ファリード・ザカリア氏(Fareed Rafiq Zakaria)はインドで生まれ少年時代まで過ごした、米国の著名な国際問題評論家である。米国のイェール大学卒業後、ハーバード大学で博士号を取得した1992年に、28才でForeign Affairs の編集長(managing editor)になったと言う秀才である。

 

このザカリア氏のグローバリズムについての総合的な解説を、米国在住ブロガーのハンドルネームChukaさんが紹介している。その要約と元の動画をみた。https://ameblo.jp/chuka123 動画の英語は、日本人には比較的わかりやすい発音だが、字幕及びchukaさんの要約を参考に、その大筋を理解した。誤解や間違いと思われる箇所があれば遠慮なく指摘してほしい。

 

この動画は、2018年4月に行われたハーバード大学ケネディースクールでの大学創立記念講演である。表題は「グローバリゼーション2.0バックラッシュ(backlash)」である。グローバリゼーション1.0は、世界の途上国の経済を浮揚させた成功の部分を言うのだろう。https://www.youtube.com/watch?v=ZvwglFKGw_E

 

その反動(デフレと貧富の差の拡大)に苦しみだした先進諸国では、反グローバリズムの動きが、特に民族主義者を中心に出てきている。英国のブレグジットなど欧州連合の結合力にも陰りが出てきている。これらを演者は単にバックラッシュ或いは調整局面と捉えているように思うが、それは間違いだと僭越ながら素人の私は思う。

 

従来の米国支配層の側に立つザカリア氏は、現在現れているグローバリズムの弊害を反動(backlash)と呼び、当分はグローバリゼーションを修正しながら、人のグローバル化まで推進すべきだと主張するのだろう。

 

一方、トランプ大統領は明確にこれ以上のグローバル化に反対しており、これまでの自由貿易体制すら否定している。従って、両者の間には折り合いを付ける点はなく、単に敵対関係にあるといえる。それは、講演後の質問の時間に、トランプ大統領は止めるべきだと言っていることでも分かる。

 

以下、ザカリア氏の上記講演を私なりに紹介し、議論してみる。

 

1)ザカリア氏のグローバリゼーション:言葉の定義について

 

ザカリア氏は、この講演のなかでは、グローバリゼーションを文字通りの意味、地球規模化と定義し、特に途上国の視点から背景を大きくとって、その効果と「反動(バックラッシュ)」について議論している。

 

一方、日本でのグローバリゼーションの議論では、第二次大戦のころに始まったブレトン・ウッズ体制から、WTO(最初GATT)やIMFと言った国際機関の設立と、それを背景に世界での物品と資本の流れの自由化、様々な規制の撤廃を進めるネオリベラリズム的経済政策を意味する。これら二つのグローバリゼーションは重なる部分も多いが、その違いを意識しないと、講演の内容が分かりにくくなると思う。

 

ザカリア氏はグローバリズムの展開を、以下のフェーズに分けて考えている。

1)物品のグローバルな流れ。これは16世紀に背の高い大きな船の発明により可能になった。

2)19世紀に始まる資本のグローバリゼーション

3)20世紀のサービスのグローバリゼーション、特にインターネットを用いたものは劇的にそれを加速した。

4)人のグローバリゼーション、難民や移民の西欧や米国などへの流入を、ザカリア氏はグローバリゼーションと捉えている。(講演の36分)

 

このグローバリゼーションを進めるエンジンとして、互いに依存する3つの革命的出来事を挙げている。それは1990年ごろから急激に進んだ。

1)インフォーメーション革命:これは国際的な通信としては、短波放送、国際電信電話、衛星テレビ、インターネットなど普及である。特にインターネットの影響が大きい。

2)グローバルな貿易システム:19世紀に背の高い大きな船が発明され、物品の貿易が地球規模で可能になった。途上国も1990年ころからアメリカを中心とした貿易のネットワークに参加することになり、その結果飛躍的に経済発展を遂げた。1979年にGDP3%以上の成長を遂げたのは、31-32カ国であったが、2005-2006年には125カ国になった。2008年の金融危機後8年の現在でも、その数は85カ国である。

3)政治的安定化: 1991年末にソ連が崩壊し、冷戦が終結した。そして米国の一極支配が始まり政治が安定した。その結果、途上国がアメリカ主導のこの貿易システムに参加できるようになった。(補足1)

 

ザカリア氏は、政治の安定化という基礎の上に経済のグローバル化が進み、そこで情報の革命が展開されるようになったと言っている。その結果、途上国の経済は大きく成長し、世界から貧困が大きく減少した。ザカリア氏はこの部分をグローバル化の大きな利益であり、それがグローバリリゼーション1.0であり、本来のグローバリゼーションがこの延長線上にある筈だと考えているのだろう。

 

2)1990年以降の企業のグローバル化での成功パターンと「グローバル化のバックラッシュ」について:

 

バックラッシュという言葉は、意味が幾分曖昧である。辞書では「反動」と書かれているので、そのように以下用いる。ザカリア氏は、バックラッシュがグローバル化の副作用なのか、それとも本質なのかという問題には答えていない。それは、グローバリゼーションが①「従来の文明の自然な発展と地球規模の伝播」なのか、②「何者かによる明確な意図を持った政策」なのか?という疑問点をスキップして議論しているからである。

 

もし、①なら、各国が其々のパターンでグローバリズムを一旦後ろに戻すことで、正常な政治経済運営が可能となる。しかし②なら、その支配的な勢力は、グローバリズムを続けながら、ちょうど投資の時の借金を支払うように批判を部分的に抑えながら、従来路線を進めることになるだろう。この講演での不明瞭さは、ザカリア氏が従来のマスコミの中で生きている人物であること、つまり従来の支配者側の人物であると考えれば理解できる。

 

従って、グローバル化に反対するトランプに対する批判も、アマゾンに対する粗野な流儀を強烈に批判しながら、トランプは「グローバル化経済政策が、非常に多くの地方の町の個人営業の雑貨屋(moms and pops hardware store)を、強引に破壊するという不愉快な出来事の原因だと理解している」と真当に解説しており、中途半端である。(補足2)

 

