今朝の中日春秋は、ナチスの施設で経理係として働いていた94歳のドイツ人男性が、ドイツで殺人罪ほう助の罪で禁固4年の判決をうけたことをとり上げている。時の政治組織の末端に位置するこの老人の裁判結果に関連して、「時流に流された歯車の歯の責任をどう問うべきか。これはいつまでも考え続けなければならぬ問いだろう」と、自分の考えを披露する事なしにコラムを終わっている。コラムを担当しながら、自分の思想を隠して披露しないのは、非常に卑怯な態度であると思う。
 
ナチスのユダヤ人虐殺は、日本では人道の罪で裁かれたと聞くことが多い。本当はそうではなく、普通の殺人罪として裁かれて来たとウィキペディアに書かれている。(https://ja.wikipedia.org/wiki/ドイツの歴史認識)実際、上記ドイツ人オスカー・グレーニング氏の裁判に関する昨日の新聞記事にも、普通の殺人ほう助と言う罪名がかかれていた。
 
この件、私には疑問点が多く浮かぶ。過去ナチスが行なったユダヤ人虐殺が、延々と殺人罪で裁かれてきたと思う。しかし、それを指揮したヒトラーを国の指導者として選んだのは、ドイツ人である。ドイツ人が収めた税金によりドイツの公務として殺人が行なわれたのだから、上記オスカー・グレーニング氏が殺人ほう助で裁かれたのなら、当時のドイツ人納税者が殺人ほう助で裁かれないのは何故なのか?その件に関してドイツ人一般とオスカー・グレーニング氏との違いは、単に、必要な金を税金で収めたことと、その金の使われた方の計算をしていたことの違いであり、そして、殺人現場からの距離の違い、の二つだけではないのか。
 
また、ナチス時代に適法と解されていた行為を事後的に変更された法解釈により処断することは遡及処罰にあたる。刑法の遡及適用は、民主主義の刑法の基本である罪刑法定主義を否定することになる。また、一般の殺人罪ほう助でも、94歳の男性が70年以上経ってから裁かれるというのは、異常である。殺人罪や殺人ほう助罪に時効はないのか?(補足1)https://ja.wikipedia.org/wiki/公訴時効
 
私には、超法規的に同胞の血を、ヨーロッパ諸国を始め戦勝国への謝罪の儀式に使うだけのためだと思う。そんなことをするのなら、ドイツ国民全てが罪を認めて、テレビの前で頭を下げるとか、土下座するべきではないのか。報道機関に長く務めた中日春秋氏は、素人の私と違って、同様のことを瞬時に頭にうかべただろう。しかし、何も書かない。
 
一昨日ブログに書いた、東京裁判の時の米国人ブレイクニー弁護士は、担当したケースの日本人被告が殺人罪に問われるのなら、原爆投下時に米国の大統領であった人も、殺人罪に問われるべきではないのか?と、弁護したのである。
 
社会の第一線の然るべき立場の人間は、既存の権力や風潮に抵抗してでも、可能な限り自分の考えを述べるべきである。それは彼らの義務であり、知識階級がその義務を果たすことが、民主主義の成立条件であると思う。そして、日本においてそのような文化が欠損していたことが、あの戦争に踏み込んだ主なる原因の一つだったと思う。

補足1:控訴時効についての引用サイトには、ドイツで裁かれているナチスの犯罪について、特別の時効に関する取り決めはないとある。
安倍総理の戦後70年談話のための有識者懇談会は21日、最終会合を終えた。
最終的には安倍総理が判断する事だが、その内容がどうなるか、侵略や謝罪といった文言が入るかどうかが注目されている。既に私は、今年1月にこの件について、「村山談話を基本にすべき」と本ブログに書いた
 
歴史に関する安倍総理の考えはいろいろあるだろうが、日本国民の利益を代表する立場であることを十分考慮して、談話の中身を詰めてもらいたい。一番気になるのは、侵略とか謝罪とかを政治家の視点ではなく、歴史家的視点で語りたいという欲求が安倍総理にあるかもしれないと言う点である。総理に要求されているのは、歴史の究明ではなく、現実主義的視点で、未来に向っての国民の安全と国家の繁栄を考えることである。
 
哲学者の鶴見俊輔氏が先日亡くなった。氏は「くに」と「国」を使い分けしていたということを新聞記事で読んだ。私流に解釈すると、「くに」は民と土地、更に文化などを含めた、過去から継続した存在であり、「国」はその「くに」を統治する政治機構である。つまり、安倍総理は飛行機とその中の乗員乗客などを含めた日本という「くに」のコックピットである「国」の長なのである。
 
そのように考えると、以下の様な談話を出す場合に、過剰な抵抗を感じることはないだろう。(注釈1)
 
”昭和の始めに、日本国が誤って大陸を侵略し、朝鮮半島、中国大陸、及び自国民に多大の損害と苦痛を与えた。連合国の占領を経て、大日本帝国政府から全く新しい体制になったとは言え、その延長上にある現在の日本政府の指導者として、被害を受けた半島及び大陸の民に対して、謝罪の意をここに表明する。”
 
