今村翔吾「湖上の空」第12回 | パリッシュ+エッセイ「今村翔吾 湖上の空」

パリッシュ+エッセイ「今村翔吾 湖上の空」

滋賀の情報誌パリッシュ+に連載中の歴史小説家今村翔吾さんの日常にあった出来事や歴史のお話などを綴ったエッセイ

 図書館に否定的な作家は多い。一冊数万円もする辞書や、資料ならばともかく、小説などは買って欲しいというところだろう。ましてや千円以下の文庫なら……と思うのは理解出来なくもない。しかもそれが発売間もなくに図書館の棚に並ぶのだから、悲鳴を上げる作家も多いことだろう。だが作家にとっても悪いことばかりではなく、まだデビューして間もない初版の少ない作家だと、全国の図書館が購入する分の比率が多くなるため、却って助かるといった意見も聞こえてくる。

 

 では私はどうかというと、どちらかといえば肯定派である。つらつらと述べてきたのは、あくまで作家側からの意見であって、本に小遣いを多く避けない読者さんからすれば、無料で貸し出し出来る図書館は魅力的だろう。お試しで読んで貰い、そこから好きになってその作家の本を買うというケースもあるのだから、私としては目くじらを立てる作家に会えば「まあ、ええやん」と言ってしまう。

 

 ただ読者の私としては、よほど手に入らない資料などを除いては購入する。これは作家になった今に始まった時ではなく、小学校の頃からずっとそうだ。「でも本には当たり外れもあるから……」という意見もある。完全に同意する。別に作品の質に関わらず、合う合わないもあるから、やはり「外れ」と思う作家、作品を買ってしまうこともある。ただ私はそれも含めて楽しんでいる。何度も外れを経験していると、売られている本の佇まいから「あ、これは俺に合わなさそう」などと解って来るようにもなるのだ。

 

 本はよく人そのものにたとえられる。その中に一つの人生が込められているのだから、決して遠くはない表現だと思う。
 生きていれば決して気の合う人とばかり出逢うばかりではない。奇妙な縁で一生の友人と出逢うこともあるし、一目惚れのように直感で出会うこともある。飛躍しすぎだという意見も聞こえてくるかもしれないが、本との出逢う訓練は、人との出逢いを見定める能力にも多少なりとも影響しているような気がするのだ。
 図書館を利用して何気なく出逢った本から、ずっと好きになる作家が見つかることもあるのだからやはり否定は出来ないだろう。

 

 ただ一つだけ。とある図書館で私の本が「110人待ち」とかになっているとか。一週間でサイクルしたとしても二年以上掛かる。二年あれば私は15冊くらい書くのですが……と思ってしまうし、さらに絶対予約した人も忘れてるやろ!と思うのですが(笑)

 

【profile】

今村翔吾(いまむらしょうご)1984年京都府生まれ。大津市在住。ダンスインストラクター、作曲家、埋蔵文化財調査員を経て、作家に。「狐の城」で第23回九州さが大衆文学賞大賞・笹沢左保賞を受賞。デビュー作『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』(祥伝社文庫)で2018年、第7回歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞を受賞。同年、「童神」で第10回角川春樹小説賞を受賞(のち『童の神』に改題の上、書籍化)。19年『八本目の槍』(新潮社)で「週刊朝日」歴史・時代小説ベスト10の第一位に選ばれた。また、同作は20年、第41回吉川英治文学新人賞を受賞した。