今村翔吾「湖上の空」第25回 | パリッシュ+エッセイ「今村翔吾 湖上の空」

パリッシュ+エッセイ「今村翔吾 湖上の空」

滋賀の情報誌パリッシュ+に連載中の歴史小説家今村翔吾さんの日常にあった出来事や歴史のお話などを綴ったエッセイ

 この度、澤田瞳子先生が165回直木賞を見事ご受賞された。それを記念してといえば些か大袈裟だが、澤田先生について少し語りたいと思う。

 

 澤田瞳子作品は面白いが、澤田瞳子という人も面白い。まだ出逢って二年ほどなのだが、確実に最も会った回数の多い作家である。対談イベントなどでもご一緒する機会が多く、コロナ前はプライベートでもよくして頂いた。現在も京都新聞で毎月対談を行っている。

 

 一番初めに長くお話したのは二年前の夏だったはず。上田秀人先生が開いて下さった飲み会があり、私は下戸なので車で伺っていた。その終わり、帰る方面が一緒なので澤田先生をお送りすることになった。

 

 私の愛車は二人乗りのオープンカー。そこに澤田先生と二人。なかなかシュールな絵かもしれない。万が一の事故があってはならぬと、かなりの安全運転でとろとろ走ったのを覚えている。でもそれ以上に、澤田先生との話が楽しく、この時が惜しいと思ったこともある。そこで澤田瞳子という作家の魂にほんの少し触れ、スタイルを知り、すっかり好きになったのである。

 

 ちなみに澤田先生のご受賞に際して、何か贈り物をしたいと思った。うちの秘書は澤田先生に「○○ちゃん」と言われて目にかけてもらっている。その秘書が「澤田先生はチーズが好き」という情報を持っていた。

 

 よし。一生一度のことだし豪気にいこう。そう考え、イタリアから36キロのホールチーズを取り寄せ、ご自宅まで運んだのである。台車を押す中、燦々と照りつける太陽。澤田瞳子の喜んでくれつつも半ば呆れている表情を、私はきっと生涯忘れないだろう。

 

【profile】

今村翔吾/いまむらしょうご ■『八本目の槍』(新潮社)・第8回 野村胡堂文学賞 受賞・第41回吉川英治文学新人賞 受賞 ■『童の神』(角川春樹事務所)・第160回 直木三十五賞候補 ■『じんかん』(講談社)・第163回 直木三十五賞候補 ・第11回 山田風太郎賞 受賞 ■『童の神』コミック化!!「月刊アクション」(5/25発売)よりスタート ■『カンギバンカ』「週刊少年マガジン」50号から新連載開始!(直木賞候補にも選ばれた超本格歴史小説『じんかん』(著/今村翔吾)を原作が、その名を変えて新たな物語として描かれる!) ■フジテレビ系「とくダネ!」コメンテーター ■TBSテレビ系「Nスタ」コメンテーター