太宰治 ADHD (注意欠陥・多動性障害)説 富永國比古 その1 | やるせない読書日記

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 副題は医師の読み解く「100年の謎」。精神医学

の観点から病跡学的に太宰治を解明したもの。20

10年刊行。筆者は1949年生まれ。産婦人科専門医。

医学博士・公衆衛生学博士(米)。

 では、面倒くさいがADHD とアスペルガーの

定義を書こう。厚生労働省のeヘルスネットから

要約。

 ADHDについて

 ADHD(注意欠如・多動症)は不注意と

多動・衝動性を主な特徴とする発達障害のひとつ。

ADHDの有病率は学齢期小児の3〜7パーセント

程度。ADHDをもつ小児は家庭・学校生活で様々

な困難をきたすため、環境や行動への介入や薬物療

法が試みられています。

 ADHD発症の要因として前頭葉や線条体などの

部位のドーパミンの機能障害が想定され、遺伝的

要因も考慮される。

 アメリカ精神医学会の「精神疾患の統計マニュ

アル第5版」にある症例が全て認められる時、A

DHDと診断される。

 ADHDは成人になれば、治る人もいるが、太宰

の場合は成人になっても、その症状があるアダルト

ADHDであったと著者は述べている。

 ADHDは多動性、注意障害、興奮性、衝動性の

四領域で症状が出現する発達障害である。しかし

必ずしもこの四つが全てそろうとは限らない。

 症状は幼児期から出現するが、症状の現れ方

は年齢とともに変化し、大人になっても持続す

ることが特徴である。過去三十年にわたる多く

の研究者の追跡調査によれば、小児期にADHD

の既往をもつ成人の三十一%から六十六%が

成人してもその症状をゆうしていると言われて

いる。

 著者は次に、太宰の著作や友人・近親者の

太宰についての記述からADHDの症例を挙げて

いく。

 【ADHDの基本的症状について】

多動、不注意、衝動性、仕事の先延ばし傾向

感情の不安定、低いストレス耐性、不安を抱

き安い傾向、対人関係の不器用さ、低い自己

評価と自尊心、新規追求と独創性。

 【その他の副次的症状について】

片づけができないこと、事故を起こしやすい

傾向、睡眠障害と昼間の居眠り、爪かみ、チ

ック、貧乏ゆすり、時間感覚と方向感覚の

障害、嗜好品依存、耽溺の傾向(アルコール

薬物、過食、ギャンブル、買い物、セックス

など)

 正に、太宰治的である。いろいろ例を挙げて

いるが逐一書いているとシンドイので要点だけ。

 ①空気が読めない太宰治

     客として訪れた家で、すき焼きでもてなされた。

  太宰は高価な牛肉ばかり食べていた。

 ②鋭いひらめき、深い洞察

   天才的な科学者であったニュートン、アイ

  ンシュタイン、ベートーベン、モーツァルト

  など、歴史的なアダルトADHD者とされてい

  る偉人たちに共通するのは特定の物事に対す

  る強い関心、集中力、深い洞察力である。

  太宰も同様の天才があった。

 ③優柔不断・不器用

 ④こだわり

  些細なことにこだわる癖があった。

 ⑤過集中と無関心

  興味のあることと、そうでない事に対する

  関心の度合いの落差が大きい。家財道具類

  には一切関心がなく、風呂にはいることも

  関心外。

 ⑥多動性

 ⑦衝動性と不器用な対人関係

  太宰はしばしば飲み屋で喧嘩をした。所謂

  きれることが多かった。

  このエピソードには、感情のセルフコントロ

  -ルができず、衝動的でキレやすく、人の話

  を最後まで聞けないなどの大人のADHDに見

  られる特徴が顕著に表れている。ADHDの症

  状は発達段階で異なり、大人では子供のADH

  Dの特徴である「多動」が改善し、「不注意」

  と「衝動性」が前景に出てくる。太宰の場合、

  「衝動性」が成人するまで残っていたようで

  ある。

 

 さらに太宰には「アスペルガー症候群」(as)

も認められる。

  「アスペルガー症候群」の由来は、ウィー

ンの医師、ハンス・アスペルガーからきている。

 高度に知的で自閉症的傾向を持つ人の、強い

忍耐力、完璧主義、抽象的思考力、社会的には

規律や他人の意見に対する無関心な態度

どが、科学や芸術の分野で多大な力を発揮する

ことを発見した。

  ASと前述のADHDは合併してることが多く

 その割合は約三割である。太宰の場合も、

 両者が合併していたと考えるのが妥当である。

  成人のASの診断がきわめて難しいという

 ことは、多くの専門家が指摘していることで

 ある。その理由は、境界性人格障害と統合

 失調症と共通している部分が多いからであ

 る。ASの特徴は、簡単にまとめると

 ①社会性の障害(極端な自己中心性)

 ②コミュニケーションの障害

 ③反復性の行動と限局性の興味

 

 でまあ、この本で、僕が一番、興味深く

思ったのは、次の箇所である。

 

 最近私は、重大なことに気がついた。それは

太宰が小児期に、じつにひどい性的虐待を受け

ていたこと(「愛と性と死 精神分析的作家論」

福島章)と無関係ではないのである。太宰が受け

た性的な虐待は、「思い出」や「人間失格」に

その傷痕が残されている。

 

 8歳のころ、14,5歳の子守りから、裏の

草原で抱かれ息苦しいこと〉を教えられ、小学

校のころ、〈下男がふたりかかって〉自慰を

教えられた。 「晩年」

 

 その頃、既に自分は、女中や下男から哀しい

事を教えられ、犯されていました。幼少の者に

対して、そのような事を行うのは、人間の行い

得る犯罪の中で最も下等で残酷な犯罪だと、自

分はいまでは思っています。しかし、自分は

忍びました。  「人間失格」

 

 幼児にとって、他人の欲望のために自分の

身体が「道具」としてあつかわれ、性的刺激に

よって快感を体験させられ、それを受けいれざ

るを得なかったことは大きな外傷体験になる。

自己と他者の境界が混乱してしまうのである。

 高校生のとき、読んだ「人間失格」の上記の箇

鬱屈した気分にさせられた。事実かどうか

など、普通の読者は考えもしないが、実体験と

してあったことなのだろう。

 太宰に幼児期の性被害があったとして、論考

は進む。

    一応、ここまで、書いているとしんどくなる

続きは後日。