ミニ新幹線区間にある元仮乗降場
JR田沢湖線(盛岡駅〜大曲駅)は現在、秋田新幹線が乗り入れる区間の一部に組み込まれ、標準軌の線路に新幹線車両が運行される近代的な路線となっています。しかし路線は基本的に単線で、岩手・秋田県境を含む赤渕駅〜田沢湖駅の間は18.1kmもの駅間距離があり、この区間での列車交換の必要性から、岩手県側に大地沢(おおちざわ)、秋田県側に志度内(しどない)という2か所の信号場が設けられています。新幹線車両が走る区間に列車交換のための信号場があるというのも珍しいですが、この2つの信号場、路線開通と同時に昭和41(1966)年に開設したもので、国鉄時代の信号場としては比較的新しいものなのですが、仮乗降場として営業していた時期があり、それがいつからいつまでなのか全く不明という謎を秘めた存在でもあります。大地沢信号場は岩手・秋田県境をなす仙岩トンネル(3915m)のすぐ盛岡・赤渕方にあり標高は約372m、志度内信号場は仙岩トンネルの隣、第二志度内トンネルの大曲・田沢湖方にあり標高は約328mです。仙岩トンネル内に田沢湖線の最高所がありここが標高378mですので、どちらの信号場もサミットに近い場所に位置しているのが分かります。赤渕駅〜大地沢信号場間は6.6km、大地沢信号場〜志度内信号場間は5.8km、志度内信号場〜田沢湖駅間は5.6kmと、ほぼ等間隔に交換設備が配置されていることになります。このような立地ですので、大地沢も志度内も周囲に人家などはほとんどなく、秘境と呼んで差し支えないようなロケーションなのですが、どっこい国鉄時代には客扱いを行なっていた、つまり仮乗降場を兼ねていたのです。今も駅として残っていたら全国トップクラスの秘境駅になっていたかもしれません。「国鉄全線各駅停車3 奥羽・羽越400駅」(宮脇俊三、原田勝正編、昭和59年)によると、「どちらの信号場もディーゼルカー1両分の相対式ホームがあり、ホームの上に信号場名を記した標識が立っている。赤渕―田沢湖間の駅間距離が長いため、列車の行違い用に設けられた信号場だが、この信号場で対向列車の通過待ちをする普通列車はドア扱いをする。といっても一般の旅行者がこのような山の中でおりたとしても道に迷ってしまうであろう。大地沢信号場は深い山のなか、志度内信号場は絶壁に囲まれた渓谷の底にあるからだ。」「汽車旅行歴史シリーズ 全国鉄道と時刻表2(東北・奥羽)」(高田隆雄、大久保邦彦監修、昭和61年)にも当時の普通列車乗車記が掲載されており、一日5往復のこの区間の列車(当時は電化済みでしたが、普通列車は気動車による運行でした)のうち信号場に停車するものは客扱いをしていたようです。引用すると、「大地沢信号場で盛岡行特急『たざわ2号』を待つ。客扱いもしているらしくドアが開いたので、外に出て撮影をする。」このように国鉄最末期まで仮乗降場としても存在していた両信号場ですが、他の信号場のように民営化時に正駅に昇格することはありませんでした。客扱いを中止した時期は不詳ですが民営化と同時でしょうか?似たような例として、羽越本線で客扱いを行なっていた信号場のうち、今川、女鹿、折渡、桂根が正駅化されたのに対し、二古信号場は正駅化されず信号場のまま継承されたというパターンがあります。大地沢も志度内も、信号場近くの川(沢)名を信号場名としています。その名前の由来は詳らかではありませんが、志度内については由来となったシトナイ沢というのが生保内川の支流で、田沢湖町史によれば生保内川はアイヌ語の「深い川」を意味する「オボナイ」に由来するとのことで、よりアイヌ語に忠実に記すと、「オホ・ナィ」(oho-nay)となるかと思われますが、その支流をなす「ナイ」を含む川名であることからしても、「シトナイ」はアイヌ語由来の可能性が高いように思われます。生保内(おぼない)は田沢湖駅の旧駅名でもあり、田沢湖線が昭和41年に全通するまでの秋田県側の路線名(生保内線)にもなっていました。(当時の岩手県側の路線名は橋場線。)現在も長い駅間にあって交換設備として重用されている大地沢、志度内両信号場。新幹線が頻繁に走る傍らには今でもプラットホームがありますが、これらは新しそうな造りをしており、標準軌化工事後に再設置されたものかもしれません。しかしそんなプラットホームには信号場名を表記した標識が健在で、かつて仮乗降場として地元の人々の足となっていた時期があったことを静かに語っているのかもしれません。今回もここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。書きかけのまま投稿に至っていないブログ記事が溜まってきている一方で前回の投稿からかなり間が空いてしまい、汗顔の至りです。申し訳ございません。2025年のブログは本記事で最後となります。本年も弊ブログにお付き合いくださり、誠にありがとうございました。どうぞ良いお年をお迎えください。