戦前から戦中、そして戦後にわたって
阪神間を拠点として活躍した二人の画家
小磯良平と吉原治良。
※取材で伺い特別の許可を得て撮影しています。
↑田中千代学園芦屋校アトリエ開き
寄せ書きに描く吉原治良とそれを見る小磯良平
育ちも、画家になった経緯も、作風も、対照的な二人の創作活動の軌跡を、時代ごとに並べることで、逆に見えてくる共通点を考察する、そんな展覧会です。
特別展「小磯良平と吉原治良」展。
兵庫県立美術館で開催中です。
それぞれの自画像です。左が小磯良平、右が吉原治良です。
正統派の日本男児と自由でモダンでおしゃれなシティボーイ。
個性の違いは一目瞭然です。
小磯良平は1903年神戸生まれ。東京美術学校を首席で卒業しヨーロッパに渡ります。
デッサン力に優れ、清楚な女性像を多く手がけました。晩年には文化勲章も受賞した洋画の巨匠です。
吉原治良は1905年、大阪淀屋橋の植物油問屋の次男坊として誕生。独学で絵を描き始めます。関西学院在学中に個展開催。抽象的で前衛的な作品を手掛け、国内外の美術界に影響を与えた、モダニズム絵画のパイオニアです。
この二人、直接的接点はほとんどないとのこと。
会場には小磯作品79点、吉原作品89点。それに加えて資料61点。 計229点が並んでいます。
まさに、ギュウギュウ詰めのてんこ盛り。
第1章 1920年代:初期の画業
小磯は東京美術学校在学中、1926年第7回帝展で《T嬢の像》が特選を獲得、
学校を首席で卒業した後は、ヨーロッパに渡ります。
まさに、画家の王道を進む小磯。
右 小磯良平
《T嬢の像》1926年 油彩・布
兵庫県立美術館
吉原は、独学で絵を描き、1928年には初個展を開催します。
このころ、作品を観た藤田嗣治に「他人の影響がありすぎだ。」と指摘を受け、衝撃を受けます。その後の吉原のモットーである「人のまねをするな。今までにないものを作れ。」というオリジナリティ・パーソナリティを重視するきっかけとなりました。
右 吉原治良
《芦屋川の見える静物》 1928年 油彩・布
芦屋市立美術館
第1章では、絵画を描き始めた二人の初期の作品を紹介しています。
第2章 1930-40年代前期:充実と激動の時代
ヨーロッパから帰国した小磯は、1932年、初の個展を開催します。
しかし、高い技術力が軍部の目に留まり、従軍画家として戦地に赴くことにもなります
吉原は家業の製油会社の経営の傍ら創作活動を続けます。
青を基調としたシュルレアリスム的な作品です。
デッサン力はあまりありませんが、発想力と色彩、絵肌での工夫が見られるとのこと。
確かにワンちゃんの足の感じがちょっと・・・(^^;
作風は変化し、風景を分解して描く抽象画を手掛けるようになっていきます。
第3章 戦後 1950年代前期:変革の時代
敗戦後の日本。荒廃した文化の復興のために芸術家や文化人が力を結集しました。
小磯や吉原も、雑誌の表紙や図画工作の教科書の監修に取り組みました。
2人は同じ雑誌の表紙を手掛けていますが、ここでも個性の違いがはっきりとわかります。
創作活動においては、小磯は戦争画の制作で身につけた「群像表現」に力を入れていきます。
戦後の復興を、気持の高揚をみなぎらせるような作品です。
吉原は、戦争で失ってしまった、「人間性」を取り戻すため、小鳥や子供といったモチーフを手掛けます。
第4章 1950-60年代:暗中模索と後進育成のはざまで
小磯は1952年から母校の講師となり、後進の育成につとめます。
一方吉原も、1954年に「具体化美術協会」を立ちあげます。
若き後輩たちの作品を目の当たりにして、
何かを伝えなければという思いもあり、
2人の作品の傾向が変わっていきます。
第5章 晩年:飛躍と成熟の時代と終焉
自分の描きたいものがようやくわかってきたころの2人。
吉原は、それが有機的な「円」でした。
表情豊かで一気呵成に描くことはできない、生き物のような呼吸さえ感じられるようなそんな「円」
↓亡くなる一年前に描いた作品で、おそらく連作を意識したもの。
フォルムとしての「筆書き」をモチーフにしていると考えられます。
一方の小磯。このころ具象画が再び注目されるようになります。
そこには物語はなく、日常の、目の前に展開される風景を技巧的ではなくそのまま描く。
人が複数いる群像画と室内の調和を「破たんなく描くことができた」まさに集大成と言えます。
経歴も個性も対照的な二人。
時系列に並行して作品を並べていくと、
同じ時期に作風の転換期を迎えていることが見て取れます。
時代の影響、人生の節目など、様々な要因があると思います。
が、いずれにしても、会場にいると、2人の偉大な個性が降り注いできます。
作品たちに、いい意味で翻弄され、かき乱され、振り回されるという濃密な時間を過ごすことができました。
この二人の世界、感じてみてください。
特別展「小磯良平と吉原治良」展は
兵庫県立美術館で、5月27日(日)で開催されています。
濃いですぞ!
兵庫県立美術館HP↓
http://www.artm.pref.hyogo.jp/