後先になるが、最初の「バックラッシュ」の話は、Mackenzieの研究紹介から始まっている。[21:20] 以前は、景気回復から就業率の回復までは6ヶ月位だったが、1990年前半には15ヶ月に、2000年には25ヶ月になり、2008年頃には、明らかに景気回復してから就業率の回復までには64ヶ月かかるようになった。更に、労働の質もパートタイムが増えるなど悪化した。

 

この現象はグローバル化の本質であり、反動などではないと私は思う。つまり「資本と労働のデカップル」は、最初から経済のグローバル化を推進した勢力の目指したことである。ここで、私が3-4日前に書いたブログの内容を思い出してほしい。

 

 米国クリントン政権(1993-2001)は、キャピタル・ゲインに対する税率を大きく下げたのである。このクリントン時代に大幅に税率を下げた主役が、財務長官だったロバート・ルービンやローレンス・サマーズだった。両者とも金融業と関係が深く、グローバリゼーションの加速に協力的だった。

 

また、米国を代表する企業500社(S&P500)の場合、1980年代では上げた利益の50%が株主還元に、45%が設備投資や賃金上昇に用いられたが、2000年になると利益の90%が株主還元に向かうようになったのである。 

 

つまり、「資本と労働のデカップリング」は、米国の資本の従来の資本家達への蓄積とグローバル展開を、特に民主党政権がニューヨークのウオール街の人たちの意思を反映する形で大きく進めたことである。それは明確な意図を以って行われたことである。https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12544848302.html

 

そして、この資本と労働とのデカップルは、ザカリア氏も以下の様に説明している。このグローバル化経済において、大企業なら資本入手が簡単なところ(つまり資本が安いところ)で資本を手に入れ、労働力が安い所で生産をし、高く売れるところで売ることで大きな利益を得られる。また、この巨大資本にとって非常に有利なパターンについて、以下の表現を用いている。You can surf this wave of globalization and the information revolution to enormous advantage. [23.56ころ]

 

英語の「you」は、「(貴方がその当事者なら)貴方は」という意味で屡々使われる。この「you」はニューヨークの金融業者の意味であり、この利益を上げる方法を「波乗り」に喩えている。まるで、「彼らとは直接関係なく生じた大きなグローバル化の波に上手く乗っている」という表現である。その解説をハーバード大のケネディースクールの学生たちは、そのまま信じるのだろうか?その「波」は彼らが最初から意図的に政治を動かして為し得たことである。

 

日本では、グローバリゼーションの結果、豊かになったという実感は全くない。それよりも、1970年代までの米国のアメリカからの資金援助である「ガリオア・エロア資金」などによる奇跡の発展のあとの、デフレ経済の元凶のように考える場合が多い。因みに、この米国の援助を政府は周知し、日本人は米国に感謝しなければならないと思う。

 


3)グローバリゼーションが、理想的な動機の下、各国の文化に配慮し一定の限度を置きながら、徐々に拡大させるという前提で運営されるのなら、それは人類にとって望ましいことである。しかし、そのためには世界を米国の単一覇権から、世界の人々を平等に扱う国際機関の一極支配下に移動させるべきである。国際連合の根本的改革が近道だが、それには相当の時間を要するだろう。(補足3)

国連の根本的な改革には、現在の常任理事国が特権を一旦放棄しなくてはならない。その為、リーダー的な大国全てが、長期的視点にたち互いの信頼感を高めなければならない。それは、世界各国による歴史の共有がなければならない。それには情報の自由な流れと、情報を消化する時間が必要である。中世的な隣の大国や小国などが、情報を操作したり封鎖したりする現状では、無理な話だと思う。


最後にザカリア氏は「人のグローバル化」について議論している。これはそれぞれの国家に混乱を持ち込むだけであり、明らかに時期尚早である。マクロンやメルケルを賞賛するのは、難民受け入れというヒューマニズムの観点からであるべきである。

ザカリア氏は民主党の「理想主義」を語っているのだろう。しかし、民主党は真に労働者の味方であった時代は終わっている。現在は、トランプがその役割を行っているようにも見える。スーパーPACなどで、米国の従来政党はウオール街の方を向くようになってしまったからである。
(18日早朝全体的編集、19日早朝2,3の語句修正)

補足:

1)その具体的展開は、世界銀行による登場国への融資、IMFなどによる通貨の安定化、更に、政界貿易機構(WTO)による様々な諸国間の貿易障害の撤廃などにより、世界経済が地球規模で発展した。この段階が、通常のグローバル化の定義だと思う。

2)23分頃; There is some , I don't know if it's a method or an instinct, or a genius, but even with the discussion of Amazon, while it's bizarre for the President to go after a particular company, he's actually wrong on the post office issue. He understands that there is some discomfort with the idea of this vast company (Amazon) that has disintermediated large number of moms and pops every hardware store in every local town, every bookstore. That process is sort of like creative destruction except on steroids.

ザカリア氏は、この様に話している。ただ、私には全体的にこの英語の意味が正確には理解できない。例えば最後の文のステロイドは麻酔薬という意味なのか?


3)国際連合と日本で訳すのは、占領軍の指示なのだろうか。これは元々、戦勝国となった諸国の連合を指す。この国連とその下部と辺縁にある組織の改革をしないで、政治と経済のグローバル化を勧めるのは、講和条約後の国際政治としては卑怯である。 


(11月18日全体的に加筆編集)

 

2014年に投稿のものですが、ブログ内での検索にひっかからなくなったので、再録します。この10月27日に投稿のものは、これに付け足したものです。出来れば、それもお読みください。https://rcbyspinmanipulation.blogspot.com/2019/10/blog-post_27.html 原題は「CO2による最近の地球温暖化を完全否定する訳ではないが」ですが、改題しました。

尚、この記事を再録するにあたって、再度明確にしておきたいことは:

 

1)温暖化ガスの筆頭は水蒸気であることと、その凝縮(水滴に戻ること)した雲が、太陽光を反射することが、エネルギー収支の上で大事なこと。ただ、水蒸気は20km以上の上空では、固化するためほとんど存在しえないだろう。

 

