今村翔吾「湖上の空」第24回 | パリッシュ+エッセイ「今村翔吾 湖上の空」

パリッシュ+エッセイ「今村翔吾 湖上の空」

滋賀の情報誌パリッシュ+に連載中の歴史小説家今村翔吾さんの日常にあった出来事や歴史のお話などを綴ったエッセイ

 先日、原稿用紙920枚以上の大長編を脱稿した。滋賀の大津、長浜などを部隊とした『塞王の楯(さいおうのたて)』という作品である。集英社の「小説すばる」で2年に亘って連載したのだが、この10月には遂に書籍となるので、その時は是非……と、それはさておき、今回はその連載のラストについての話である。担当編集と丁々発止のやり取りがあり、幾度となくラストのあたりを書き直した。〆切まで残された時間は僅かとなり、何と二徹で66時間起きっぱなしという事態に陥った。

 

 6月で私ももう37歳となった。歴史作家としてはかなり若いとはいえ、これには正直なところかなり堪えた。ラストの8時間は東京に行き、その間も新幹線で原稿を書き、テレビの生放送にコメンテーターとして出演するという荒技である。峠を通り越してむしろテンションは高かったが、番組の後半で可愛らしい動物が紹介されるコーナーでは、「ん?俺は今なにをしている?」と、一瞬だが訳が分からなくなっていたかもしれない。

 

 幸い仕事は充実している。前職を辞した時、「二度と誰かに求められることはないかもしれない」と考えたこともあったから、今の状況は素直に幸せだと思う。先には「もう37歳」と書いたが、「まだ37歳」。無理は出来ないが、求められる限り、もう少し頑張っていきたいと思う。だが今回みたいなことは懲り懲りなのは間違いない。

 

【profile】

今村翔吾/いまむらしょうご ■『八本目の槍』(新潮社)・第8回 野村胡堂文学賞 受賞・第41回吉川英治文学新人賞 受賞 ■『童の神』(角川春樹事務所)・第160回 直木三十五賞候補 ■『じんかん』(講談社)・第163回 直木三十五賞候補 ・第11回 山田風太郎賞 受賞 ■『童の神』コミック化!!「月刊アクション」(5/25発売)よりスタート ■『カンギバンカ』「週刊少年マガジン」50号から新連載開始!(直木賞候補にも選ばれた超本格歴史小説『じんかん』(著/今村翔吾)を原作が、その名を変えて新たな物語として描かれる!) ■フジテレビ系「とくダネ!」コメンテーター ■TBSテレビ系「Nスタ」コメンテーター