10月になり、ようやくアパート全体の暖房が入り始めた。これは中央暖房システムという、建物全体に中央れた配管をお湯が循環し、さらにその配管から家庭内のラジエーターに給湯される仕組み。
しかし、私の部屋のラジエーターが冷たいままである。部屋に張り巡らされた配管はあったかいのに、明らかにラジエーターまで届いていない。
これはおかしい。
スイッチが稼働していない様子だ。
そこでまたネットで調べてみたら、嘘か誠か、こんなことを説明する動画が出てきた。
『夏の間スイッチはオフになったままでボタンとなる突起部分が固まっているので、それを引っ張って動くようにします。周辺の配管もトンカチで叩くようにすると、お湯が巡り始めます』
こんな風になんでも説明してくれる人が出てくるなんてなんて便利な世の中だ、と思いつつ、こんなんで本当に直るのかと疑いが拭えない。
スイッチ部分の蓋を開けてみると、確かに、ボタンとなる部分の突起は埋まったまま動いていない様子。直しようにも工具が無いので、『家庭の友』に駆け込んだが、なんでも売ってるはずのここに、ミニ工具セット みたいなものは置いてなくて、バラのみだった。
おとなしくいつも通り家庭の友に戻ろうと思った矢先、ついでに立ち寄った13区のIKEAで、まさに理想の工具セットが安く売っていた。100均の無いパリでは、私はいつも何か欲しいものがあると家庭の友かIKEAに救われている。
ついでに、ついにフライパン購入。
鍋一個生活も楽しかったが。
ジャージで結局中心部まで出没して市内ぐるっと回ってしまった。
にしても13区はいいわ。落ち着く。
そこで工具を手に家に帰り、騙されたと思って動画の通りにトントンとスイッチレバー付近の配管を叩いてみた。するとその数秒後には、ラジエーターがほんのりあったかくなってることに気付いた。
え? ただ叩いただけなんですけど。まだスイッチボタンは閉まったままですけども。
寝てたの?魅惑のチキルーム?ホセ?
これはいける予感がする。
スイッチの周りの白いキャップも割れないか心配だったけど、角度やら変えたらあっさり取れた。
その直後にラジエーターはぐんぐんあったかくなっていった。お湯が回ったのだ。
嘘みたい。ギャグ? なんなの このツンデレな国。
そして自分で解決するとか自分で直すってめちゃくちゃ嬉しいんですけど。
私にはこのアパートがフランス社会そのものに思えた。
見た目はかわいい、おしゃれポイントも多い。古くって、味があって、そして壊れてたり、日本のように早くうまくはいかなかったりする。クセもある。でも諦めなければなんだかんだと最後は必ずうまくいき、そして散々そのツンデレに振り回されてるわりには最終的に何倍も嬉しい出来事となって返ってくる。
その頃にはだいぶ経験値が増えて愛着が湧いている。
フランス人は、みんななんでも自分で直すし、男女関係なく日曜大工をめちゃくちゃするので、そういうお店は充実している。ペンキやドアノブの種類もたくさんあって、見てるだけで楽しい。
多少の不具合はお手のもの。新しいものを作る方が簡単かもしれないけれど、古いものを大事に直しながら使う社会が私は好きだ。
ビザ、仕事、学校 一見悩みは尽きないが、やっぱりそれを楽しんじゃっている自分がいる。
いろいろあったけどここまでは難なく切り抜けている。だからこれからも大丈夫な気がする。
ダメならダメ 悩むだけ無駄 それまでさ。