです。それなりに仲間もいて生活もあった。分不相応な相手と出会って愛してしまったことが苦しみの始まりでした。
きっとジョージは才能と独自の世界を持つベイコンに憧れとか尊敬のような感情を持ってその世界に自分も近付きたいと思ったのでは。そんな一途さがベイコンのような芸術肌の男の心を揺さぶることがなかったのも悲劇。
この映画が世間的にどれほど受けてるのか分かりませんが、ともかく私の琴線には触れまくりでバチバチに焼き切った勢いです。
今年がそろそろ終わろうかという時にこんなツボにハマる映画に出会えるとは…
良い年の締めくくりになりました。