2)一方、二酸化炭素は上空での温暖化ガスとして主役である可能性が高いこと。つまり、低温でもガス状態であり、上空に達することが可能であること、及び、低温状態の大気は主として10-15ミクロン付近の赤外線を出して冷却するが、その部分に吸収を持つ二酸化炭素は、相応の温室効果を示すだろう。

 

3)これは10月の記事で書いたことだが、海水温度のモニターは未だ深刻ではないが、確実な地球の温暖化を示している。

 

以上の三点です。(この部分は11月17日早朝追加)



はじめに: 先日、広島の土砂崩れにより多数の死者を出した。この件、自然現象が直接原因だが、他に二つの人為的因子が存在する。一つは、危険箇所での住宅建築を許可した行政の責任であり、もう一つは、所謂地球温暖化の問題である。頻発する豪雨とそれによる土砂災害の一因はCO2による地球温暖化であるとの考えを屢々見聞きするので、今回、地球温暖化問題を基本的データを元に再考してみた。データの出所は夫々の図に示した様に、全てネット上である。
 この問題に関しては、アルゴア氏の本の極端な記述に対する批判や世界気温の急上昇を示した“ホッケースティック図”に対するデータ偽造などの疑惑から、資源の温存を狙う西欧先進国による陰謀説なども出て、地球温度上昇を二酸化炭素の増加によるとする説自体が疑惑に包まれた感があった。更に、地球物理や地球環境を専門とする学者からも地球温暖化CO2原因説に否定的な意見が出ており、私はそれに賛同してきた。それらを疑問点を解消すべく、一から少し真面目に自分の意見を作るべく、この問題を考えた。

1)IPCCの地球表面温度の観測報告と最近の温暖化停滞について
 地球温暖化(問題)としてウィキペディアで説明されているのは、地球全体の気候が温暖になる自然現象を呼ぶのでなく、近年観測されている「20世紀後半からの温暖化」である。この “20世紀後半の温暖化に関しては、人間の産業活動等に伴って排出された温室効果ガスが主因と見られ、2007年2月に国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発行した第4次評価報告書 (AR4) によって膨大な量の学術的(科学的)知見が集約された結果、人為的な温室効果ガスが温暖化の原因である確率は9割を超えると評価されている”と書かれている。



 つまり、地球物理の方々が主張している、大きな自然現象としての気候変動とその原因とは別に、この数十年の、地球物理的には小さいが人間生活にとっては大きな意味のある地球高温化は事実であり、その主因は地下資源を燃やしたことなどで排出されるガス、特に二酸化炭素であるとかかれているのである。
 図(1)左図に幾つかの温暖化ガスについて地球温暖化効率が見積もられている。一番効果が大きいのは、従来から言われている通り、二酸化炭素である。右図の世界の気温であるが、図にあるようにこの50年に0.5度ほど上昇している。良く見ると、最近の10年ほどの平均気温は、ほぼ一定しており、これが従来の考え方と合わないとして議論されてきた。これに関しても、最近、海水へのエネルギーの流れで説明する論文が発表されている。(注1)

2)温室効果と温暖化ガス
 図(2)は、マクロな視点で地球温暖化を捉えるための、黒体輻射の法則(注2)を利用した単純化されたモデルである。問題を議論するスタートとして利用される。この図は、文部科学省のHPに記載された名古屋大松井教授の報告書から転載したものである(注3)。地球の空気を含めて黒体と考えるこのモデルでは、温暖化ガスの増加は、空気の層が厚くなることに相当する。太陽から来た可視光線などが地表で熱に変換され、元々の赤外線も加わって地球を暖める、そして平衡状態では受け取った熱は全て地球上から宇宙に放射される。その熱エネルギーの全量が変わらず、且つ上層から地表までの大気の間で、熱のやり取りが十分早いという仮定の下で地表面の温度を考えるのである。



 そこで、太陽から来るエネルギーは例えば太陽を6000度の黒体球とすると、地球に来るエネルギー放射が計算できる。  黒体輻射の放射エネルギー(R)はシュテファン=ボルツマンの法則:
 R=σT^4; σ=5.67 x 10^-8 (Wm^-2K^-4)
を用いて計算される。 そこで、地球の位置で太陽光線と直角に面する時に受け取るエネルギー1366 W/m^2(太陽定数)から、その1/4(342W/m^2)が平均的な地球表面が受ける単位時間当りのエネルギーである。そして、その内の雲や地面から直接反射された分を除いた、240 W/m^2分が吸収され、熱平衡が成立しているとすると同じ分が放出される。黒体輻射の式を地球の熱放射にも利用すると、地表の温度が図にあるように摂氏-18度になるのである。

 空気が酸素と窒素とアルゴンのみである場合、太陽エネルギーを吸収しないので、地球へ届いたエネルギーはそのまま放射される。そこで、地球表面は摂氏-18度になる(一番左)。空気に温暖化ガスがあると、それらが途中で暖められる。また、地表から放射された熱がその温暖化ガスに吸収されて地表にもどされる。その場合、反射されたエネルギーと太陽から受けたエネルギーの和が、平衡状態で放射されるエネルギーと計算される。その結果、地表からは390W/m^2の放射が起こるとすると、それは地表面の温度摂氏プラス15度に相当する(単なる観測結果と合わせているだけである)。これは地表面と空気層を温室のビニル屋根に見立てた”温室モデル”であるが、連続的に空気が存在するので当然定量的な議論としては単純化し過ぎである。

 温暖化ガスがあっても地球外放射は同じであるから、平均的な放射面が温暖化ガスの増加とともに上昇すると考えられる。平衡がなりたっておれば、上空の-18度の空気と地表面の15度の空気を仮想的に入れ替えても変化がおこらない。つまり、摂氏-18度のガスを断熱圧縮して1気圧にしたときに摂氏+15度になると解釈できる。
 図(1)は人工的に排出されたガスをリストしているが、実際には温室効果ガスの大半が水(水蒸気)である。本来脇役である筈の二酸化炭素などが、”付加的な最近の地球温暖化"であっても、その主役であることを主張するには、もう少し緻密な議論が必要である。現状では二酸化炭素濃度増を主原因として、”最近の”地球温暖化が起こっているという説は確定していない。そこで、一度原点に戻ってこの問題を考えることにする。

