目に入った筋交いの
陰影の美しさに誘われて
鉛筆を走らせた。
窓から差し込む柔らかな日差しと
壁や薪ストーブの煙突やレンガ壁の作り出す
空気と光の粒子が穏やかに漂う様
木材の温かく柔らかな質感と
角材の辺と角が鋭角に組み合わさる硬質な印象
様々な要素によって成立した
今ここでしか見られない
とても美しい光景
時間の感覚を失い
自分が何者であるかなど関係なくなり
今ここにあるのは
ただ美しい光景とそれを見る自分のみ。
20センチにも満たない小さな画面に
その事実を再現することに没頭し、
結局は納得しきれない思いを抱えつつ鉛筆を置く。
「この美しさを正確に再現するのは
私の技量では無理だ・・」
それでも
絵描きが画面と向き合うのは、
0.01ミリ単位で線の位置と太さにこだわり、
明るさや色を何度も塗り直すのは、
美の真髄に触れたいからなんだろう。
音楽家が微妙な音質や音量や長さにこだわり、
詩人が慎重に言葉を選び、
数学者が数式に魅せられ、
対局中の棋士が長考に沈むのは、
最後には己の力の至らなさに落胆したとしても
美しさの真髄に肉薄せんとする過程が楽しいから。
無極の彼方への
果てしない旅。
久しぶりにいい時間でした。