おなべという生き方「SHINJUKU BOYS」 | 風と木の主婦日記

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おなべバー。


男性の格好をした女性たちが働くホストクラブのようなお店のことです。


90年代、ニューハーフと並んでちょっとしたおなべブームがありました。


男物のスーツを着て男言葉を話す彼女たちは物珍しさからマスコミに取り上げられ、話題になりました。


あの頃「おなべ」と呼ばれる人たちを私たちはどう見ていたでしょうか。


男になりたい女?男っぽい女?レズビアン?


トランスジェンダーなどという言葉は一般的ではありませんでした。


性的少数者に対する知識も世間にはほとんどありませんでした。




「SHINJUKU BOYS」は、1995年のイギリスのドキュメンタリー映画です。



新宿、歌舞伎町のおなべバーで働く3人のホストたちに密着した興味深い記録です。



監督はイギリス人の女性監督キム・ロンジノットとジャノ・ウィリアムズ。



▼キム・ロンジノット監督についての記事



▼映画祭トレーラー





30年近く前の映画ですが、今でも海外の映画祭などで上映されることがあるようです。



私は3月31日のトランスジェンダー可視化の日に、海外のツイートでこの映画を知りました。



過去にはアップリンク配給で「新宿ボーイズ」のタイトルで日本で上映されたこともあるようですが、今は見る方法がありません。



Vimeoなど有料配信も探したのですが、残念ながら見つからずYouTubeで視聴しました。



▼映画祭上映時ポスター



このドキュメンタリーはおなべバー「ニューマリリン」で働くおなべホスト3人のプライベート部分にも踏み込んでいきます。



性自認と性的指向についてもインタビューで赤裸々に語られています。



ステディな彼女のいる男らしいタツ、プレイボーイタイプでモテモテのガイシ、そしてニューハーフと付き合っているカズキ。



3人はそれぞれ違うタイプのおなべです。



最も男性的で、今で言うトランス男性だろうと思われるのはタツです。





タツはホルモン注射をして少しずつ男性化している途中です。声も低く髭も生え始めています。



子供の頃からオトコオンナと呼ばれたり、女であることにずっと違和感があったと言います。





恋人は女性。一緒に住んでいます。



恋人は「特におなべが好きと言うわけではない」と語ります。



「おなべの魅力っていうよりたっちゃんの魅力に惚れてる」



ドキュメンタリーならではの貴重な生の声です。





一般的におなべはセックスをする時に裸を見せたがらないようですが、タツは彼女とは初めて服を脱いで行為をしたと語ります。



男性器の有無にこだわらないと語る恋人の言葉も印象的でした。



次にトランスマスキュリンのような傾向を感じるのはガイシです。





ガイシは「自分は男でも女でもない、自分自身」と語ります。



男になりたいわけではないが、女の子と呼ばれるのも違和感、ただ自分らしく生きたいだけ、と言います。



さっぱりとした性格でみんなから男っぽいと言われるガイシですが、ホルモン注射や手術はしたくないそうです。





ガイシの性自認は今ならノンバイナリーかトランスマスキュリンなどの呼び方がしっくりきます。



言葉自体は最近知られるようになったものですが、今から30年近く前にも実際にこういう女性がいたのです。



当時はなかなか理解されず、同じような仲間を見つけることも困難だったでしょう。



男でも女でもない生き方、などという概念自体がなかった時代に自分の言葉でそれを伝えられる女性がいたことは驚きです。



ガイシは幼少期に親の愛を感じなかった経験もあり、人を愛する感覚も少し独特です。



自分に向けられる愛情には心を動かされるけれど深い恋愛は求めていないようです。






女性同士の恋愛には未来がないとあきらめているようなところもあります。



孤独を感じさせる表情は見ていて切ない気持ちになりました。



でもそんな影があってクールな態度は女心をくすぐるようです。



お客にはモテモテのガイシ。



携帯には会いたいというお客からのラブコールがかかってくるし、店外デートでもガイシに振り回されて泣き出す女の子も。








ちなみに私が3人の中で一番惹きつけられたのもガイシです。



もし自分の人生でこんな人に出会っていたら間違いなくハマってたな、と思いました。笑



そしてカズキ。ショーパブ「ピンクソーダ」で働くニューハーフのクミと暮らしています。





お互いをパートナーと認め生活を共にしているけれどセックスはしない2人。



カズキは、クミといると男らしく強くあらねば、と気負う必要がなく泣き虫な自分も見せられると笑います。






一緒にいて心地よい関係なのでしょう。



この2人を見ていると、恋人だとか友達だとか関係性に名前をつける必要もないように感じました。



お互いに必要としている関係、で良いのかもしれません。



それでもまわりの理解を得るのはやはり難しい。



カズキが母親に電話で自分の仕事やパートナーのことを打ち明ける場面は緊張した空気が漂います。



結婚はどうするの?年取ったらどうするの?それにその相手のニューハーフって人はずっとそんなことするの?



お母さんの言葉はこの時代のこの年代の人ならごく当たり前の反応。



一般的な娘の幸せを願う母親を説得するのは大変なことです。



それでも最後は、和やかに話し合えられて良かった。



やっぱり親にはありのままの自分を知ってもらいたいし、理解してもらいたいのです。





「おなべ」と一様に呼ばれる彼らは、3人がそれぞれに違う性自認と性指向を持っていました。



LGBTなどというカテゴリーはあくまで形式で、本当は人の数だけ性の形は違うのかもしれません。



30年前の彼らが自分らしく生きる様子はリアルに胸に迫ります。



力強いドキュメンタリーでした。



ぜひ日本でも有料配信で見られるようにしてほしいです。