3)空気に含まれるガス成分の光吸収と太陽から来る光の減衰
先ず、空気成分の光透過率を示す。これは、大気物理学(Atmospheric Physics)のジョージア工科大Sokokik 教授が講義ノートとして公開したものである。


ここで、一番下の図が空気の透過率になる。可視光線は殆ど透過するが、赤外線は相当広い範囲で吸収され、その大部分が空気中で%レベルの濃度を持つ水、つまり水蒸気による吸収である。水の基本赤外吸収は3657/cm; 3756/cm;& 1595/cm(/cmはカイザーつまり1cm当りの波数)であるが、倍波吸収などにより近赤外領域まで周期性を持った強い吸収を示す(注4)。ここで、透過率の高い部分を“大気の窓”と呼ぶ。例えば、最下図の波長8〜13μの領域が代表である。吸収の大きい、つまり、透過率の小さい波長領域は、主に水の吸収によるが、4.3 μと15μ付近に二酸化炭素の吸収が、9.6μ付近にオゾンの吸収がある。その他メタンによる~3μ付近と8μ付近にもかなり強い吸収があることが解る。
 太陽のエネルギー放射曲線と地表からの熱エネルギー放射曲線: 


 図(4)は同じくSokokik教授の講義(講演)資料からとった、太陽からくる放射エネルギーの波長依存性である。破線で示したのが、6000K(絶対温度6000度;摂氏5700度)の黒体放射スペクトルである。上の実線が大気圏外でのスペクトルで、その下が地表でのスペクトルである。紫外線部分が削られているのはオゾン層での吸収だろう。斜線により影をつけた部分は、大気内のガスによる吸収で減少したエネルギー部分である。当然、そのガスは上空で加熱されることになる。  ここでは波長2.5ミクロンまでしか書かれていないので、太陽エネルギーの大部分は可視光線と波長の短い赤外線(近赤外線)であることが解る。ここで注目したいのは、水による近赤外線の大きな吸収である。地上に来るまでに、おそらく15%(後に上げる図で、全大気による吸収は約16%)くらいは吸収されている。
 上記図(3)と(4)を一つにまとめて示した図が下のもので、情報的には何も加えないが、解り易いのでのせておく。


 図の2段目の吸収と散乱の効率を見ると、地上は光線から厚く遮蔽されていることが良くわかる。そして、水蒸気が近赤外から長波長部分を遮蔽する主なガスである。4.3μと15μ付近に炭酸ガスの吸収があるが、それがどの程度最近の人工的原因による地球温暖化に寄与しているか?が本文章のテーマである。 図上段の赤外部分の3本の線は恐らく、310K, 260K, 210Kの夫々黒体輻射を表わしているのだろう。青い部分は、”地球表面から放出された赤外線”を地球外から見たスペクトルだろう。後で説明する様に、実際に地表から大気の窓を通して放射されるのは約6%のエネルギーに過ぎない。また、人工衛星を使った観測では、上空大気からの放射がほとんどであり、このような形にはならない。

4)地球からの熱放射への温暖化ガスの影響


 図(6)上図に示されているのは、人工衛星から観測した地球からの放射スペクトルである。下図は、太平洋上熱帯地域での上空からの赤外線放射である。http://wattsupwiththat.com/2011/03/10/visualizing-the-greenhouse-effect-emission-spectra/ つまり、上のグラフが地球から出て行く赤外線のスペクトル、下のグラフが上空から地上に放射される赤外線のスペクトルである。破線は地表表面温度の黒体放射曲線とだけ書かれているが、ヴィーンの変位則から計算すると300K位である。
 下図の7μから13μまでの凹んだ部分に対応する赤外線は能率良く宇宙に放射されていること、上図の凹んだ部分から、夫々水分子(7μ、13μ以上)、オゾン(10μ)、二酸化炭素(15μ)が、括弧内に大凡の波長でしめした領域の赤外線を宇宙に逃がさないようにしていることが解る。以上は、温室効果ガスが実際に地球の温暖化に寄与していることを示している具体的な証拠であり、重要な結果だと思う。  この図及びこの図の元になった図で気になるのは、横軸である。上図をよく見れば、横軸目盛として波長(μm)が書かれているが、等間隔でも対数表示でもない。そのこと及び縦軸の単位からも解る様に、波数(/cm)が横軸であった図を左右逆転して表示したものである。注意を要するのは、一般に波長を横軸に表現された放射スペクトルと振動数(波数)を横軸に表わしたスペクトルは、ピークの位置も形も異なるということである。(注5)横軸を波数で表示したのは、二酸化炭素の効果を大きく見せたいとの意図があったと思われる。地球からの輻射曲線のピークが、丁度二酸化炭素の吸収域に来るからである。  この図を見て、二酸化炭素の重要な役割を感じるが、定量的議論がなければ近年の地球気温の温度上昇の機構だという決定的証拠にはならない。
(補足:図(6)の原図は縦軸単位を適当にとっている筈であり、科学的には問題が無いと思われる。適当とは、”X軸と曲線に挟まれた部分の積分値が、その波長範囲で観測された放射エネルギーになる”と言う意味である。2015/6/8)

5)エネルギー収支の問題 
 ここまで、IPCCの主張する人工的に放出された二酸化炭素などによる、追加的な地球温暖化とそのメカニズムを、太陽光の入射スペクトル、大気の吸収による地上でのスペクトル、そして、人工衛星で観測した上向き及び下向き放射のスペクトルなどから、考察した。ただ、実際に二酸化炭素などが地球の温暖化に著しく影響しているかどうかは、定量的な議論がなくてはならない。そこで、以下にエネルギー収支の問題を既存の図などを用い考えてみる。


   上の図(図7)はhttp://ja.wikipedia.org/wiki/地球のエネルギー収支 から採った太陽から入射するエネルギーと地表から放射されるエネルギーの入射及び放射経緯である。黄色は可視光線を赤は赤外線を表わしている。本来この全てのプロセスを定量的に考察しなければ、温暖化ガスによる地球温暖化は説明できたとは言えない。大気による吸収は16%あるが、これは図3にある水による吸収が大部分だろう。また、雲による太陽光の反射が20%あるので、雲の生成と地表温度の関係も当然大きい。
 また、地球表面で吸収された太陽エネルギーの割合が、地表面の形状によっても大きくことなること、地表面から空気中へのエネルギー移動には水分の蒸発による潜熱としての移動と直接空気と地面との接触による顕熱としての移動があるが、両方とも風速に依存し、潜熱移動の場合は更に湿度(より正確には比湿と飽和比湿の差)にも依存する。これらのプロセスは、詳細に大気物理学として知られているが、その分野の専門家でも明確な答えは出せない位複雑である。(注6)
 
