太宰治は39歳で死んでしまうが、その三年前の36歳の時の作品。晩年、だんだんおかしくなって
人間との紐帯がなくなってしまうが、この作品は安定した情緒を持っている。どこかの書店の求めに
応じて生まれ故郷、津軽を紀行文として書いた。
二度読みしたり、関連書を読むのが面倒臭いので単純な読書感想として言えば非常に面白かった。
若い頃、何冊か太宰を読んだが過度のナルチシズムと東京人にある粋が感じられなくていやだったし、
徹底的に太宰から遠ざかったのは吉本隆明が太宰をもちあげているのが気に入らなかったからだ。
であるが太宰はやはり天才であることは間違いない。面倒くさいから引用しないが文中、芭蕉の俳句
の鑑賞に卓抜な見解をみせているし、文章力は卓越している。
最後に太宰の乳母だった「たけ」との邂逅で作品は収斂していくが、「仮面の告白」で園子が「わたし」に
ミッキーマウスの絵柄のついた封筒でラブレターを渡すときと同じくらいの文学的興奮を味わった。
乳母といっても太宰とは11歳しか違わない。太宰が三つのときに十四歳のたけが奉公にきたのだ。
詳しく書く気がしないが、もしこれが本当のことであったのなら女というものは本当に恐ろしいと太宰と
たけとの再会の場面を読んでそう思った。女性の母性とか愛情という事に関してではあるが。
気が向いたらあとで詳しく書こうとは思いますが。