挫折からの出発(2)※動画もあるよ♪ | ベーグルショップの中の人

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 その翌日、思わぬアクシデントが発生した。

その日、キャンプする予定になっていたロッキー山脈周辺の気温が低すぎるために、
滞在不可能になってしまったのだ。
滞在予定地をパスして次の目的地に向かえば良いだけの事だったから、
他のメンバーにとっては大した問題ではなかった。
実際に、その通りにスケジュールは変更された。
アーチーズ国立公園のあるMoabに1日早く向かう事になった。

そして、移動の車の中でこの“浮いた1日”をどこで過ごすかという会議が始まった。

2012年9月オープンを目指すカフェオーナーのブログ Polder Cafe

「ハイライトである、グランドキャニオンにもう1泊したい。」
「ラスベガスは1日では足りないからこちらで2泊したい。」
「いや、ラスベガスからヨセミテまでの移動距離が1000kmもあるから、
2日に分けて移動したらどうか」

などなどの意見が出た。


僕は、何も言わずに、黙ってその会議の行方を伺っていた。
もし、ラスベガス滞在予定日が変更になってしまったら、全ての計画が水の泡となってしまう。
だけど、そんなプライベートな事情など、この時点では話せる状況じゃなかった。

僕の心臓はバクバクと大きく鼓動し、額からは大粒の汗が流れ落ちていた。

 そして、みんなが下した結論は、ツアーリーダーの負担を考慮して、ラスベガスからヨセミテまでの途中で1泊しようというものだった。
結果、ラスベガスの滞在予定日は当初の予定から1日早められてしまったのだ。


 絶望的だった。今からでは、教会の予約を変更出来るわけもなかった。
僕の壮大な計画はここで消えて無くなりそうになっていた。
そもそも団体行動である旅の途中で、勝手に結婚式などやろうとするからいけなかったんだ。
そう、自分を責めたりもした。


 しかし次の瞬間、英語があまり話せない僕の口からは無意識に英語が発せられていた。


「みんな、ゴメン! 聞いてくれ!!!」
「実は、ラスベガスに滞在する予定だった10月5日に、
僕達2人は結婚式を挙げる事になっているんだ。」
「どうしてもその日はラスベガスにいなきゃならないんだ。
だから、ヨセミテに移動してしまっては困るんだ。」

仲間から軽蔑されるのは覚悟の上だった。決定が覆らない事も。
しかし、メンバーのひとり、ジェニーから発せられたのは、

「そんな素敵な計画があったなら、何で話してくれなかったの?」
「2人と一緒に旅が出来るなんて、私はなんて幸せなんでしょう!」
「結婚式には、私達も参列してもいいの?」

そんな予想外な言葉だった。
そして、それをきっかけにして他のメンバーも、

「そうだよ! そんな素敵な事、なんで言わなかったんだよ!」
「みんな大歓迎さ! 良く言ってくれたね!!」
「じゃ、10月5日はラスベガス滞在で決定だな!!!」

そう言って、大騒ぎになった。

そして、旅の途中で妻が誕生日を迎える事、その時にサプライズとして結婚式の事を妻に発表すると話すと、更に盛り上がり、クルマの中は、しばらくお祭騒ぎのようになった。

 英語がわからない妻は、隣でキョトンとして何が起こっているのか全くわからない様子だった。
不思議そうな顔をして僕に何が起こったのか聞いてきたので、僕はただ、

「ラスベガスで2泊する事になったから、みんな喜んでるみたいだよ」

とごまかした。みんなに説明するのに、「ウェディング」とか、「サプライズ」とか「バースデー」などという単語も使ったので、英語がわからない妻にもさすがにバレてしまったのではないかと心配したが、まったく気付いていない妻の様子を見て、僕はホッと胸を撫で下ろした。

 こうして、最大の危機を乗り越えただけでなく、日本で計画してきた以上の大きなプロジェクトへと発展していくのだった。

 MOABに到着すると、みんな観光もろくにせずに、誕生日に向けての準備が始まった。
リーダーのポールからの提案でカウボーイスタイルでやる事になったので、腰に巻く銃やカウボーイハットをそれぞれ購入した。そして、飾り付けやケーキ、シャンパンの準備まで。

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 こうして、みんなの協力で誕生日にもサプライズをする事になった。
気付けば僕一人の計画が、メンバー全員の計画に膨らんでいた。

 翌日、モニュメントバレーに到着。

ナバホインディアンの聖地であるこの場所で誕生日を迎える事になったのも、“あの”アクシデントゆえ。個人的には、10年前の旅のハイライトだったこの地が、妻の誕生日に選ばれた“運命”に、静かに心躍らせていた。

 馬に乗ってメキシカンハットを見学しに行っている間に、テント周辺は派手に装飾されて見事なパーティー会場になっていた。
それを見た2人は照れながらみんなの輪の中に入っていくと、どこかから他のツアー客も呼んできてくれたようで、約40人もの大所帯になっていた。



 満天の星空の下でバースデーソングを大合唱すると、その中心には、星空の美しさに負けないくらい笑顔な妻の姿があった。バースデーケーキのローソクが「フッ」と吹き消されると、いよいよサプライズ結婚式を発表する時が来た。

僕は、結婚式の日付が描かれた手作りのTシャツをプレゼントした。
嬉しそうにそれを受け取っても、まだ気付かない鈍感な妻。

しびれを切らして、「何が起こってるかわかってる?」「すごいよ!すごいよ!」と興奮るすメンバー達。
興奮はピークを迎えて大騒ぎする40人。

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その中で、もう一度冷静に“日本語”で説明しても、「え? え?! どういうこと?!」と、まだ理解できない妻。
その様子が、可笑しくてたまらなかった。
人間は、想像もつかない事に遭遇するときっとこうなってしまうのだろう。
そんな時、誰かが「あっ! 流れ星―っ!!!」と叫んだ。

一斉に全員が空を見上げた。
すると、見たこともないような強い光を放った流れ星が長い尾を引いて北から南に向かって流れていった。
目で追ってもいつまでも消えない流れ星。
ついにはみんなでその流れ星を追いかけるように走り出した。
正確に数えてはいないが、数十秒は流れていたと思う。
満天の星空までもが、僕達をサプライズで祝福してくれているように思えた。

 翌日、グランドキャニオンに向けて出発。旅も後半に差し掛かってきた。
グランドキャニオンで谷底トレッキングをしたら、あっという間にラスベガスだ。
谷底では雄大な景色に身を任せ、ちっぽけな自分がやろうとしている壮大な計画を、どこまでも続く広い空のキャンバスいっぱいに描いていた。

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