手術が終わった翌日のお昼から、看護師さんが来て、


「ぷーかさん、歩き始めましょう」


と言った。


背中に痛み止めの点滴が通ったまま、


尿の管も通ったまま、


ぷーかは立ち上がって、点滴棒に掴まって、


「はい、では、ゆっくりいきますよ、まずは交互に足を上げて4歩その場で歩いてください」


足が、ふらつくけど、なんとか歩けた。


次に、傷を初めてこの目で見た。テープでびっしりと覆われている、みみず腫れのような赤い傷跡。


腫瘍が大きかったので、下腹部からおへその少し上まで傷がある。その端っこを、少し触ってみた。


傷は、癒えていて、皮膚が少し盛り上がっていた。


触っても、血が指につかない。


ぷーかの身体は、生きようとしていた。


「自分は精神の病気で薬が必要なので、子供が産めない、おまけに傷者になっちゃった。何の為に生きてるの?」


と思ってしまう、ぷーかの心とは裏腹に。


なんか、嬉しくて、涙が出そうになった。


がんばろう。


それから、昼食を残さず食べて、


点滴棒に掴まって、院内をぐるぐる歩きはじめる。


たくさん歩くことで、傷が早く塞がるんだって。


がんばるよ。

ぷーかは術後、しばらく目覚めなかったけど、


そのせいか、全身麻酔が切れた後、夜中に目が覚めてしまった。


左腕の点滴が痛い。腕も曲げられない。


お腹の傷が痛い。


何より喉がカラカラ。あまりにも水が飲みたすぎて、


ナースコールを握って看護師さんを呼んだ。


「喉がカラカラなんです、水を飲んでも良いですか」


「ごめんなさいね、まだ手術から一定時間経っていないので、何も飲んではいけないんですよ」


ダメかなと思ったけど、やっぱりそうなんだ。


「では、口を水ですすいでも良いですか」


「うがいですね、それなら大丈夫」


ここで、ぷーかが持ってきた折りたたみコップと、ストロー(曲がるやつ)が役に立つ。


看護師さんが水道の水をコップに汲んできてくれて、ストローをさしてぷーかの口元に持ってきてくれる。


ぷーかは、冷たい水を口に含んで、口をゆすいで、看護師さんが顔に当ててくれたボウルに吐き出す。


喉が潤って、呼吸がだいぶ楽になった。


「ありがとうございます」


「いいえ、また何かあったら呼んでくださいね」


ここまで、ぷーかは、普通に話しているようだけど、


実は、全身麻酔の後の、人工呼吸の管が


手術中ずっと喉に入っていたので、


それが取れた後も、喉がカサカサで、声はあまり出ません。


なんか、ヒソヒソ話をしているような感じの声しか出ない。



ぷーかの手術は、午後1時からだった。


手術前に、手術着(浴衣みたいなやつ)に着替えて、点滴。


朝ごはん無し、昼ごはんも無し。仕方がない。


手術室へは、点滴棒自分で持って、看護師さんと母と3人で歩いて行った。


母と、手術室前でバイバイして、看護師さんと2人で手術室へ入る。


手術室は二重扉になっていて、2番目の扉の前で少し待っていると、手術室専門の看護師さんが、名前と生年月日を聞いて来て、


手術室の扉から、中へ。


まず、シャワーキャップみたいなものをかぶって、ベッドに横になります。(仰向けではなく、横向きね)


そっから、背中に麻酔入れてくんだけど(これをやっとくと、術後に傷が痛まなくて、かなり良いらしい)


その麻酔、かなり卵巣の腫瘍に響くのね。


看護師さんと麻酔科の先生が一緒になってぷーかのこと見てくれてて、看護師さんに「お腹が痛いです」というと、


看護師さんが麻酔科の先生に合図して、痛み止めを入れてくれるの。


なんとか背中の麻酔が終わって、上向きになったら、


口に白っぽいマスクをつけられて、「眠くなりますよー」って。


ああ、これが全身麻酔かあ・・・って思って、何度か深呼吸したら、


次の瞬間、意識が無くなってた。


「ぷーかさーん、あれ、起きないな?」

「ぷーかさーん」


・・・眠い・・・


目が覚めたら、身体中にいろんな機械が繋がれてて、


お腹の辺りが痛いやら、喉がカラカラやらで、喋れない。


手術は、予定より1時間遅れたけど、


無事に終わったみたいだ。