6)二酸化炭素など温室効果ガスの増加による地球温暖化説への反論:


 図(7)と重なるが、図(8)に示したのは、各プロセスにワット数を直接記したものである。大気と地表との放射の交換が直接書かれていて解り易い部分もあり、相補的に図7−8は用いると、現象に対する理解が進む。図(6)の上のスペクトルは、夫々大気による放射と大気の窓経由の放射の和であり、下のスペクトルは大気による放射である。図(4)の太陽からのエネルギースペクトルは、左の入射する太陽放射342Wと、一番内側のat the sea levelと図中に示されているのが、地表による吸収部分168Wである。
 以上の様に、地球の表面温度に影響するプロセスはたくさん考えられる。従って、人工的に排出された温暖化ガスによる地球温度上昇という幾分単純なモデルに対する反論は多い。その中で説得力があったのは:
(A)地球に届く宇宙線の量が、太陽の磁場が大きくなると減少する。それが大気圏の雲の発生量の減少を招き、それにより太陽エネルギーの反射量の減少が地球温暖化の進行の原因であるという説である(注7)。ただ、2003年のP. Lautらの論文(注8)により、これが否定されたと言われている。つまり、宇宙線量と低層雲の量に相関がないというのである。また、 アラスカ大学教授(地球物理)であった赤祖父俊一氏の講演によると、(B)地球温暖化は起こったとしても1度以下だろうとのことで、大した問題ではないとの話もあった。更に、地球温暖化などの問題は時間的余裕もあり、まだまだ学者の研究する領域であり、政治的問題ではないと指摘している。

7)原点に戻ってIPCC報告等に対する最も基本的な疑問点:
 もう一つ、根本的な問題が東北大名誉教授の近藤純正氏によりサジェストされている。
それは、(C)IPCCの気温のデータは確かかどうかというものである。近藤氏は明確には書かれていないが、読者にはそう伝わる:http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke04.html


 図(9)は、長野県の都市化が進んだ長野市と、都市化が進んでいない飯山市での約100年間の気温変化である。これは代表例で、他にも日本中の都道府県の都市化部と田舎部での気温データのペアが示されている。何れも都市部での温度上昇は、最近急に高くなっているが、田舎部では殆どコンスタントである。http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke04.html
 都市部では人のエネルギー消費が大きくなることのほかに、コンクリートとアスファルトで地表が覆われることが多くなり、図(8)にある潜熱によるエネルギー移動や建物が建つことによる顕熱としてのエネルギー移動の双方が小さくなる。従って、都市化の進行によって観測地点の温度が徐々に高くなるだろう。それがそのまま統計データに入っているのではないだろうか。もしもそうなら、赤祖父俊一氏の言うように二酸化炭素の大気圏での増加による温度上昇はさほど大きな値ではないことになる(注9)。
 つまり、IPCCは世界各地で比較的都市化が進んだ場所のデータを集めている可能性があるのではないかという疑問である。もしそうだとすると、この10年間、あまり気温に変化が無い理由も解ってくる。先進諸国は殆ど日本病とおなじであり、デフレに苦しみだした10年だから、都市化の拡張が抑えられる傾向にあったからである。

終わりに:
 私は、以前から二酸化炭素による地球温暖化説を疑っていた。
http://rcbyspinmanipulation.blogspot.jp/2014/01/blog-post_23.html そして、今回、IPCCの考え方を真面目に考えてみた。その結果、図(8)にあるような多くのプロセスで地球の温度が決定され、そのプロセス一つ一つに、大気圏物理学や地球物理学という分野で、気候を含め様々な問題を研究している方々の膨大な研究があることを知った。その中に首を少し突っ込んだだけで、二酸化炭素などによる地球温暖化の進行という問題には、簡単には結論がでないことが解った。理解が進んで、難しさが解ったのである。  一点だけ簡単なことだが最も大切な点が気になった。IPCCは、温度測定ポイント近傍の都市化による温度上昇分を、地球全体の温度を見積もる際に、差し引いているかどうかである。その点について明確にすべきであるとおもう。
(追記2015/6/9:よく知られている様に、火山の大噴火により地球の寒冷化が起こる。それは、放出された微粒子が、雲が発生する際の核として働くからである。太陽光を反射する雲の量が増加すると、温暖化効果の大きい水蒸気が減少するので、その効果も考えなければならない。また、工業化で大気中に増加するのは、二酸化炭素の他に微粒子も放出され、後者は寒冷化の原因に成り得る。地球温暖化説は、よく引用される温室効果で説明出来る程簡単ではなく、非常に多く問題が絡む複雑な問題である。)
注釈:
1)最近、東大の渡辺雅浩准教授により“近年の地球温暖化の停滞は海洋熱吸収の増大によるものか”と題する発表が昨年夏になされた。Watanabe, M., et.al., Geophysical Research Letters (2013, July18)  最近の集中豪雨などは将に海水温の上昇が原因であることを考えると、非常に重要な指摘のように思われる。
2)黒体とは、どのような周波数の光も完全吸収・放出する物体である。その物体が加熱された場合プランク分布の式に従って、あらゆる周波数の電磁波(光)が放射される。プランクの式から、最大輻射の波長がその黒体の温度に逆比例するというヴィーンの変位則や、輻射エネルギーが温度の4乗に比例すると言うシュテファン・ボルツマン則などが導かれる。
3)松見豊、名古屋大太陽地球環境研究所教授 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/attach/1333534.htm 参照。(文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会光資源委員会の報告書)
4)詳細は、J. Tennyson, et,al., Pure Appl. Chem., vol.86, pp71-83 (2014), and references therein.
5)周波数(ν=c/λ)或いは波数ν=1/λへの独立変数の変換は、(F(λ)dλ=F(ν)dν)から関数形を変換して計算する。
6)この当りの議論は、東北大学名誉教授の近藤純正氏のホームページに詳しくかかれている。http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke03.html アドレスのke03の数字を換えると違う章に飛べる。都会化による温度上昇なども論じられている。大気物理(Atmospheric physics)で検索すれば、専門家の著述がたくさんある。ただ、上記引用の図が繰り返しあらわれるのも印象的である。
7)例えば、http://www.youtube.com/watch?v=sRYXyqg770E 丸山茂徳東京工業大教授による二酸化炭素による地球温暖化説は誤りであるとの解説があった。(現在著作権の問題か何かでyoutubeで観られない)その根拠として、過去1940年から40年間CO2濃度が急激に増加しているが温暖化は全くなかったことや、地質学的データであるが、CO2濃度が現在の50倍であるにも拘らず赤道まで凍った時期があるなどの事実が紹介された。また、地球の気温を決めるメカニズムとして、1)地球表面の雲による被覆率が太陽光の反射率を決め、2)その雲の量を決めるのは、水蒸気凝縮の核となる宇宙線(宇宙から降り注ぐ放射線)の量であり、3)宇宙線量は太陽活動により変化する磁気が決めるという。 過去1000年間の太陽活動、宇宙線量、気温のデータから判るという。
8)”Solar activity and terrestrial climate: an analysis of some purported correlations”, Peter Laut, Journal of Atmospheric and Solar-Terrestrial Physics 65 (2003) 801–812
9)東京の平均気温が1度ほど低くなることになった。気象庁が観測地点を都心ではあるが公園(北の丸公園)にうつしたからである。http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG03H1E_T01C14A0CC1000/(注9は2014/11/30に追加)

