成りあがり  矢沢永吉 | やるせない読書日記

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 メモを取ったり、二度読みしたりの必死こいた読書ではないが、一応、感想で

も。就職して何年かたってこの本を読んだ。当時、矢沢は松田雄作、ショーケン

と並んで男のアイドルだったと思う。今回、再読のために買った本の奥付けを見る

と初版は昭和53年、平成19年で改訂五版。実に長い間、若者の支持を矢沢は得て

いるのだ。
 
 何年か前、矢沢のライブを武道館に見にいった人がまるでヤンキーの集会だ

ったとの感想。ライブ会場の近くの駐車場にはE・yazawaのステッカーが貼って

ある車が駐車してあり、バーベキューをやっているヤンキーもいる。ヤンキーは

喧嘩するので会場での飲酒は禁止。矢沢グッズは馬鹿売れ。ライブが始まると、

立たないと、怖い人に怒られる。トラベリング・バスではタオルを投げるように

渡される。まあ、そんな具合らしい。

 今の矢沢の音楽をネットなどで見ると、キャロルの頃よりテンポが遅くなり

それに従って、日本風のコブシが加味され演歌っぽいというか、人をどやしつけ

ている様に聞こえるのは気のせいか。これは矢沢に限らず、日本語で「ロック」を

やる限界であると思う。日本語は音節が長く、母音が多く英語が産んだロックの

ノリにはそぐわない言語であるようだ。例えばサンシャイン・オブ・ユァ・ラブ

はリフにそのまま歌詞が載っていくが、日本語では不可能だと思う。同じことは

ディ・トリッパーにも当てはまり、あのビートのメロディを日本語で歌うのは無理

だ。

 キャロルを解散してから矢沢の曲で好きなのはトラベリング・バスとチャイナタ

ウンくらいしかないが、キャロル時代に作った曲はみんな好きだ。というか、これ

ほど完璧にロックンロールを体現できたバンドは世界中でビートルズとキャロルく

らいしかない。若い頃は半分、馬鹿にしていたが年月を経て、ギターも少しは弾ける

ようになり、色々な音楽を聴いてみるとキャロルは本当に凄いバンドだったというの

が良く分かる。

 つい最近、あるバーで矢沢がキャロルを解散した当時、作ったデモテープを聞かせ

てもらったことがある。ギターの弾き語りで出鱈目な英語もどきで歌っていたが、こ

れが滅茶苦茶素晴らしい。声が甘くて高い若い声でミディアムより少し速いテンポで

歌われているメロディーはまるでポールの作曲であるように素晴らしかった。曲想が

初期のビートルズに似ていた。これにちゃんとしたプロデューサーがつけば、世界的

なレベルで「ビック」になれたと思う。矢沢の作曲の才能に関して「成りあがり」を再

読して驚いたのが以下の件である。

 オレ、二十八年間も人間やってて、ミュージシャン

 もそうとう長いことやってて、金払ってレコード買ったの何枚あると思う?

 レコード屋行って、買ったの。
 
 四枚。

 ビートルズの「ラバー・ソウル」、バリー・ホワイトの「愛のテーマ」、ナタリー

 ・コールのなんとか。ナタリー・コールのは、一曲だけ好きな曲があって、それを

 持参しなけりゃならないラジオ番組があってね、で、買ったの。ほんとは、シン

 グル盤があれば、それでよかった。

  あと一枚は、井上陽水の「氷の世界」。なんで百五十万枚売れるのか研究して

 みようと思って。

  わからなかったけどね、結局は・・・・・・。


 この件を読んで、本当に驚いた。ほとんどまともに音楽聴いていないのに作曲でき

るというのは俺にとっては了解不能である。そういえば、これに似た事をチャック・

ベリーの自伝で読んだことがある。確かチャック・ベリーは還暦を迎えるまで、本を

六冊しか(多分)読んだことがないが「想像力」でいくらでも詞を書けるというもの

だった。寺山修司の優れた俳句は中学生時代に作られたし、ポールが「ウェン・アイム・

シクスティフォー」を作曲したのも十三、四の頃だったと思う。

 このように、ある種の芸術は教養とか修練とかに関係なく生み出されるものだろう。

 その他に「類書」としてジョニー大倉の「キャロル 夜明け前」を読んだ。キャロルは

ジョニーが作ったものを矢沢が乗っ取ったという説がある、それを確かめたくて読んだが

キャロルは間違いなく矢沢永吉が作ったものだ。また、キャロルは横浜のライブハウスで

は矢沢が作った曲にジョニーが英語で歌詞をつけていたこと。デビューに当たって、英語

の歌詞を音感が似ている日本語に当てはめる作業をジョニーがやったことなどが分かった。

 矢沢が音楽をやっていなかったら、ヤクザ屋さんで出世したとか、本当は孤独な人である

とかは「成りあがり」を読めば誰でも得る感想であると思う。俺としては一番、驚いたの

が上記のミュージシャンで二十八歳までレコードを四枚しか買わなかったという件である。

 キャロルはビートルズのように知的な発展はしなかったと思うが、後、一年くらいは

やって欲しかった。

今でも、「キャロルの「彼女は彼のもの」を聞くと、あんまり良くて涙ぐんでしまう。

世界の坂本龍一ぐらいでは、こんないい曲作れないと思う。

 蛇足だが矢沢は女にモテた。ユーミンの「ルージュの伝言」のモデルが矢沢なのは

有名な話だが、山口小夜子(もう知ってる人は少ないか)が矢沢と付き合っていたら

しい。まあ、女がほっておかないんだろうなあ。