今村翔吾「湖上の空」第25回 | パリッシュ+エッセイ「今村翔吾 湖上の空」

パリッシュ+エッセイ「今村翔吾 湖上の空」

滋賀の情報誌パリッシュ+に連載中の歴史小説家今村翔吾さんの日常にあった出来事や歴史のお話などを綴ったエッセイ

 十月二十六日、拙著『塞王の楯』が集英社より発売される。戦国時代、石垣造りを生業とした「穴太衆」の飛田匡介が主人公である。匡介は越前の出身。幼い頃に落城で家族を失ったことで、自分の積む石垣で人々を、泰平を守ることを誓う。決して落ちない城、「最強の楯」が世に溢れれば、戦を起こそうとする者はいなくなるという考えである。

 

だが鉄砲作りを生業とする「国友衆」の若き天才、国友彦九郎は全く反対の考えを持っている。どんな城でも瞬く間に落とす武器、「至高の矛」が世に満ちさせようとするのだ。一度の戦で多くの人々の命を奪う武器を使えば、次は敵にそれを使われて報復を受けてしまう。だから使うのを躊躇うといった訳だ。

 

 さて、ここまで半ば宣伝をさせて貰ったが、この小説は滋賀県にもかなり関係がある。上記の穴太衆は現在の大津市穴太、国友衆は長浜市国友が育んだ職人集団なのだ。この穴太衆と、国友衆の激突は幾度かあったが、その最たるものが「大津城の戦い」だと私は考える。滋賀が生んだ矛盾の技能集団が激突したのも、また滋賀であったのには因縁を感じる。

 

他にもこの本には、草津、近江八幡、蒲生、甲賀、塩津などの滋賀県の地名が続々と出て来る。こうして滋賀県に住んだからこそ、着想を得られたのは間違いない。滋賀の方々には是非、読んで頂けたならば幸いである。