以下は伊藤貫さんの2,017年に慶応大学で行った講演のデータを中心にして、米国の抱える矛盾とそれに翻弄される日本を含む国際社会について考察したものです。コメントや誤りの指摘など歓迎します。

 

1)米国の危機とトランプの利己主義:

 

米国社会にはいつ頃からかはわからないが、金儲け最優先主義が寄生している風に見える。その思想は今や全世界に拡散している。(補足1)それによる目に見える社会の症状は、第一に貧富の差の拡大であり、第二に社会の政治的混乱である。

 

先進国において貧富の差が一番大きいのは、当然米国自身であり、その結果米国社会は深刻な崩壊の危機を今後20年程の間に迎えるだろう。その主原因は、上記二つの症状だが、加えて特有の要因として、デモグラフィック(人口構成的)な要素がある。米国在住の伊藤貫氏はそのように語っている。https://www.youtube.com/watch?v=Y_oD0ZWfWz4&t=4225s

 

もう少し詳しく言うと、米国には貧富の差の拡大に加えて、人種構成に大きな変化が予想され、その両者には強い相関がある。2025年には、白人の人口よりも非白人の人口が多くなり、リタイヤした年金世代の比較的裕福な白人が、もともとそれほど裕福でなかった非白人の若者からの所得移転(年金)に頼るという構図である。

 

更に、米国は世界一の債務残高の国であるという特殊要因も存在する。そこで、トランプ大統領はその米国の危機を、世界各国に押し付ける政策を考えている。それが“America First”であり“Make America great again”の中身である。

 

つまり、その不可避に見える米国の衰退と分裂の危機を、トランプは本質的な解決で乗り越えるのではなく、コングリマット企業の不採算部門の切り捨てによる経営改善をモデルにして、乗り越えようと考えているようだ。その不採算部門とは、諸外国との安全保障関係であり、米国経済の足かせとなるパリ条約などの国際条約であり、紛争国家への介入などである。これら全てにおいて、米国に共同責任があることを完全に無視するという利己的態度を取っている。

 

上記のような切捨は、必然的に米国のユニポーラーな世界覇権を不可能にする。トランプの世界の二極化或いは多極化は、積極的理念に裏付けられているのではなく、後付の政策である。米国を世界のユニポーラーな覇権国から、地域覇権国に後退させると米国のドルは崩壊するだろう。世界の基軸通貨である現在の米ドルの地位など、トランプの念頭にはないように思う。それは、利下げをFRBに強く要求したことでもわかる。

 

ドル基軸体制の崩壊と米ドルの紙くず化は、世界経済に大混乱を持ち込む。それをできるだけ連続的な長期プロセスで成し遂げるには、際限なきドル安への誘導ではないだろうか。その途中で、国債の紙くず化が起こる可能性があるので、米国は他国が持つ米国債を高利率の永久国債に切り替える強い要請をする可能性があると思う。

 

世界覇権と米ドルを基軸通貨とする体制は不可分だからである。なお、ニクソンショックのとき、米ドルが世界の基軸通貨としての地位を守れたのは、サウジアラビアの国防保障とともに、原油取引を米ドルに限るという約束があったからだと言われている。(補足2)

 

諸外国にとってこの問題が厄介なのは、FRBの崩壊の部分を除けば、おそらく米国の大半が合意することだと言う事である。そこまで強引にトランプが利己的にやってくれるなら、それは都合良い。悪いのは米国じゃない。宇宙人のトランプが悪いのだと世界から一定の納得が得られれば、なお良い。紳士的な米国はその後登場すればよいのだと。

 

2)米国の病気

 

伊藤貫氏の講演によると、1960年の白人人口は全人口の85%であった。それが、2017年には、60%に減少して居る。そして、出生率の差などから2025年頃には50%以下になるという。また別の資料によると、2015年の白人、ヒスパニック、そして黒人の年間給与の中央値は、其々63000$、41000$、37000$だそうである。この所得格差はこの20年間広がって来て居る。https://zuuonline.com/archives/121819

 

この低所得層の有色人種が主になって、定年退職した白人の年金のために多額の出費をするようになったとき、そして、黒人などが受けていた積極的優遇策(逆差別策、Affirmative action)の廃止されたとき、上記人種間の分断は加速されるだろうと、伊藤氏は話している。

 