また、もう一つの気になる点は、安倍総理の積極的平和主義である。それは、中国の南シナ海での違法と思われる海洋進出などを、周辺諸国及び米国と協力する形で、牽制することを意味しているように感じる。しかし、日本の領土を護る場合には、日本の軍隊である自衛隊は使えても、南沙諸島を中国から護るベトナムやフィリピンに協力する形で、自衛隊を使ってはならない。

集団的自衛権行使を可能にすることには賛成であり、それは日本防衛に役立つ筈である。しかし、日本の集団的自衛権行使を可能にする法制に関して、米国の思惑と日本の思惑は微妙に異なるだろう。
 
安倍内閣の支持率が今日ニュースで流れていた。読売新聞の調査で、支持が38%と大きく低下し、不支持が50%を越えていた。集団的自衛権行使が可能になれば、安倍内閣は米国の下働きを喜んでするのではないかと、国民は疑っているのである。
 
日本は軍事力を用いて、自国以外が関与する国際紛争に関与することがあってはならない。それは、米国を喜ばすことになっても、日本国民の安全に寄与しないと思う。

安倍総理の積極的平和外交が戦後70年談話に入ることを、私は大いに懸念する。
 
(以上は、一有権者としての考えです。批判等歓迎します。)
 
注釈:
1)昨日の記事で、ドイツが戦後とったヨーロッパ諸国からの信頼回復の方法を、ドイツの狡賢さとして書いた。つまり、ドイツの全ての負の遺産をナチスとヒトラーに帰属させて、ドイツ国民一般の罪滅ぼしとしたことである。上記提案はこのドイツの考え方に似ている。
池上さんの番組(7/25;そもそも戦争とはSP)を観た。大戦で失ったドイツの信用回復への取り組みを紹介している。日本はこれまで、戦争についての責任追及をおこなってこなかったことを、私もブログで非難してきた。あの戦争の歴史を知らないままでは、大失敗のあの戦争から何も学べないし、周辺国との不要な摩擦に苦しむ可能性大だからである。 

ドイツはその点ずる賢くやっている。ナチスを徹底して糾弾し、現在でも少しでもナチスに関係がある人を見つけ出して裁いている。ドイツ国民がつくった政府である、ヒトラー政権に協力することは、当時違法とは言えない筈である。先日も、93歳になるユダヤ人収容所の門番を逮捕して、裁判にかけたという。事後法で裁いている筈だが、そんなことはおかまいなしである。 

狡さとは、つまり、ドイツ人全てが引き受けるべきことを、ヒットラーとその協力者にだけに事後法を用いて押し付けているからである。メルケル氏は先日来日した際に、その取り組みを自慢げに日本に勧めているが、日本はホロコーストの様なことをやって居ない(補足1)。 

どっちもどっちだ。つまり、日本の様に何の検証もしないで、何の教育もしないで、近隣とトラブルの種を放置するのも問題だ。しかし、事後法で国民の一部を厳しく罰するのも、おおいに疑問である。 

戦後70年、安倍総理が何か談話を発表したいそうである。その内容がどうなるか、国内外で注目されている。安倍総理は、積極的平和主義を看板に掲げて未来志向の演説をしたいようだが(補足2)、やり方を間違えば国益を著しく損なうだろう。国民の一人として、安倍総理もあの戦争を十分消化吸収していない可能性が高いと危惧するからである。つまり、ドイツは現在ヨーロッパに於いて殆ど脅威と看做されていないが、日本は未だに東アジアで脅威と看做されているのである。

未来志向は、現在の足場がしっかりしていることが条件である(補足3)。安倍さんは、そのことが十分解っているのか心配なのだ。 

補足:

1)韓国メディアから日本に対する暴言が飛び出した。 http://www.j-cast.com/2015/07/23240979.html

日本だけは地球上で必ず絶滅させなければならない、唯一の人種」だそうである。韓国のニュースサイト「デイリー・ジャーナル」のコラムでこう書いたのは、以前も秋篠宮家の次女、佳子さまについて「慰安婦にするしかない」などと暴言を書いた記者だった。 

2)積極的平和主義は、自由や正義といった人間にとっての普遍的な原則に基づいて、平和(世界的秩序)を構築するという、米国の理想主義者の政策に酷似している。しかし、それはジョンソン(息子)大統領の時に失敗が確定したことではなかったか。日本はそのような覇権国家のような真似をする地位にはない。国民の一人として言いたいのは、自国の国益と防衛に利する政策を、時にはずる賢く一歩一歩着実に進めて欲しいのだ。

3)集団的自衛権行使を可能にしたとしても、日本の足場(日米安保条約)は沼地のようなものだと思う。米国は、世界の警察官(覇権国)の地位を降りる予定であると言われている。中野剛志著「世界を戦争に導くグローバリズム」pp136-138参照。