今村翔吾「湖上の空」第26回 | パリッシュ+エッセイ「今村翔吾 湖上の空」

パリッシュ+エッセイ「今村翔吾 湖上の空」

滋賀の情報誌パリッシュ+に連載中の歴史小説家今村翔吾さんの日常にあった出来事や歴史のお話などを綴ったエッセイ

 滋賀に纏わる小説、登場人物を描くことが多い。別に滋賀に住んでいるからというつもりはないのだが、その気にさせられる何かがあるのかもしれない。

 

前回も述べたが近著である『塞王の楯(さいおうのたて)』は、舞台の9割が滋賀県。登場人物の中には大津城主の「京極高次(きょうごくたかつぐ)」が出てくる。妻の「お初(おはつ)」もまた近江出身だ。

 

 『八本目の槍(はちほんめのやり)』の主人公は「石田三成」である。他に近江出身者として「片桐且元(かたぎりかつもと)」「脇坂安治(わきさかやすはる)」などが出る。

 

そしてつい最近、週刊新潮で連載が始まった『五葉(ごよう)のまつり』の主人公もまた石田三成。ほかに「長束正家(なつかまさいえ)」や「大谷吉継(おおたによしつぐ)」などの近江出身者(諸説あり)が出る。

 

 まず単純に戦国期、織豊期(しょくほうき)において、近江出身者の活躍が多いことも理由だろう。
 だか私は何故か近江の大名として有名な「浅井長政(あざいながまさ)」はほとんど書いたことがない。

 

前述の『八本目の槍』や、2022春刊行予定の『幸村を討て』で、ほんの端役として出るくらいである。
別に浅井長政が嫌いな訳ではない。

 

今ひとつ彼の行動原理、思考が理解出来ないのだ。厳密にいえば、他の武将のことが解っている訳ではない。ただ何となくこうではないかという仮説は立てられる。

 

これすら彼の武将には未だに出来ないでいる。何故、信長を裏切ったのか。裏切ったならその機を逃さずに討ち果たすべきなのに、どこか迷いのようなものが感じられるのだ。

 

かなり複雑な精神状態にあったように思われ、なかなか輪郭がはっきりしない。よく浅井長政を書いてくれと言われるが、そのためにはもう少し私自身が成長し、彼の思考を推測出来るようになる必要があるだろう。