この貧富の差だが、20世紀後半からのグローバリズムの影響で大きく広がった。MITの研究者の論文によると、1947〜1973年の間、労働生産性が97%上昇し、労働者給与も95%上昇した。 しかし、1973年〜2013年には、労働生産性が80%上昇したにも関わらず、労働者給与は4%しか増加しなかった。(補足3)

 

別の角度から見ると、米国を代表する企業500社(S&P500)の場合、1980年代では上げた利益の50%が株主還元に、45%が設備投資や賃金上昇に用いられたが、2000年になると利益の90%が株主還元に向かうようになった。

 

伊藤氏によると、これらの数値はMITの研究者による論文からの引用である。この論文と思われる論文のアブストラクトには、「戦後初期(米国の黄金期)には、諸制度は富の広範囲への分配をデトロイト協約(累進税、高い最低賃金など)により重視したが、1980年以降にはその諸制度がワシントン・コンセンサスとして逆転した」と書かれている。ワシントン・コンセンサスとは、現在の米国主導のグローバル化経済の諸政策である。(補足4)

 

伊藤氏の講演は、米国に於けるこの富の分配における不公平に関して、そのメカニズムの出来た経緯についても解説している。それは、ニューヨークのウオール街の金融業者による企業経営の支配が進んだこと、そして、金の力で国政への影響力を強め、税制変更を実現した結果である。最終的に、株主としての金融業者(ヘッジファンド、投資銀行、private equity fundなど)が、企業があげた利益のほとんどを彼らのキャピタルゲインとして吸収するシステムが出来上がった。

 

その一例として、資本による収益(キャピタル・ゲイン)に対する税率の変化が紹介されている。ニクソン&カーター時代には35%だった税率が、パパブッシュの時代には31%、クリントンの時代に20%、息子ブッシュの時代に15%になったが、オバマの時代に20%に戻った。このクリントン時代に大幅に税率を下げた主役が、財務長官だったロバート・ルービンやローレンス・サマーズだという。両者とも金融業と関係が深い。(補足5)

 

更に、様々な税の抜け穴を利用して、ヘッジファンドなどが実際におさめている税金は、伊藤氏によると、せいぜいキャピタルゲインの10%程度だという。そのことと関連して、米国の税制に関する法律は75000頁という膨大な文章であり、他の先進国の10倍ほどにもなっているということなどが紹介されている。

 

2007〜2008に経済学者のサイモン・ジョンソン(Simon Johnson)は、「IMFを経験して(chief economist、2007年3月〜2008年8月)分かったことは、米国もロシアと同様に寡頭政治(Oligarchy)だということだ」と言ったという。それは、ウオール街の金融業者が、巨大な金融資産で、政治をコントロールしているという意味である。米国の政治は世界の政治である。その結果が、現在のグローバル化政治経済であり、最初のセクションで書いた米国と世界の病状である。

 

3)政治資金の問題

 

1970年代には、議員経験者の2-3%だけがロビーストになったが、現在では下院議員を辞めた人の5割、上院議員を辞めた人の9割がロビーストになる。その理由は、米国の両議院の議員年収が22万ドル程度と低く、トップ1%の年収の5分の1程度しかない。ロビーストになれば、多額の政治資金を議会に流す仲介をすることで、桁違いの年収を得る事ができるからである。

 

ワシントンのロビーストを通じて議会に流れる金は、毎年40億ドル程であり、例えば重要な委員会の委員長を経験したロビーストは、年収200-300万ドルが期待できる。従って、自分たちが議員のとき、その職につくことを考えている人(つまり現在では議員の大半)は、ロビー事務所に逆らうことはやらないで、彼らの意向を汲むようになる。

 

そのような情況を、元AFL CIO(American Federation of Labor and Congress of Industrial Organizations)のプレジデントだったRichard Trumka が、テレビ局によるインタビューにおいて、「民主党も共和党も関係ない。年収トップ0.1%の連中が、我々の選挙を買い取っている。」と言ったという。

 

伊藤貫さんの講演は、ヒラリー・クリントンが大統領選に負けた理由として、「元国務省の方が聴衆の中に居られるので気を悪くされるかもしれないが」と前置きして(追補1)、多額の政治資金を米国内外から集めたヒラリーの金集めと、国務長官時代に国務省のメイルシステムを一度も使わず、自宅のサーバー経由で電子メイルをやり取りしていたことなどに言及している。

 

この中で驚くべきことを言っている。ヒラリー・クリントンは、21世紀の初頭にクリントン基金という慈善基金を創設した。国務長官(2009〜2013)になった途端に、そこへの献金が急上昇した。そのクリントン基金に500万ドル以上献金のケースの半分以上は、外国政府または外国企業からであった。しかもマスコミ報道によると(2016年)、それまでに集めた24~25億ドルのうち、本来の慈善行為に使われたのは6%だけだった。その具体例は、ロシアに盗まれたポデスタ(John Podesta選挙運動責任者)の電子メイルから明らかになった。(補足6)

 

4)米国の政治資金規制

 

米国の政治資金規正法では、毎年一人あたり寄付できる上限は2700ドルである。一方、全国規模の政治団体への個人献金は年間1人5000ドルに制限されていた。しかし、2010年の裁判で、支持する候補者や政党と直接協力関係にない政治活動であれば、表現の自由の観点から、献金額に限度を設けてはならないとの判断がなされた。

 

Wikipediaは以下のように記述している。

 

このような候補者から独立した政治団体は、企業献金個人献金を大量に集め影響力が大きくなるにつれ、特別政治活動委員会(スーパーPAC)と呼ばれるようになった。スーパーPACは無制限に資金を集めることが許されており、テレビのCMなどを利用して様々なキャンペーンを行なっている。特徴的なのは、支持候補に対する支援ではなく対立候補へのネガティブ・キャンペーンが多い。スーパーPACへの献金者は公表が義務付けられているが、多くの団体は法的な技術を用いて選挙後まで公表を引き延ばしている。

 

その結果、政治資金の流れがおかしくなり、ニューヨーク・タイムズの報道によれば、2016年に民主党と共和党に流れた政治資金の少なくとも半分は、アメリカの130家族から来ているという。更に、別の報道によると、2016年政治資金の40%は米国の50人から来ているという。皮肉を込めて言えば、これぞ正にアメリカン・デモクラシーである。

 

また、去年ニューヨーク大学の法科大学院の2016年の調査報告では、2006年のローカル選挙での選挙資金として使われた金の25%は誰が出した資金か不明であった。つまり、ニューヨークの金融業者がチャリティやソーシャルウエルフェアファンドなどに寄付をし、大部分がそこからスーパーPACへ流れることがわかった。

 

このような政治資金の情況と関連しているかもしれない政治的判断の例を挙げる。

オバマ政権になって、2007年-2008年にジャンク抵当証券にトリプルAの格付けをしたことなどが、リーマンショックという金融危機を招いたが、オバマ政権は誰も上記犯罪的行為を裁かなかった。当時FRB議長だったバーナンキさえも、USA Todayのインタビューで、誰も告発されなかったのは遺憾であると発言している。

 

その件で金融機関には多額の支援金(約70兆円)を出しながら、900数十万の家を失った家庭には20兆円も支援をしなかった。民主党がこのように労働者階級に冷たいのと、最近25年間の金融機関からの政治献金が共和党よりも民主党へ流れていたこと(ヘッジファンドの政治資金の約7割が民主党に向かっていたこと)とは相関がありそうである。つまり、民主党は労働者の味方であったのは、もはや過去の話となったのである。

 

5)米国の病気の世界への伝染:

 

米国は、世界覇権を金融と軍事の両面から握っているので、国際的なルールも国際機関の決定という形で、一定の時間を要するが、米国(つまりウオール街)の考える通りに定着する。

 

各国の一流企業の経営も、株主である金融業者の意向に沿って進められる。株主の意向の実現のために、株主は経営者には当然非常に高い給与を得る様に勧める。その一方で、利益の多くは株主配当に向けられ、そのかなりの部分は、ニューヨークに送られる。最近その比率は低下しつつあるが、日本の大企業の株主のおよそ30%は外国人(法人を含む)の所有であり、2018には3年ぶりに30%を切った。日本人は、その意味するところ(最近低下していることについても)を、深刻に考えるべきである。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46583930W9A620C1MM0000/

 https://www.stockboard.jp/flash/sel/?sel=sel533

 

米国発祥のグローバル化の結果、先進国の製造業は人件費の安い国に移動し、そこから諸外国に売ることで多くの利益を得る様になった。その際、自国の労働者のことや購買力低下のことなどを考えない。全世界の購買力が上がれば、それで良いからである。周知のことだが、それが資本移動の自由化(規制緩和)の効果である。

 

それが長期的に見て、その企業のプラスになるとは限らない場合でも、その企業に投資する金融業者は構わない。何故なら、その企業が落ち目になる場合、頃合いを見計らって株を売払い、投資対象を替えるだけで良いからである。また、その国の政治がいびつになっても、構わない。何故なら、その場合は国を移れば良いからである。それがディアスポラの民の考えることである。因みに二大ディアスポラは、ユダヤ人と華僑である。

 

米国を代表する投資家の一人であるジム・ロジャーズは語っている。「1807年にロンドンに移住するのは素晴らしいことだった。1907年にニューヨークに移住するのは素晴らしいことだった。そして、2007年にはアジアに移住することが次のすばらしい戦略となるだろう。」彼は、家族とともに2007年、ニューヨークからシンガポールに移住した。

 

 

補足:

 

1)米国のニューヨーク金融界の一派が、近代社会の知恵である法規制を、大衆の洗脳工作により「自由を束縛する悪」として取り除き、金儲け最優先主義を正当化した。そして、その富は力であり、力は正義であるという中世への逆戻りなのか、ポストモダン的な価値の分散なのか分からない社会にして、自分たち民族的マイノリティーのビリオネアたちが、マイノリティーの権利拡大の思想で自身の経済活動を正当化するとともに、政治そのものの支配を企んだ。

 

2)各国へのドル札の分配は、輸出品に対して支払う形で分配される。米国は世界中から自国通貨で買い物(輸入)ができるので、制限をあまり感じないで買い物を続けた。各国に余った米ドルは、米国債と引き換えに米国により回収された。一度着いた浪費癖が簡単には無くならないので、米国は多額の借金をすることになった。その米国債などで世界一の債務国となったが、その合計は20兆ドルを超える。

 

3)2000年代初頭の株主還元の内訳は、40%が配当に60%が自社株買いなどの使われたという。なお、最近起業されたアップル、アマゾン、グーグル、マイクロソフトなどはNASDAQ上場銘柄であり、S&P500には含まれない。

 

4)上記MITの研究者の論文だが、聞き取りにくい名前なのだが、グーグル検索するとそれらしい著者と論文が出てくる。それは:“Inequality and Institutions in 20th Century America”と題する論文である。著者は、Frank S. Levy & Peter Temin という人たちである。この論文は2007年に書かれて居るので、伊藤氏は2003年というべきところを2013年と言ったのかもしれない。https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=984330

 

論文の要約の中の一部を以下に抜粋し、伊藤氏が引用した論文かどうかの判断材料として提供する。本文に内容は書いているので、訳は省略する。

The early post war years were dominated by unions, a negotiating framework set in the Treaty of Detroit, progressive taxes, and a high minimum wage – all parts of a general government effort to broadly distribute the gains from growth. More recent years have been characterized by reversals in all these dimensions in an institutional pattern known as the Washington Consensus.

 

5)ルービンは元ゴールドマン・サックスの共同会長、サマーズはハーバードの学長の時にヘッジファンドから年に26ミリオン$の顧問料をもらっていたという。つまり、両者とも金融業者であった。

 

6)この件が明らかになったことの経緯を、伊藤氏はかなり詳しく述べている。そして、2016年の大統領選挙でヒラリーが負けたのは、この件で民主党のサンダースを支持した人たちが米国の政治或いは民主党に嫌気が差して投票に行かなかった体と思うと述べている。

 

追補1:この言葉は、深く考えると、元国務省の人と出席者および将来のyoutube視聴者に「国務省の方の存在を認識しています」と知らせているとも考えられる。この追補を書く動機は、伊藤さんが故中川昭一さんと「お互い殺されないように気をつけよう」と話したと何かで明かしていたからである。

(編集:2019/11/15早朝)